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第十五部第四章 前哨戦その六
「極論を言えばスポーツは戦場で戦う為に自分の身体を鍛えるものなのだ。これでわかるな」
「よくわかりました」
「だからだ。勘もまた必要だ」
 彼は言った。
「そうした意味でタンホイザー元帥は正しい。しかしな」
「しかし」
「彼程の勘の持ち主はそうはいない。あれは最早天才の域だ」
「つまりそうおいそれと真似できるものではないと」
「彼の他にああした戦い方ができる者がいるか」
「いえ」
 これはすぐにわかった。将校は首を横に振った。
「やはりタンホイザー閣下の戦術は。あの方にしかできないものであると思います」
「そうだな。私にも無理だ」
 モンサルヴァートは述べた。
「ああした戦い方は。将に天才だ」
「はい」
「天才というのは特別な存在だ。誰かに言われる前にもう知っている」
 歴史上天才と言われる人物は稀である。モーツァルト然り。彼は幼い頃から作曲をはじめ、ピアノを弾いていた。そして三十五歳で夭折するまでに多くの曲を残した。そこには一作も駄作はないとまで言われている。とりわけオペラにおける才能は驚嘆すべきもので多くの解釈まで可能である。そして彼はその音楽の才を全ての登場人物に与え、人格を作ったのである。モーツァルトのオペラには端役はない、とまで言われている。
「彼もまたそうだ。こと戦場のことにかけては彼以上の天才はいない」
「そういえば初陣でいきなり五隻の敵艦を沈められたそうですね」
「士官学校を卒業してすぐにな。それから瞬く間に元帥に昇進した」
「はい」
「だが彼は階級にはあまり興味がないようだな。それよりも戦場にいたいようだ」
「ただ戦いだけを求められているということですか」
「それが天才の天才たる由縁の一つだな。欲がない」
 モンサルヴァートは言った。
「だからこそ天才なのだろうがな」
「今回はその天才に救われましたね」
「ああ。正直今補給路を襲われては恐ろしいことになる」
 彼は言った。
「やはり十個艦隊では無理があるか」
「はあ」
「そこもよく考えておくか。しかしこれ以上前線に戦力を向けないのもな」
「それはそれで厄介なことになりますね」
「そうだ。問題は多い。一度参謀総長とも話してみる」
「わかりました。それでは」
「食事の後ですぐに話をしよう。ところで」
「何でしょうか」
「いや、卿ではない」
 彼はこう言うと後ろに控える従兵に顔を向けた。
「デザートを持って来てくれないか」
「畏まりました」
 食事の最後のデザートである。これもまた形式であり崩すわけにはいかない。司令官の食事もまた一つの形式なのである。軍隊、とりわけ貴族の軍隊であるエウロパ軍はとりわけ形式を重要視する。この時もそうであった。
 デザートが運ばれて来た。チョコレートパウダーを多くまぶしたティラミスであった。モンサルヴァートはそれをフォークとナイフで切り口に入れた。
「如何でしょうか」
「今回のティラミスは甘さを抑えているな」
「はい。シェフは素材を活かすことを考えられたと仰っています」
「そうか。だからか」
 彼は味わいながら応えた。
「そしてお味はどうでしょうか」
「いい。むしろ甘みを抑えたことが成功している」
 そしてこう述べた。
「今度からこれで頼みたいな、ティラミスは」
「わかりました。ではその様にお伝えします」
「明日もティラミスで頼むと伝えてくれ。そして期待していると」
「はい」
 こうして食事は終わった。彼はその後で会議室に向かいプロコフィエフと主立った参謀達との話し合いに入ったのであった。

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