第十五部第二章 助演者達の思惑その十六
アッディーンもまた動いていた。だが彼は影の面での動きはとってはいなかった。
その日々を執務室、そして会議室で過ごしていた。軍政に専念していたのである。
「軍政というのも疲れるものだな」
彼はその日の午前の会議を終えた後副大統領府のカフェでこう呟いた。その手にはコーヒーとチョコレートケーキがある。ケーキは無論エウロパ風ではなく連合風の派手な装飾のケーキであった。それと砂糖を入れないブラックコーヒーを飲みながらハラス大将と話をしていた。彼はもう完全にオムダーマンの将となっていた。
「会議とデスクワークばかりだ。これが平和というものかな」
「そうですね」
ハラスはまずはその言葉に頷いた。
「ただ。これはまた次の戦争への準備です」
「それはわかる」
アッディーンはコーヒーを一口飲んだ後で応えた。そしてカップを置いて言った。
「次はハサンとの戦いになるかな」
「地理的に言いますとそうなるかと」
ハラスは答えた。ここには誰もいないからこそ言えることであった。盗聴器等のチェックは欠かしていない。
「ただ、ハサンは大国です」
「うむ」
「今までの敵とは違います。南方での戦いとはまた違ったものとなるでしょう」
「南方か」
アッディーンはそれを聞いてふと思い出したことがあった。
「あの時は迷路の様な地形に悩まされたな」
「はい」
「ゲリラ戦術にも。慎重に進軍したものだ」
「その介あって戦いを有利に進められましたね」
「ハサンはゲリラ戦術を使うと思うか」
「先程の会議でも出ましたが」
午前の会議はハサン軍に関する会議であった。その席においてハサン軍の戦略戦術に関して詳細な意見が交あわされたのであった。
「彼等は大国です。サハラで第一の」
まずはそこから話をはじめた。
「その為兵もまた多いです」
「うむ」
「ですからゲリラ戦術よりは正攻法で以って来るでしょう」
「正攻法か」
「はい。おそらく正面からの戦いになる筈です」
「だがゲリラ戦術への備えもしておこう」
アッディーンはここでは慎重案を述べた。
「敵も愚かではない。こちらの虚を衝こうと考えているだろう」
「はい」
「あらゆることに備えておかなくてはな。いざという時困る」
「ですね」
ハサンはアッディーンのその言葉に対して頷いた。
「普通はそうなのです」
その言葉の口調が少し変わった。
「普通は。ましてや」
「サラーフのことか」
「はい」
彼は答えた。
「あれはな。あまりにも愚か過ぎた」
「あれがサラーフのマスコミ、そしてそれと癒着した政治家の正体だったのです」
忌々しげにこう述べた。
「腐敗と言わずして何と言いましょうか」
「あれには私も驚かされた」
アッディーンも述べた。
「軍の行動から何から何までテレビで言っているのだからな。おかげで作戦が立て易かった」
「連中はそういうことすらわかっていなかったのです」
ハラスはまた述べた。
「私の失脚を狙ったものだったようですが」
「ミツヤーンの時もそうだったな」
「あれは絶対に勝てると思っていたようですから。宣伝のつもりだったのでしょう」
「あそこまで楽な戦いはなかったがな」
アッディーンは言葉だけで笑ってこう返した。
「あんな軍隊ははじめて見た。何もかもが出鱈目だった」
「そうだったようですね」
この時彼は更迭されていたのである。他ならぬナベツーラ、そしてミツヤーンの手によって。
「倍程の戦力差だったが。損害はこちらの方が信じられない程少なかった」
「そうだったようですね」
「戦略も戦術もあったものではなかった。あれだけ楽な戦いはそうはないだろうな」
「それがマスコミの実態です」
ハラスはコーヒーを置いてから言った。
「マスコミというのは厄介な存在でして」
その害毒に苦しめられてきたサラーフ出身だからこそ言えることであった。
「自分達が最も偉く、賢い存在だと信じ込んでいるのです」
「滑稽な話だ」
「情報網を持っているからです。しかし実態は」
言葉に含まれた苦さがさらに強くなる。
「あれ程愚かで腐敗し易い存在もありません。そもそも自分達へのチェックなぞ考えもしないのですから」
「だからか」
「はい」
彼は答えた。
「だからこそサラーフは滅びました。マスコミの手によってね」
「ナベツーラの為ではなく、か」
「あの男もマスコミでしたから」
彼は言った。
「完全に癒着しているという意味で。マスコミの寵児なぞああした輩に過ぎないということです」
「よくテレビでは下品な発言ばかり繰り返していたそうだな」
「はい。取り巻き連中も」
「それが批判どころか絶賛されていたそうだが」
「英雄的発言としてね。マスコミというのはダブルスタンダードの権化ですから」
「また随分と嫌っているな」
「当然です」
彼は応えた。
「あれだけ醜いものを見せられたのですからね」
「ではネットについてはどう思うか」
ここで彼はマスコミとは正反対で対立する存在を出してきた。
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