第十五部第二章 助演者達の思惑その六
「ヴィシュヌ神やシヴァ神がそうであるように」
「言われてみればそうだな」
これはムルワーラにもわかった。ヴィシュヌにしろシヴァにしろその姿を自由に変えることができるのである。ヴィシュヌは時として英雄クリシュナになり、時として勇敢な王子ラーマになる。そして仏陀にもなるとされているのである。人に生まれ変わることも普通なのである。これがヒンズーであった。
「しかしイスラムと我々は全く違う神だな」
「はい」
「これはどう説明できるかな」
「世界も、宇宙もまた一つではないということでしょう」
彼はこう答えた。
「一つではないか」
「はい。我々の宇宙はヒンズーの宇宙です」
「うむ」
「連合にもそれはかかっております。ですがサハラの宇宙はサハラの宇宙なのです」
「全く違う世界だと言いたいのだな」
「はい」
ボパールはまた頷いた。
「そういうことになります」
「成程、よくわかった」
ムルワーラはそれを聞いて納得したように頷いた。
「そう言われるとわかり易いな」
「ええ」
これはこの時代独特の考えであった。宇宙は決して一つではない、それがこの時代の人類の宗教における考えの一つであったのだ。
社会も世界も複雑に多層、そして並列に存在している。人類は長い思索を経てようやくその考えにまで辿り着いたということである。
それまでに実に多くの血が流れたがようやく克服されたと言ってよかった。人間は愚かな一面もあるが進歩するということの証左の一つであると言えた。だがこれはあくまで宗教や哲学での話であり、利害はまた別であった。そうした争いはやはり存在しているのであった。
「ではサハラはサハラでいいな」
「はい」
「連合は我等の世界も入っている。これで納得がいった」
「有り難うございます」
「そのうえで話を続けようか」
「はい」
こうして二人は話を戻した。
「あの三国にもやはり優れた人物を送るべきなのは事実です」
「うむ」
「交易等での重要度はやはり高いものがりますから」
「それはあるな」
ムルワーラはそれには同意した。
「地位も高い者を送るか」
「はい」
「だが三国にはタフ=ネゴシエーターは必要ないか」
「ある程度の能力の持ち主でいいと思います」
「そして日本等には地位はある程度低くとも優れた者を」
「それで宜しいかと」
「だが日本は厄介だな」
ここでまた一つ頭を悩ませる問題が生じてきた。
「一体誰を送るべきか」
ムルワーラは腕を組んで考えはじめた。
「地位も高く、そしてとりわけ交渉に秀でた者だが」
「では私が行きましょうか」
「君がか」
「はい」
その声が強いものとなった。
「いいのか」
「はい。以前外務省にいたこともありますから」
そしてこう述べた。
「日本大使館にも赴任したことがあります。これはお話していたでしょうか」
「そういえばそうだったな」
「ですから日本はお任せ下さい。首相補佐官では地位的にもいいでしょう」
「そうだな」
「それではその時は私が行きます」
「うむ、頼むぞ」
「お任せ下さい」
これで日本へ行く者までもが決定した。マウリアは既に戦後に向けて動いてた。今戦いの先はこの調停者によって定められようとしていたのであった。
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