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第十五部第一章 放浪の果てにその十二
「何か。今一つ面白くないですね」
「そうは言っても仕方ないわ」
 だがそんな彼とは対象的にカバリエの顔には余裕があった。
「利用されるのも。時として必要よ」
「我々の利益になるのなら」
「ええ。今回は乗ってみるべきかしら」
「彼等にしてみれば双方に恩を売る絶交の機会」
「特に我々に」
「それではここは乗りますか。にこやかな顔で」
「わかってくれたようね」
「これでもこの世界に入って結構経ちますから」
「経験というのかしら」
「そうですね。やはり政治の世界も経験です」
 そう応えながら茶を口に入れる。八条はこの時緑茶を飲んでいた。カバリエはコーヒーである。八条だけが飲み物を変えていたのであった。
「経験から多くのものを学んできました」
「そうね。流石は伊藤首相の秘蔵っ子」
「からかわないで下さいよ」
「あら、私は人をからかったりしないわよ」
 そう言いながら悪戯っぽく笑う。豊満な顔ににこやかな笑みが浮かぶ。
「特に若い男の人はね」
「そうですかね」
「ましてや伊藤首相の生徒を。後が怖いわ」
「そんなに首相は怖いですか」
「外国人にとってはね」
 笑みをたたえ続けながら言う。
「手強いわよ、本当に」
 日本以外の国では伊藤は非常に厄介な政治家として知られている。知的な美貌とはうらはらに強かで尚且つ粘り強い外交を得意としている。彼女は内政においてもそうであるがそこに的確な情勢判断と実務処理も加わる。単なる学者出身の政治家ではなかった。生来の政治センスも併せ持った稀有の政治家であったのだ。だからこそ『女狐』とさえ言われるのである。その狐には各国が手を焼いているのである。
「メキシコもあれで煮え湯を飲まされてるから」
「はあ」
「といっても今貴方に言っても仕方ないのだけれどね」
 それぞれの国の政府にいるのならともかく今八条とカバリエは連合中央政府において共に閣僚となっている。それでは対立するわけにはいかない。彼等もお互いにそれがわかっており、また個人としても相性が悪くはなかった。だからこそ今もこうして普通に食事を採りながら話をしているのである。
「中央政府とはまた別だから」
「はい」
「とりあえず講和の件はこれで終わりね」
「はい」
「それにしても今回は結構驚かされたわ」
「マウリア側にですか」
「ええ。本当にね。手強いというか」
 今度は苦笑いになってきていた。
「強かというか。今のマウリア政府は中々手強いわよ」
「そうですね」
 これは八条も同意であった。
「国防省でもそれは話に出ています」
「やっぱり」
「交流に来ている軍人達ですが。あれでかなり優秀です」
「技術やシステムを盗まれたりはしていないわね」
「最も重要な部分はブラックボックスにしております。そこは大丈夫です」
「だったらいいけれど」
「ただ」
「ただ。何かしら」
 カバリエの目の色が少し変わった。
「どうも彼等は我々の艦艇や兵器を見てそこから何かを知ろうとしているようです」
「敵もさる者ね」
「時間のリンクはわかりませんが。何年かかっても身に付けようと考えているようです」
「流石はマウリアといったところかしら」
「もしかするとティアマト級をあちらで建造するかもしれません」
「あれを」
「ええ」
 八条は言った。
「まさかとは思いますがね」
「あれは確か連合の科学力、技術力を結集して開発されたものだったわね」
「他の艦艇や兵器も同じです。容易にコピー等はできない筈ですが」
「彼等は私達の予想を越えている可能性もあると言いたいのね」
「連合やエウロパ、サハラにある国ならある程度は予想できたりもするのですが」
「相手がマウリアではね」
 結局話はそこに行き着いた。
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