ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第十五部第一章 放浪の果てにそのニ
「聖地を取り戻すことができぬ者に聖地を見る資格はない」
 こう言ってエルサレムから去った。そして以後十字軍がエルサレムを取り返すことはなかった。敗退に敗退を重ね遂には中東からキリスト教国はなくなってしまった。後には十字軍の残虐な行為の跡と多くの副次的な遺産を残して。
 それから以後はオスマン=トルコによりこの地域は治められた。だがそのオスマン=トルコが衰えるとまた欧州から侵略者がやって来た。今度は土地ではなく石油を狙って。こうして彼等の受難はまたはじまった。
 それが宇宙の時代になり終わると彼等はまた侵略を受けることがなくなった。だがエウロパの人口が過密になってくると彼等は植民先としてサハラ北部に狙いを定めてきたのだ。そしてまた侵略を行ないそこにいたサハラの者達を追い出して自分達が居座った。それが総督府であった。
「最早総督府はなくなったそうだな」
 マシュハドは乗艦ロスタムの艦橋でふとこう言葉を漏らした。それに傍らにいたワフラが顔を向けさせた。
「そのようですね」
「ということはあの地はもうサハラの手に帰したか」
「はい」
 ワフラはその言葉に対して頷いた。
「今はティムール領となっております」
「そうか」
 彼はそれを聞いて考える顔になった。
「では我等はティムールの者ということになる」
「あちらに帰れば」
「サハラに帰れば、か」
「はい」
「まるで夢のような話だな」
 そう言って遠くを見た。
「ここにいる者達は皆かってエウロパによって故郷を追い出された者達だ」
「はい」
「難民だ。だがもう難民ではなくなったというのか」
「エウロパがいなくなりましたから」
「そうだな。そういう意味でもう難民ではない」
「ですな」
「だが。帰るべき国がないということではまだ難民だ」
 それでもあえてこう言った。
「わしはアッバースにいた」
「アッバースですか」
「エウロパの侵攻により滅ぼされた。そして全てを失った」
「はい」
「我々も善戦したつもりだったがな。数には負けた」
「丁度今の彼等のようにですな」
「そういえばそうだな」
 言われてようやく気付いた。
「我々も物量に負けたが。彼等もそれで負けている」
「はい」
「だが彼等にはもう一つのカードがあったからな」
「謀略と外交ですか」
「それを侵略に絡めてきた。それで多くの国が滅んだ」
「アガデスもそうでしたな」
「アガデスだけではない。他の国もだ」
 マシュハドの言葉がさらに苦いものとなった。
人気サイトランキング site_access.php?citi_id=254078182&size=200小説・詩ランキングcont_access.php?citi_cont_id=343008101&size=200


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。