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第十四部第二章 鉄の壁その四
「まるで大昔のSF映画に出て来るUFOみたいだな」
「また懐かしいお話を」
「いや、本当に。子供の頃見た映画で実際にあんな形の円盤が出て来たのだ」
「その中に乗っているのは宇宙人ですな」
「よく知っているな」
「知らない筈もないでしょう。我々は今実際に宇宙におりますし」
「ふむ」
「そうした本も読んでおりますよ。子供の頃から」
「卿は本でUFOを知ったのか」
「よくあるオカルト雑誌で」
 彼はそう答えた。
「異星人が出て来たとか。私が見たのはロボット型の宇宙人でしたかな」
「おお、あれか」
 マールボロはそれを聞いて顔に笑みを浮かべた。
「それなら私の観た映画にも出ていたぞ」
「そうなのですか」
「敵役でな。人類を侵略せんとする悪しき宇宙人の尖兵としてだ」
「よくあるお話ですな」
「だが面白かったな。最後はお約束だが」
「悪い宇宙人は撃退されるのですな」
「そうだ。エウロパ人によってな」
「では今回もそうなるでしょう」
「だな」
 彼等は退きながらもそう言い合って笑っていた。そこには余裕すらあった。
「敵は確かに手強い」
「はい」
「だがあの形の兵器を出してきた時点で全てが終わりだ」
「あの形の兵器を使う者が勝った作品はありませんからな」
「今後映画業界は大忙しだろう」
 いささかユーモアを込めて言う。イギリス人はこの時代においてもユーモアを嗜むのが貴族としての身だしなみの一つと考えられているのである。そしてマールボロはユーモアの名手としても知られている。
「私も映画に出るだろう」
「それは何よりです」
「ただし顔は全く違う」
「それは当然なのでは」
 マウントバッテンも乗ってきた。彼も貴族でありユーモアの嗜みはある。
「そう。しかしもう一つ決定的に違うであろう場所があるのだ」
「それは一体」
「ここだよ」
 そう言って自分の頭を指差した。
「流石にこれは変えられるだろう。映画の主役が禿頭では絵にはならない」
「さて、それはどうでしょうか」
「それも違うのか」
「ナポレオンも髪の毛は薄かったようですぞ」
「ふむ」
 これは実際に彼が皇帝になってからの肖像画で描かれている。彼は小柄でありかつ頭が非常に大きかった。それだけにその髪の毛の薄さも目立ったのかも知れない。なお若い頃はそれなりに髪の毛はあった。
「ジュリアス=シーザーも」
「それは有名だな」
「御存知でしたか」
「知らない者もそうはいないだろう」
「言われてみれば」
 その通りであった。シーザーは全身の毛を脱毛し、髪の毛をカールにして、服にまで気を使いその男伊達ぶりをローマで見せつけていた。長身であった彼はそれだけで見栄えがあった。だがマスクや外見よりも言葉やそのカリスマで女性を魅了するタイプであったのだ。
 その彼の悩みが若禿であった。いつもその広い額を隠すのに苦労していたという。その苦労は死ぬまで続いた。彼の数少ないコンプレックスであったのだ。
「だが映画でも漫画でもシーサーもナポレオンも髪の毛はある」
「小説でも多くはそうですね」
「幾ら何でも見栄えがよくない。ましてやもう特効薬があるというのに」
「禿頭の」
「わしは使ってはいないがな。そこまでして髪の毛を生やそうとは思わん」
「左様で」
「禿るなら禿てもいい」
 彼は言った。
「そう思っていたら三十になると急に髪の毛が薄くなってきた」
「三十からですか」
「そしてこうなった。禿る時はあっという間だぞ」
「怖いお話ですね」
「薬があるにはあるがな。だが禿はまだある」
 まるで天然痘かペストのように言う。実際に人類の歴史書では禿頭の特効薬はジェンナーの牛腫に匹敵する程の評価を受けているのだ。他には水虫の特効薬の評価も高い。
「わしがその生き証人だ」
「身につまされるお話ですね」
「薬を使わないとこうなる、か」
「今からお使いになられては」
「今更何を」
 そう言って笑って返した。
「ここまで来たらかえって気分のいいものだ。何せ禿頭は滅多にいない」
「はあ」
「開き直るというのもいいものだぞ。この頭で辺りを照らすのだとな」
 だが連合軍の行く先を照らす真似はしなかった。彼の率いるエウロパ軍は一目散に元の陣地に戻ってしまっていた。そしてまた防衛に務めるのであった。
「速いな」
 マクレーンはその動きを見て思わず唸ってしまった。
「見事な動きだ。敵の指揮官は」
「マールボロ元帥のようです」
 幕僚の一人がそう答えた。
「マールボロ元帥か」
「はい。それが何か」
「いや」
 彼は少し間を置いてからそれに言葉を返した。
「慎重派と聞いていたのだがな。どうして大胆な動きをする」
「そうしなければならない状況ですし」
 それに劉が答えた。
「状況ですか」
「はい」
 そしてそれに頷いた。
「彼等はもう後がありませんから」
「ですな」 
 それはマクレーンにもわかっていた。こくり、と頷いた。
「それならば厄介ですかな」
「一面においてはそうですが」
 劉はそれに対して言った。
「ですが別の一面から見てはそうではありません」
「といいますと」
「長官もおわかりだと思いますが」
「ふむ」
 マクレーンはそれを聞いて楽しそうに笑った。
「あのことですかな」
「そうです」
 劉もそれに合わせて楽しそうな笑みになった。
「心理的に彼等が追い詰められているのは事実」
「はい」
「焦りが見られます。それを衝いていくとしましょう」
「了解しました」
 それを受けてマクレーンは全軍に指示を下した。連合軍は突如としてその進軍を停止したのであった。
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