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第三部第一章 侵攻作戦その二
 だが連合は違った。人類の約七分の六を擁しその力は圧倒的なものがある。そしてそれをもしサハラに向ければ。彼等は持つ者である。持たざる者ではない。無限とも思える開拓地がある。だがそれに目を向けず何かしらの事情でサハラに向ければ。それは死を意味していた。
「その可能性は全くないのが救いだな」
「そうですね。とりあえず今はサラーフのことを考えましょう」
「だな」
 彼の艦隊は入港した。そして彼自身も司令部に向かった。
 道行くところ兵士で溢れかえっている。オムダーマンとしてはじめてと言ってもよい規模の作戦であるからそれも当然であろう。
「こうして見ると壮観だな」
 彼は車の中でその将兵の姿と港に並ぶ艦艇を見ながら満足気に言った。
「はい、我が国はじまって以来の作戦に相応しいですね」
 参謀もいささか頬を緩ませていた。二人はやがて司令部に到着した。
「ハルシメル中将ですね」 
 門を護る衛兵が身分を確かめてきた。
「そうだ」
 彼は軽く微笑んで頷いた。
「身分及びボディーチェックをさせて頂きます」
「わかった」
 中々厳しい。将官といえとチェックを怠らないとは。彼は数人の衛兵によりチェックを受けた。
「ハッ、失礼しました」
 衛兵達を指揮する将校が彼に対して敬礼して言った。
「うむ、ご苦労」
 彼は穏やかに笑って敬礼を返した。こうしたチェックに気分を害する者がいないわけでもない。だが彼はそうしたことには気をとめる人間ではなかった。むしろ自らの職務を忠実に行なう衛兵達に対して賛辞を送る人間であった。
「ああした者がいるということは有り難いな」
 彼は車から出て司令部のビルに入りながら参謀に対して言った。
「ええ。多少厳し過ぎるかと思いましたが」
「それは違うな」
 彼は参謀に顔を向けた。
「あれ位でなくてはいけない。さもないとこの司令部に何かあってしまうだろう」
「それはそうですが」
「ああした仕事は厳しいにこしたことはないのだ。そしてそれを忠実に執り行なう者がいる。これは我が軍にとっての宝だと思うが」
 彼の言葉は謹厳なものであった。
「まあそう深く考える必要もないが」
 だがここで参謀を宥めるように微笑んだ。
「そうした真面目なことがどれだけ重要か、それだけわかってくれればいい」
「はあ」
「君はまだ若い。そうしたことを知るのも軍人として必要だ」
 そう話しているうちに会議室に入った。入口にいる兵士が彼を認めて敬礼した。
「暫くお待ち下さい」
 彼はそう言うと会議室に入った。そしてすぐに出て来た。
「お待たせしました」
 そしてハルシメルを案内する。彼は兵士に案内され部屋に入った。 
 部屋にはまだ誰もいなかった。彼は自分の席を見つけそこに座った。
 やがて他の提督達が入って来た。今回はオムダーマンの基幹戦力である宇宙艦隊十六個のうち十四個が参加する大規模な作戦である。ミドハド併合により拡充した戦力を投入するというものだ。
 参加する艦隊とその指揮官は以上の通りである。
 第二艦隊   ハルシメル中将
 第三艦隊   マトラ中将
 第四艦隊   カーシャーン中将
 第五艦隊   ラーグワート中将
 第六艦隊   ベニサフ中将
 第七艦隊   サリール中将
 第八艦隊   ナクール中将
 第九艦隊   アルマザール中将
 第十艦隊   カトラナ中将
 第十一艦隊 アタチュルク中将
 第十二艦隊 ムーア中将
 第十三艦隊 コリームア中将
 第十四艦隊 ニアメ中将
 第十五艦隊 アガヌ中将
 以上の艦隊により行なわれることとなっている。総司令官はアッディーン上級大将であり彼は既にこのカッサラにいた。なおカッサラに駐留する第一艦隊はカッサラ防衛司令官であるアジュラーン上級大将が司令を兼任しているが彼はカッサラ及び本土の防衛にあたることとなっていた。それだけでは当然足りず第十六艦隊も防衛にあたっていた。この艦隊は主にサラーフとの国境にあるブーシル星系にあった。
「これだけの艦隊を投入するというのも我が国では例を見ないな」
 ハルシメルはあらためて思った。参加兵力にして五千万、艦艇は補助艦艇も入れて二十万に達した。これ程の兵力を一度に動かすのはサハラでは他にハサン、そして侵攻相手であるサラーフだけであった。
「だが大兵力には大兵力の問題がある」
 そうであった。それだけ多くの武器、食糧、燃料の補給や調達も必要である。そしてその用兵もそれだけの苦労が伴うのだ。
「アッディーン司令は確かに今まで鮮やかな勝利を収めてきたが」
 彼は言った。
「それは少ない兵力いおいてだった。大兵力の運用は違ってくる」
 適正という問題もあった。少ない兵を率いる方が適している将もいるのである。
「どうなるかが問題だな。一歩間違えればオムダーマンの滅亡に直結する問題だ」
 もしこの作戦で致命的な敗北を喫したならば。その時はサラーフの反撃を受け今度はオムダーマンが侵攻を受けることになるのは明白であった。
 だからこそ今回の作戦は万全を期さなければならない。それはハルシメルも同じであった。
 やがて各提督達が入って来た。皆真剣な顔立ちである。
 そしてアッディーンが来た。提督達は彼の姿を認め一斉に席を立った。
 そして敬礼する。アッディーンはそれに対し敬礼で返した。
「諸君、今日はよく集まってくれた」
 彼は提督達を席に座らせた後自らも座り言った。
「今回の作戦だが」
 彼もまたその顔は真摯なものであった。
「サラーフ領侵攻作戦だ。そして一気にかの国を併合する」
 提督達はそれを黙して聞いていた。それはわかっていることである。
「敵は勢力を弱めているとはいええまだその戦力は侮れない。心してかかるように」
「司令」
 ここで提督の一人が手をあげた。ベニサフ提督である。
「何だ」
 アッディーンは彼に顔を向けた。
「敵艦隊の配置及び基地の状況はどうなっているでしょうか」
「それだが」
 彼はここでブザーを鳴らした。すぐに参謀達がやって来てモニターを映し出す。そしてそこにはサラーフの地図があった。
「今我々はカッサラにいる。これは言うまでもないな」
「ハッ」
「そして彼等の予想防衛ラインだが」
 彼は指揮棒を取り出した。そして地図で指し示していく。
「まず敵は我々の矛先を避ける作戦に出ると思われる」
「戦力が弱まっておりますからね」
 マトラがそれを聞いて言った。見れば隻眼である。これは戦闘の際艦艇が攻撃を受けこうなったのだ。その目には機械の義眼を入れている。
「そう、そして我々の疲れを待つだろう」
「そしてその疲れが頂点に達したところで、ということですか」
 マトクが問うた。
「そうだ、よくあるが極めて有効な戦略だ」
 かってナポレオンがロシアに侵攻した時もそうであった。彼は冬のモスクワで冬将軍により戦力を消耗しそして退却する時にコサックに襲われその軍の多くを失った。そしてこれがナポレオン没落の直接の引き金となったのである。あまりにも有名な事件であった。
「それに対して我々はサラーフに拠点を設けることにしたい。そしてそこを足掛かりにしてサラーフを侵略していく」
「その拠点とすべき場所はどこにするのですか?」 
 ラーグワートが問うてきた。見れば他の将達よりも年長である。その豊富な実戦経験はオムダーマン軍においても定評がある。
「その拠点だが」
 彼はここで指揮棒を動かした。
「ここに置こうと考えている」
 そこはサラーフ星系の一つムスタファ星系であった。交通の要地であると共に物資の集積地でもある。
「この地を抑えることによりサラーフでの戦略はかなり優位に立てる。そしてここからはサラーフ各地に兵を送ることが可能になる」
「将に戦略上の要地ですな」
 提督達がそれを見て口を揃えた。
「この地はこのカッサラからも比較的近い。距離もいい」
「確かに」
「ここで問題が一つある」
 彼はここで提督達を見回した。
「おそらく彼等はここで一度目の防衛ラインを敷いてくるだろう。この地を容易に手渡さない為に」
 これは充分予想できた。焦土戦術を行なうにしても守らねばならない場所や戦わねばならない時がある。先のナポレオンのロシア戦役においてはロシア軍はスモレンスク等で大きな戦いをしている。これは敵をさらに誘い込む為の戦術でもある。
「これに勝たなければならない。まあおそらく少し戦って彼等は撤退するだろうが」
「しかしそれですとムスタファ星系にある物資は」
「おそらく何もないだろう。施設も全て破壊されている筈だ」
「でしょうね」
 それは焦土戦術の常識であった。
「そして戦線が延びきるのを彼等は期待している」
「それに対してお考えはありますか?」
 ここでナクールが尋ねてきた。彼はまだ若い提督である。
「当然だ。その為の補助艦艇だ」
 アッディーンは落ち着いた声で答えた。
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