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第十三部第二章 怒りの日その九
「先の二国は私達のそれぞれの祖国、つまりここでは私達ですか」
「ではあとの二つは」
「エウロパは交戦国、そしてマウリアは友好国。一見して全く逆の立場にありますが」
「結び付く可能性は?」
「結び付く可能性」
 そう言われてさらに考え込む。ふと顔を上に上げる。そこで気がついた。
「ここは外務省」
「ならわかるかしら」
「ああ、そういうことですね」
 八条はここで顔を元に戻しあらためて頷いた。
「講和ですか」
「正解」
 カバリエは彼にそう伝えた。
「それも満点よ。お見事」
「有り難うございます」
「戦いがはじまったならば最後には終わらせなくてはならないわね」
「はい」
「それが私達政治家の戦争での最も大切な仕事。その為に今ここに貴方を呼んだのよ」
「では烏賊の墨は交渉のことですか」
「少し意地悪だったかもしれないけれど」
「いえ、中々面白かったですよ」
 笑いながらそう述べる。
「流石は。連合きっての食通と言いましょうか」
「そこに政治が合わさるとね。こういった面白いことになるのよ」
 政治と料理は案外密接な関係にある。政治家達はパーティーにおいて情報収集に務める。外交官達も同じである。他には支持者との交流や資金調達の意味もある。その際の食事もまたそうした情報の交換や収集に必要なのである。人は酒や料理を堪能すると自然に口が軽くなるものだからである。
「成程」
「覚えておいた方がいいわよ、貴方も」
「はい」
「政治は料理も大事だということをね」
「中々洒落たものではありますね」
「洒落もまた政治」
 カバリエは言い切った。
「そこから何かを出すものなのよ」
「わかりました」
「そして本題に入りたいけれどいいかしら」
「ええ、まあ」
 二人はもうラザニアを食べ終えていた。
「メインの料理は終わったし。後はデザートだけだから」
「中々お腹がふくれましたよ」
「四つ続くと流石にお腹にたまるでしょ」
「はい」
「デザートもあるから。それは覚悟してね」
「わかりました」
 そしてそれはすぐに運ばれてきた。ミルクのプリンであった。
「ミルクのプリンですか」
「そうよ。それが何か」
「いや、今まで結構色彩豊かなメニューばかりでしたから」
「白いものが来るとは思っていなかったのね」
「はい」
 八条は率直に答えた。
「まさかとは思いますから」
「これも政治というわけなの」
「政治」
「確かに政治は駆け引きが必要ね」
「はい」
 八条も政治家である。その程度はわかる。
「けれどそれだけでは駄目。少なくとも一流にはなれない」
「ではそのプリンは」
「政治を行うにあたっては誠意や魅力も必要だということよ。だからプリンなのよ」
「成程」
 かくしてプリンは二人の前に運ばれてきた。そしてそれにゆっくりとスプーンを入れる。金属のそれをなめらかに受け入れ、そして二人の口の中にそれぞれ運ばれていく。
 口の中をソフトな甘みが支配する。それはミルクの素材を充分にいかしたものであった。
「どうかしら」
「これもいいですね」
 八条は一口飲み込んだ後でそう述べた。
「ミルクの味を上手くいかしていて」
「あえてそうしたのよ」
「そこにはまた何かおありで」
「ええ。さっき誠意と言ったわね」
「はい」
「そして鶏肉のマウリア」
「私に彼等に対して何かして欲しいと」
「そう。彼等との交渉は貴方が中心になってくれるかしら」
「この場合は戦争を終わらせる為の」
「仲介者を探しているのよ」
「そしてそれがマウリア」
「まさかティムールやハサンに頼めるわけもなし」
「それは流石に無理ですね」
 彼はそう言って苦笑した。

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