第十二部第三章 様々な大地その三
「赤茶色の髪のハンサムさんだったけれどね」
「そうなんだ」
「理由は彼の浮気。何でも私は気が強過ぎるって。気の弱そうな可愛い娘と付き合ってたわ」
「それで彼はどうしたの?」
「決まってるじゃない。ギッタンギッタンにしてやったわ」
長いウェーブがかかった髪を払いながらそう答えた。
「浮気は許すな、ってね。マリじゃ女にはそう教えられているの」
「あまりマリの女の人とは付き合いたくはないな、それを聞くと」
「あら、それは間違いよ」
笑いながらワコイの向かい側のソファーに向かった。そしてそこに座った。
「マリの女は情が深いわよ。それに美人も多いわ」
「そうなんだ」
「私のママなんて若い頃かなりもてたそうだから。パパが自慢していたわ」
彼女の父は中国系である。その彼が多くのライバル達を退け、そしてプロポーズして結ばれたのだという。彼女の母を手に入れる為に標高数千メートルの山をロッククライミングしたりまでして競争して勝ち取ったのだ。かなりワイルドな話として現地では残っている。
彼女の名はその父が名付けた。チェンカという名がそれである。彼女だけでなく彼女の二人の兄に三人の妹、そして一人の弟の名もまた中国系なのはその為であった。
「それを勝ち取ったって。ママはそんなパパを今でも愛しているわ」
「いい家庭だね」
彼はそれを聞いてそう応えた。
「俺はそういうのはないな。俺が小さい頃に親が離婚してね」
「あら」
「弟や妹はお袋に、俺は親父に引き取られてな。ずっと男手一つで荒っぽく育てられたよ」
屈託のない笑いを浮かべながらそう言った。
「喧嘩は勝つまでやれ、とかな。何が何でも負けるなって教えられたよ」
「厳しいのね」
「それがティモールの男だってな。国は小さくても心は強く、そして大きくあれっていつも言われたものさ」
「それで今があるのね」
「ああ。よく殴られたけれどな。今では感謝しているよ」
笑ったまま述べる。
「今の俺があるのは親父のおかげだからな。今では珍しい頑固親父だけれどな」
「そういう父親がいないわね、本当に」
「ティモールでもな。あんたの親父さんはどうなんだ?聞くだけだとかなり厳しそうだが」
「自分の奥さんや子供には凄く甘いのよ。もう舐める程に」
「そうなのか」
「猫を可愛がるようにね。だから私も甘やかされたわけ」
「まあそうだろうな」
彼はそれを聞いて頷いた。
「子供ってのは別に甘やかしていいさ」
「そうなの」
「俺もガキがいるがな。どうにも甘やかしちまう」
「あら、結婚していたのね」
「幼馴染みとな。腐れ縁ってやつさ」
笑いが苦笑いに変わった。
「結婚する前はスパゲティだったのが今じゃフェットチーネだ」
「あらあら」
「ガキもな。男の子だがもうまんまるだよ」
「子供さん幾つなの?」
「もう三才だ」
彼は答えた。
「写真もあるぜ。見るかい?」
「いえ、それはいいわ」
タウデニはそれは笑って断った。
「何か話が長くなりそうだから」
「わかってるのかよ。まあこうした話はな」
残念さを漂わせながら言う。
「長くなっちまう。仕方ねえさ」
「そういうものなの」
「あんたも結婚すればわかるんじゃないかな」
「そうかしら」
彼女はそれを聞いて首を傾げさせた。
「私はそうは思わないけれど」
「結婚する前は皆そう言うさ」
彼はそう答えた。
「結婚するとな、皆変わるんだよ」
「わからないわね」
「結婚すればいいさ。ただし俺は駄目だぜ」
「わかってるわよ」
苦笑してそう言った。
「もう結婚してるじゃない」
「生憎イスラム教徒でもないんでな。それは無理だ」
「思ったよりジョークが上手いわね。意外だわ」
「気分次第でな。言う時もあるさ」
煙草を灰皿の中で消しながらそう答えた。
「酒を飲むともっと言えるぜ」
「飲めるのね」
「ああ。今もウィスキーがあるけれど飲むかい?」
「私も持ってるわよ。ブランデーだけれど。飲む?」
「ああ」
彼はそれに頷いた。
「じゃあ飲むか。寝る前にな」
「ええ」
そんな話をしながら夜を過ごした。翌朝テントを機械で畳み、また調査をはじめた。そのままサバンナの調査を続けるのであった。
この星のサバンナは連合にあるサバンナとさして変わりはしなかった。調査は順調に進みデータも集められた。結果として彼等の調査は成功に終わった。
「ふむ」
リンゲルは宇宙船の中で自分のノートパソコンに入れられた資料を見ながら考えていた。
「どうかしましたか?」
そこにワコイがやってきて尋ねてきた。
「いやな、面白いことがわかってな」
「面白いこと」
「そうだ。エウロパのサバンナも連合のサバンナも全く変わりがなくてな。実に面白い」
「確かにそうですね」
ワコイもそれに頷いた。
「これは多くの星で見られることです。惑星の条件が同じならば自然もまた同じだということですね」
「少し考えれば自明の理なのだがな」
彼はそう答えた。
「それでもだ。エウロパと連合のサバンナが同じというのは面白い」
「生えている草まで同じですからね」
これは別の調査チームが行った調査によりわかったことであった。彼等は生物だけでなく植物や地質まで調査していたのである。それはまた植物学者のチームがあり、半ば別個に調査、研究を行っていたが。地質も同様である。
「生物的にも植物的にも面白いことですね」
「そうだな」
リンゲルはまた頷いた。
「惑星と一つに言っても多くがあるがな。だが一つのモデルにはなる」
「はい」
「今後惑星の調査をするにあたって参考になるな。他の惑星に向かったチームの調査結果も楽しみだ」
「そうですね、吉報を待ちましょう」
「うむ」
彼等はそんな話をしながら連合へ帰って行った。そして調査結果は学会に発表され、政治家達の目にも届いた。それにとりわけ関心を示したのは保守派の領袖キリ=ト=マウイであった。
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