ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第十一部第三章 野望への階段その六
「アッディーン副大統領の」
「そうか」
 クリシュナータはそれを聞いて頷いた。
「彼は軍人だったな」
「はい」
「そして軍関係の為の副大統領だったな。その彼が言ったのか」
「そして通りました」
「そうだな。どうやら彼は思ったより視野が広いらしいな」
「といいますと」
 官僚はそれを聞いてその黒い目を少し大きくさせた。
「どういうことでしょうか」
「これは軍人の一つの悪い癖の一つだが」
 クリシュナータは言った。
「生真面目なのだ。アスラと同じくな」
 アスラとはヒンズーの教えで神々に敵対する種族の一つである。敵対関係にあるといっても彼等もまた神でありその力は強大である。彼等はクリシュナータの言う通り生真面目な性格であり厳格で禁欲的だ。そして悪を憎み徹底的に許さない。そうした意味では邪神ではなくむしろ善神である。その為か彼等の頂点に位置するヴィローチャナは密教では大日如来として信仰されている。そしてアスラ達も阿修羅として仏教の守護神の一人となっている。三面六臂の姿を持ち尋常ではない強さを誇るとされている。八部衆の一人阿修羅である。
「それは悪いことではないのでは」
「多くの場合はそうだ」
 官僚に対してそう答えた。
「だが常にそれでいいというわけではないな」
「はあ」
 彼はクリシュナータが何を言いたいのかよくわからなくなってきていた。
「確かにそうかもしれませんが」
「あまりに生真面目だと他のことに目がいかなくなる」
「はい」
 それに熱中し過ぎるからである。
「それが問題なのだ。一概には言えないが軍人には一つのことに没頭し過ぎるという一面がある」
「はい」
「だからこそ彼等をコントロールしなければならない理由の一つがあるのだ。シビリアン=コントロールだな」
 文民の方が広い視野を持っていないとできないことではある。だがこれは文民の方が一つのことに熱中してしまいがちな軍人よりも多岐な人材がおり、そして広い視野を身に着けているという考えもあってのことである。軍人は専門職なのであるから。だが中には広い視野を持つ軍人もいたりする。あながち軍人だから駄目だというわけでもない。要はその人物の資質である。
「それですか」
「そうだ。あれにはこうした意味もあったのだ」
 クリシュナータは語った。
「当然軍人出身の政治家もいるし必要だがな」
「はい」
 これは言うまでもないことであった。連合でもエウロパでもそうした軍人出身の政治家はいる。マウリアでもだ。八条もまたその一人である。これは連合においてはあまり考慮に入れられていないことであるが。軍人出身の政治家は狭い視野が危惧される一方でその専門的な知識が重宝されたりするのは古来からある。その人材にもよるのだが。
「しかしそれだけではない。政治というものは軍事だけでできるものではない。軍隊にばかり金を使うことなぞできはしないのはわかるな」
「はい」
 軍とは消費するだけである。生産はしない。そうした部門に多大に金を投資するということは必要性がなければ到底できないことである。
「それがわからないと政治はできない。軍人は軍事のことばかり考えそれがわからなくなる場合が多い。特に戦闘のことだけをな。他のことを考えられなくなる場合もある」
「過去にそうした軍隊もありましたね」
「うむ」
 クリシュナータはそれを受けてまた頷いた。
 第二次世界大戦前の日本軍がそうであった。彼等は実戦を想定した訓練は恐ろしいまでに積んでいた。それが実際にあの伝説的な強さのもととなったのである。この時代においても日本軍といえば恐ろしさと共に語られる存在であった。勇猛にして精強、厳格にして鉄の規律を持つ、真の精鋭部隊であった。だがそんな彼等にも欠点はあったのだ。それが補給であったのだ。その無敵とさえ言われた日本軍が敗れた要因の一つとして補給の脆弱性があった。彼等は実戦を重視するあまり補給のことを忘れてしまっていたのであった。
「だが彼は違うようだな」
「はい」
「補給のことも考えているようだ。だからこそ連合とも交流を進めるつもりなのだろう」
「少なくとも視野の狭い人物ではないようですね」
「あの若さでな。いや、若さは関係ないな」
 クリシュナータは自分の言葉を訂正した。
「若くとも才ある者はいる。彼もまたその一人か」
 そして官僚に問うた。
「彼は軍事以外にも携わっているのか」
「軍事以外にですか」
「そうだ。そちらはどうなのだ。少し知りたくなってきた」
「それは今はわかりませんが。何分彼は軍事担当ですので」
「ということは軍政にも関わっているな。そちらはどうだ」
「同じです。やはり後方にも力を入れております。オムダーマン軍の整備は彼が大統領に就任してから急激に整おうとしております」
「彼等の軍制は我々や連合と比べると少し古い部分も多い」
 クリシュナータはそう述べた。事実彼等のそれは何処か一時代前を思わせるものであった。連合軍が設立されるより少し前の。徴兵制もそう言われるとそうなる。なお徴兵制を採用しているのはサハラ各国だけである。
「今までの数を集めるだけの徴兵制から実質的にはかなり厳格な選抜徴兵制にシフトさせているとも聞いております」
「選抜徴兵制か」
「はい」
 国民の中からとりわけ身体能力に秀でた者だけを選び、その者を兵士にするのである。少数精鋭を目指すのならば適した方法である。
「それによりオムダーマン軍の数は減りましたがより精強な軍になったと聞いております」
「無意味に多くの兵を求めないということか。ただ強さのみを求めた」
「そういうことになりますね」
「それで今オムダーマン軍はどれだけの規模となっているのだ」
「基幹戦力である宇宙艦隊は九十を越えていたのは今では七十程です」
「減ったな」
「なおティムールは今は三十程、そしてハサンは属国のそれを入れると一六〇を優に越える艦隊を持っております」
「ここにきてあえて少数精鋭を選ぶか。いや、だからこそか」
 クリシュナータは考えながら呟いた。
「勝利を収める為にな」
「またサハラで戦乱が起こるでしょうか」
「それは間違いない」
 クリシュナータはそう見ていた。
「彼等は今までそれぞれ統一を目指して戦ってきた」
「ええ」
「そして三国になった。ここまでくればもう統一は間違いない。問題はどの国によりそれが為されるかだ」
「では三国の間で近いうちに戦争が」
「そうだな。その中心の一つは間違いなくオムダーマンだ」
 彼は言った。
人気サイトランキング site_access.php?citi_id=254078182&size=200小説・詩ランキングcont_access.php?citi_cont_id=343008101&size=200


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。