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第十部第四章 観客達の舞踏その七
「そうだな」
 彼はまた考えはじめた。
「私の印象では豊かな勢力だな」
「豊かですか」
「そうだ。三兆の人口だけではない。その力は絶大なものがある」
「そうですね。市民の生活も派手で活力があるものです」
 連合においては派手なことが好まれる風潮がある。そして活力が重要視される。だがそうでなくともよい。多様性もまたそうした活力と同時に重要視されている。それが彼等を支えているのだ。言い方を変えると多様な生活や生き方が許される程豊かな社会であるということだ。
「我々ではああはいかない。軍の食事一つをとっても」
「はい」
 オムダーマンにしろ将兵の食事は質素なものである。サハラの多くの国もまた将校と兵士は同じものを食べている。だがその食べられているものが連合とサハラ各国では決定的に違うのである。
 サハラ各国の軍での食事は質素なものである。量は多いがメニュー等は少ない。味よりも栄養価を考慮して作られている。だが連合ではメニューは実に多い。そして味についてもうるさい。これは志願制であるが故の人気取りの一環でもあるがここにも連合の豊かさが出ていた。
「彼等はそれこそ何でも食べられるそうだな」
「はい」
「そうしたところにも違いが多く出ているな」
「仰る通りです」
 ガルシャースプはそれに同意した。
「我々は彼等程豊かではありません。それは事実です」
「うむ」
「しかしそれでも彼等にはなく、我々にはあるものもあります」
「そのようなものがあるだろうか」
 アッディーンの声に疑問の色が漂った。
「彼等の勢力圏は広大だ。そして何でもあるが」
「今のところは」
「またそれか」
「はい。全ては現時点では、です。我々がわかるのは過去と現在だけです」
「その二つですら完全に把握できているとは言い難いな」
「ええ。そして未来のことはアッラー以外にわかりません」
「今更言うまでもないことだと思うが」
「そうですね。ですが彼等が欲するようなものがこのサハラのみで出たならばどうなります?かっての石油のように」
「石油か」
 アッディーンの眉が少し歪んだ。かって人間達は火に点けると燃えるこの不思議な水を巡って果てしない戦いを続けた。そしてそれがアラブで多量に眠っていた為それを巡って大国が介入を続けてきた。イスラム原理主義者の行動もこれに原因の一つがある程だ。
「言うまでもないな」
「その通りです」
「だが連合はそれ程好戦的な勢力ではないと思うが」
「どうしてそう言えるのですか?」
「これもまた歴史からだ」
 アッディーンの答えはそうであった。
「連合は今のエウロパとの戦いまで建国以来内外で干戈を交えたことはない」
「はい」
「好戦的とは言えないと思うが。刑罰は酸鼻を極めるがこれは我々と彼等の刑罰の認識への差だ。それとこれとは別だと思う」
 サハラ各国ではコーランに基づく刑罰である。連合各国のように凶悪犯に対する報復、みせしめ、劫罰としての刑罰ではないのである。
「ですね。それは彼等が今まで戦う必要がなかったからです」
「そうなのか」
「彼等が好戦的でないのは望んだものが得られるからです」
「何でもか」
「今までは。彼等は土地も資源も食糧も開拓すれば無限に手に入れることができます」
「そうだな。我々はそれがあっても今は開拓どころではない。エウロパはそれすらない」
「だからこそ彼等は攻め込んできたのですから」
 人間は必要にかられて行動する。エウロパにとってはサハラ侵攻は必然であった。それだけである。それがサハラにとっては災厄であったとしてもだ。
「ものがあればそれでいい。人間というものはすべからく食べられないと生きてはいけない」
「それは何時まで経っても変わりませんね。食べ、生きる為には何かをしなければならないのです」
「戦争になろうともな」
 それが戦争が起こる要因の一つなのである。人間とは決して好戦的な生き物ではない。宇宙にいる他の生き物とさして変わりはしない。ただ自分が生きたいだけである。だからこそ戦争を行うのだ。全ては生きる為に。連合とエウロパの戦いもおおまかに言えばそうなる。連合は自分達の安全を守る為にエウロパに宣戦を布告した。諜報員の害を取り除く為に。それが彼等の戦いであった。
「人間というものは因果なものだ。生きる為に戦わなくてはならない」
「戦いにはもう一つありますが」
「ジハードか」
「はい」
 言わずと知れた聖戦である。イスラム教徒達にとって戦い、イスラムに命を捧げる戦い程尊いものはない。これはこの時代においても同じである。戦死した者は天国へと行くことができる。それも確実にだ。人が天国へ行くか地獄へ行くかはアッラーのみが決めることだが聖戦で死んだ者はアッラーに選ばれているからである。今では戦い全てがそう位置づけられている。それがサハラの戦いであった。
「彼等にジハードはないようですが」
「エウロパは高貴なる者の義務と考えているようだがな」
 あくまで貴族達の考えではあるが。
「所詮は職業としての軍人か」
「はい」
「まず命が大事だ。そうした考えで本当に戦いができるのか」
「少なくとも今は戦っておりますが」
「できるだけ損害を出さないようにな。正規軍の戦死者は極端に少ないようだな」
「ええ」
「それに対してサハラ義勇軍はどうだ」
「やはりその損害は正規軍のそれと比して大きいようです」
「だろうな」
 これはアッディーンの予想通りであった。
「彼等は言うならば消耗品だ」
「そうなのでしょうか」
「意地の悪い見方をするとな。正規軍の将兵を消耗するわけにはいくまい。下手な損害はそのまま軍の維持に関わる。それが連合軍なのだろう?」
「ええ、確かに」
「ならばだ。損害を恐れることのない部隊があるなら使う」
「それが彼等ですか」
「正規軍ではないからな。義勇軍だ」
 この差は大きかった。
 難民達は連合の市民権は持っている。だが難民であることに変わりはない。連合の者ではないのだ。そうだからこそ好きに使えるのだ。こうした部隊は歴史においても多くあった。そして活用されてきているのである。これもまた歴史の事実である。
「先頭に立たせてもいいし危険な戦場に送ってもいい」
「ですが彼等は奮戦しております。おそらくエウロパとの戦いも彼等なくしてはここまで連合にとって有利には進まなかったと思われます」
「そうだな。彼等なくして連合軍の今はない」
 アッディーンの見方は冷徹なものであった。
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