第十部第二章 北の戦いその五
ウェリントン率いるエウロパ軍は連合軍が何処にいるかを把握していた。そしてどういった状態になっているのかもわかっていた。そのうえで動きを決定した。
「引き込むぞ」
彼は部下達に対して一言そう述べた。
「イバロにな」
「引き込むのですか」
「そうだ」
彼は答えた。
「奥深くにな。それから倒す」
そしてそう言った。強い声であった。
「その為に我等は命を捨てるのだ。よいな」
「勿論です」
部下達もまた強い声で頷いた。
「我等もまたその為に志願したのですから」
「そうだったな」
ウェリントンも部下達も皆目から強い光を放っていた。そしてその光は鋭かった。
「頼りにしているぞ」
「お任せ下さい」
彼等は答えた。
「この戦い、必ず勝ちましょう」
「その為に命を捨てることがあってもな」
「はい」
「では行くぞ。よいな」
ウェリントン率いる艦隊はまた動きはじめた。そしてイバロ星系を出て連合軍の前に姿を現わしたのであった。
「敵艦隊が出現しました」
それはすぐにリバーグに報告された。
「数は」
彼はまず数を問うてきた。
「一個艦隊規模です」
報告した若い士官がそう答えた。リバーグはそれを聞くと一言こう言った。
「守りを固めるように」
それだけであった。そしてそれは忠実に実行された。
連合軍は守りを固めた。そして動きはしなかった。
それを受けてウェリントンは動きを変えた。イバロに引き返したのである。
「追いますか」
参謀達がリバーグに問う。だが彼の返答はこうであった。
「まだだ」
彼は偵察が終わっていないことをその理由とした。そしてやはり動きはしなかった。
偵察艇は次第に戻ってきた。それによりイバロ星系の事情はおおよそがわかってきた。彼はそれを聞きながら地図を見ていた。そこに答えがあるからである。
「敵はイバロで何をしているか」
「ハッ」
情報参謀が答える。
「あの一個艦隊でしきりに我々を挑発しております」
「相変わらずか」
「はい」
彼はそれに答えた。
「そして敵の主力はどうしているか」
今度は敵の主力部隊について問うた。
「只今イバロの第七惑星であるレンゲから出たようです」
「出たか」
リバーグの目の光が変わった。
「そして何処に向かっているか」
そう言いながら地図を情報参謀に見せた。その参謀はそれを見た。
「今ここにいます」
彼はそう言って指差した。そこはイバロの恒星のすぐ北であった。
「そしてここに向かうと思われます」
そのまま指を動かす。そこはイバロの西にある磁力嵐の一帯であった。リバーグはそれを見てふと呟いた。
「地の利を利用して迎撃するつもりか」
「どうやらそうだと思われます」
彼はそれに頷いた。
「数は我等が圧倒的に優勢です。それを考えますと」
「道理だな」
そしてリバーグはこう答えた。
「数において劣るのならば策を用いる。これは戦いの基本だ」
あくまで士官学校で習った言葉を復唱しているに過ぎない。彼はやはりマニュアルを重視する人間でありそこから離れることはあまりないのだ。
「それでは彼等はここに何らかの策を用意しているな」
「おそらくは」
参謀はまた答えた。
「あの辺りの偵察艇が戻ってきてからにするか。詳しい作戦の立案は」
「はい」
こうして作戦の立案はとりあえずは見送られた。だがすぐにそれを立てる時がやって来たのだ。
そこに向かわせている偵察艇は一隻も帰って来なかった。他の宙域に向かわせている偵察艇は帰ってきているのに、である。これで何かがないと思わない方が不思議であった。
「どう思うか」
リバーグは今度は主だった参謀達を会議室に集めたうえで問うた。
「あの宙域に向かわせた偵察艇だけが戻って来ないのだが」
「やはり何かあるのでしょう」
主席参謀であるフェリペ=ジェリオ大将がそれに答えた。白い肌に低い鼻を持っている。彼はアルゼンチンの農家の生まれでありそれを思わせるがっしりとした体格が印象的である。鼻が低いのは彼の母方の祖母と父がそれぞれアジア系であるからである。母方の祖母は日本人、父はインディオの血を引いている。
「そこに罠があると考えるのが妥当です」
「そうだな」
リバーグはそれを受けて頷いた。
「それではその宙域には向かわないでおこう。それでいいな」
「ハッ」
皆それに異存はなかった。頷くだけであった。
「だがどちらにしろ彼等は我々と一戦交えるつもりのようだな。そこまで用意しているとなると」
「そうでしょうね」
またジェリオが答えた。
「おそらく彼等は乾坤一擲の勝負を挑んでくると思われます」
「決死戦か」
「ですからあの一個艦隊を出したのでしょう」
ウェリントンが率いるあの艦隊のことである。だが彼等は今はその艦隊を率いるのがウェリントンであるとは知らない。
「我等を誘い出す為に」
「はい」
ジェリオは頷いた。
「ですが我々はそのような挑発に乗る必要もありません」
「うむ」
「むしろこちらが仕掛けてもよいと思っております」
そう言ってニヤリと笑った。リバーグはそれを見て彼にさらに問うた。
「何か考えがあるな」
「はい」
その通りであった。彼はニヤリと笑ったままその問いに答えた。
「閣下、兵を二つに分けられてはどうでしょうか」
「兵をか」
「はい。それでまず一方をイバロの東に回らせます」
彼は言った。
「そしてもう一方はそのまま南下します。そして等距離になったところで同時にこの場所に向かいます」
「そこか」
「はい」
そこはイバロに入って暫く経った場所であった。そこには障害となるものが何もなくただ開けた宙域が広がっているだけであった。
「ここに向かうのです」
「言い換えるとそこに敵を誘き寄せるのだな」
「はい」
ジェリオは答えた。
「ただ東に向かわせる艦隊の行動が問題です」
「どうするのだ」
「彼等にはレンゲに向かってもらいます」
「レンゲにか」
「はい。それならば彼等も引き返さざるを得ないでしょう。そして我等の誘いに乗ります」
「そう簡単にいくかな」
「問題はあの場所に彼等を向かわせないことです」
ジェリオはリバーグの問いに対してそう答えた。
「あの場所に入られてはおそらく厄介なことになるでしょう」
「だろうな」
それは彼にも容易に想像がついていることであった。
「それだけは何としても避けなければならない」
「はい。若し他の宙域で戦闘になるとしても」
彼は言った。
「それぞれ戦い方があります。そしてそれは」
ここで自分の頭を指差した。
「ここにあります。お任せ下さい」
「期待しているぞ」
リバーグはそれを見て笑った。彼を信頼している微笑みであった。
「それではすぐに作戦立案に移るか」
「はい」
ジェリオだけでなく他の参謀達もそれに頷いた。
そして彼等は会議に入った。こうして連合軍の作戦は決定した。連合軍はこうして動きをはじめた。
連合軍の動きはすぐにエウロパ軍にも伝わった。それを聞いたローズの目の色が変わった。
「レンゲにか」
「はい」
カーネルキンがそれに答えた。
「百個艦隊が向かっているようです」
「敵の戦力の半分か」
ローズはそれを聞き考えに入った。
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