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第九部第五章 戦いの意義その十四
 若者は気品のある眉目秀麗な顔立ちのアジア系の若者であった。黒い髪に黒い瞳をしており、そしてスーツに身を包んでいた。それで彼が文官であるとわかった。
 モンサルヴァート達は赤絨毯の中を進んだ。そしてその若者の前に来た。左右には軍服を着た男達が立ち並んでいる。八条の周りにもいた。彼等の腕を見ると彼等が連合の将官であることがわかる。
 連合においては将校の階級は腕の金色のモールからわかる。これはかってイギリス海軍が将校の軍服に実際に金モールを巻いていたことからはじまったのであるが連合軍はこれをそのまま使っているのである。エウロパ起源のものであるがそれが連合で生きているのである。これはかって世界の海軍がイギリス海軍に倣ったものがそのまま生きているからである。宇宙の時代になり、エウロパと連合が敵対関係になっても連合にはこれが残った。思えば因果な話であった。
 まず准尉は細いモールが一本ある。士官候補生も同じだ。そして少尉はそれが太くなる。中尉にはその細いモールが一本つく。大尉は太いモールが二本になる。少佐にはまた細いモールがつく。中佐は太いモールが三本である。大佐になると四本になる。
 佐官まではこうなっている。だが将官になると違ってくる。まずはその太いモールを二本合わせた太さのモールが付く。これが准将である。
 少将には准尉の細いモールがそこに一本つく。中将になるとそれが少尉のものになる。大将はそれが二本になる。そして元帥は准将の太いモールが二本である。見れば若者の側にも一人いた。どうやら彼がこの方面の作戦の総指揮にあたっているらしい。
「連合中央政府国防長官八条義統です」
 若者はそう名乗った。
「どうぞお見知りおきを」
「連合軍ホー=ウェン=チョムです。階級は元帥です」
 その元帥の男が連合の敬礼してモンサルヴァートに対して言った。カンボジア人である。
「エウロパ元帥ヴォルフガング=フォン=モンサルヴァート閣下ですね」
「はい」
 モンサルヴァートはそれに答えた。
「私がそのモンサルヴァートです」
「わかりました」
 ホーはそれを聞いて豊かな頬を引き締めさせて頷いた。
「招きに応じて頂き感謝しております」
「はい」
 モンサルヴァートはそれに頷いた。
「今回おいで頂いた理由ですが」
 八条が話しはじめた。
「わかっております」
 それにモンサルヴァートが答える。
「停戦のことでしたね」
「はい。それでは早速お話に移りたいのですが宜しいでしょうか」
「ええ」
 こうして彼等は会談の場に向かった。そこはテスカトリポカの会議室であった。そこに連合の者とエウロパの者が向かい合って座った。見れば連合側には背広の者もいる。だがエウロパの者は全て軍服であった。それに両者の大きな違いが見られた。
(ふむ)
 モンサルヴァートはそれを見てふと思った。
(これが連合というものか)
 それが思ったことであった。連合についてはシビリアン=コントロールが徹底していることで知られている。だがそれを実感したことはなかった。しかし今この目で見てそれが実感できた。
 しかし八条は何処か違っていた。背広を着てはいてもその動きは軍人のものと同じであったからだ。
(そういえば)
 ここで彼は思い出した。
(彼は元々は軍人であったな)
 そうであった。そこに秘密があったのだ。
 文官と武官では動きが異なってくる。武官は独自の訓練を受けているからそれは当然であった。見れば彼の動きは武官のそれであった。
 会談がはじまろうとしていた。連合とエウロパは断交状態にあったので今回の会談は実質的に両者がはじめて話し合いの席を設けた歴史的な会談でもあった。モンサルヴァートはそれを受けていささか緊張していた。そして機を待った。まずは何を言うべきか。そしてそれを決めて口を開こうとした。その時だった。
「さて」
 八条が口を開いた。その時の口調も姿勢もやはり軍人のものであった。
「それではお話をはじめましょうか」
「はい」
 モンサルヴァートがそれに頷く。そして会談がはじまった。八条が最初に口を開いたことがまず重要であった。エウロパの者の中にはこれに気付いている者もいた。モンサルヴァートもそうであった。
(しまった)
 彼は心の中でそう呟き舌打ちした。
(先手をとられたか)
 八条に目をやる。彼は穏やかな笑みを浮かべていた。だがそこに余裕が見られた。先手をとったことを彼自身もよくわかっていたのである。それ故の余裕であった。
 八条は話を続けにきた。そしてまた言う。
「今我々は南方においては停戦状態にあります」
「はい」
 モンサルヴァートはそれに対して頷いた。
「これは我々が申し出たものでした。市民達の安全を確保する為に」
「はい」
 モンサルヴァートはまた頷いた。八条のペースに入ろうとしていることがわかった。
(まずいな)
 これを感じて危惧を覚えた。このままでは一方的にやられてしまう。そう思い反撃に転じることにした。
「そのことですが」
「はい」
 八条はそれを受けて応えてきた。
「妙なことがあります」
「何でしょうか」
 八条はそれを聞き首を少し傾げさせた。
「彼等はエウロパの者です。それを何故」
「彼等は武器を持っているでしょうか」
 八条はそう答えてきた。
「武器を」
「はい。連合軍の敵はあくまで武器を持っている者達だけです」
 八条は毅然としてそう答えた。その声には重みがあった。彼の歳からは信じられない程の重みがった。モンサルヴァートはそれを受けて一瞬怯んでしまった。
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