第三十七部第一章 辺境の兄弟その二
「どんどんやればいいのだ。この宰相宮にしろだ」
「見せるのですね」
「見せればいい。この美しい宮殿を」
見れば確かに見事な宮殿であった。ムガール帝国時代を思わせる建築様式に黄金やダイア、それにサファイアやエメラルドで飾っている。その外観も内装も見事なものであった。
この宮殿は博物館の如く観光スポットになっている。プライベートの場所以外は、時としてそのプライベートの場所でさえも気さくに人々に見せるのがラジェンドラであった。
「どんどん見せてシンドゥの名を知らしめればいいのだ」
「そういえば最近王宮への観光客はいないそうで」
「何もない場所に人は集まらんさ」
こう言い捨てるラジェンドラであった。
「兄上のあの吝嗇さも子供の頃だからな」
「あの、宰相」
側の者が今のラジェンドラの言葉に怪訝な顔になり注意してきた。
「そういった御言葉はどうも」
「駄目か」
「兄上と仰ると。陛下と呼ばないと」
「そうだったな。相変わらず堅苦しい兄上だ」
わかっていてまた言ってみせたのであった。ラジェンドラも中々意地が悪い。
「この前もその呼び方で言い争いになった」
「ええ、あれですね」
「全く。私が兄上と呼ぼうともいいではないか。実際には兄上なのだから」
「ですがそれでもです」
「堅苦しくする必要はないのだ」
彼は明るい調子で言う。自身は白い絹の服とマント、それにルビーとダイアの装飾で飾っている。白にルビーの赤がかなり目立つ。
「別にな。何事もな」
「何事もですか」
「そして大胆にだ」
こうも言うのであった。
「大胆に動けばいいのだ。おどおどしていては失敗するぞ」
「陛下にそう仰ったらどうなりました?」
「怒るの怒らないのだったな」
実際にこのことも周囲を困らせたのであった。
「サハラとの境に最低限の兵だけを置けばいいと言ったがな」
「このシンドゥの兵をですね」
「そうだ。オムダーマンもハサンも我等に興味がないと言われてな」
これはその通りだった。もっと言えば国境地帯は今回は争いの場所にすらなってはいない。ハサン側も兵を殆ど引いてそれをオムダーマンに向けているのである。
「それでだ」
「宰相はできるだけ多くの兵力を置かれるという御考えですね」
「そうだ。その通りだ」
まさにそれだと答えるラジェンドラであった。
「さもなければ兵を動かす意味がない」
「その方がより対処し易くもあるからですか」
「そうだ。兵は数だ」
このこともわかっているラジェンドラであった。
「だから私もそう主張しているのだが」
「陛下は最低限だと仰いますね」
「あくまでな。動かされるつもりはないようだ」
苦々しい声になっていた。
「最低限の兵だけでな」
「理由はここにまで両軍が来ないと見てのことですね」
「おそらく来ない」
ラジェンドラもそれは読んでいた。こうした意味においては兄王と同じものを見ていた。しかしそれへの対処の仕方が違うのであった。
「それは私もわかっている」
「それでも多くの兵をですか」
「そうだ。動かす」
彼は己の考えを変えなかった。あくまで、であった。
「やはりその方がいいだろう」
「ですが陛下は動かれません」
「そのかわりに警察の警護を強めておられるが」
「そして同時にです」
ここでガーデーヴィの政治家としてのセンスが語られた。それは決して悪いものではなかった。少なくとも彼は政治家としても君主としても無能ではなかった。
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