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第九部第五章 戦いの意義その九
「生の演奏だからこそいいのです。違いますか?」
「それはそうですが」
「コンサートも生の演奏だからこそ行われるのでしょう?」
「はい」
 兵士達はそれに答えた。
「それだからですよ」
「しかし贅沢と言えば贅沢ですね」
「我々では考えられない」
「あくまで軍艦のみですよ」
「軍艦といいますと」
「巡洋艦、空母、して戦艦ですね」
「あれ」
 それを聞いて連合の兵士達はあることに気付いた。
「あの」
「何でしょうか」
「駆逐艦や護衛艦、砲艦といったものはそちらでは軍艦には含まれないのですか?」
「はい」
 老人は当然といったようにそれに答えた。
「連合では違うのですか?」
「ええ」
「軍属にあるのは全て軍艦ですから。補給艦や揚陸艦も含めて」
「艦長は皆中佐待遇以上になります。まあ色々とありますが」
「そうなのですか」
「はい。どうもそこにも違いがありますね」
「そのようですね。私達も貴方達を見て色々と驚いていますよ」
「私達をですか?」
「ええ。何しろ大きい」
「大きい」
 ここで彼等は自分達を互いに見合った。見れば連合の兵士達とその老人とでは頭一つ違った。
「連合の兵隊さんは皆そんなに大きいのですか?」
「え、いや」
 彼等はそれを聞いて少しキョトンとした。
「これで連合では普通位ですよ」
「はい、まあ個人差は当然ありますけれどね」
「そうなのですか」
「見たところ我々と貴方達では背がかなり違いますね」
「それにエウロパの中でも。貴族と平民では頭一つ程違うような」
「やはりこれも個人差がありますが」
「食べているものの違いでしょうか」
「食べているものの」
「ここでもですか」
「そうですね。貴方達はやはり色々なものを食べられますね」
「ええ、まあ」
 彼等はまた答えた。
「恐竜なんかも食べますし」
「マンモスも」
「美味しいのですか?」
「美味しいですよ」
「恐竜は鳥に似ていますね。そしてマンモスは案外柔らかい」
「はあ」
 これには老人も驚いていた。
「そんなものまで」
「はい」
「意外とね。美味しいものですよ」
「他には鯨も。もっとも特定の国だけですが。これを食べるのは」
「ちなみに日本人は恐竜も鯨も刺身にして食べます」
「恐竜の刺身」
「これも美味しいそうです。日本の名物料理の一つです」
「アメリカだとフライドサウルス、中国だと唐揚げになりますよ」
「あとはカレーに入れたり。ブロントサウルスとティラノサウルスでまた味が違います」
「しかしそれでもモササウルスの刺身には驚いたな」
「ああ、あれはな。日本人の考えることはわからん」
「韓国だとキムチと一緒に鍋にしていたな。あれはあれでいい」
「そうか?タイ風の方があれには合っている」
「それは御前がタイ人だからだろ」
「まあそうだがな、ははは」
「ふうむ」
 老人はそれを聞きながら冷静さを次第に取り戻してきていた。だがまだ信じられなかった。
「我々はそうしたものはあまり食べませんで」
「そのようですね」
「エウロパの下士官や兵士の食事ですが」
「はい」
「あれがそちらでは標準的な食事でしょうか」
 エウロパの下士官及び兵士達の食事は彼等も知るようになっていた。これまでの戦いで捕虜を得ている。そこから彼等も情報を手に入れているのである。
 その食事の内容は極めて質素なものであった。朝はソーセージにパン、ジャガイモのバター煮と黒パンだけであった。それに対して将校は朝から多くの肉や果物に囲まれているのだ。そしてワインまでついている。
 昼も大体同じだ。ザワークラフトやオムレツ、パスタ等である。量こそはそれなりだが。そして将校達はフルコースである。音楽の中で食事を楽しむ。側には従兵までいる。
 夜は少しましになる。ハンバーグや肉料理である。だがそれも連合の者から見ればやはり質素である。彼等はそれを聞いて大いに驚いたのである。
「あれは軍隊だからですよ」
「そうですか」
「多分食べているものの内容の水準はそちらと変わりがありません」
「では何故体格に差が」
「混血もあるでしょうが」
 連合は言わずと知れた混血勢力である。アジア系もヨーロッパ系もアフリカ系も関係なく混血している。アメリカ大統領マックリーフのように金髪碧眼の黒人というのも多い程である。
「あとは食べている量。貴方達のあの食べる量には驚かされました」
「栄養の差、ですか。量における」
「ええ」
「そしてその内容ですね。恐竜とかマンモスとかそういうものを食べているせいでしょうか」
「動物性タンパク質、ということでしょうか」
「それはそちらも」
「同じ動物性タンパク質でも牛と鳥では栄養が違いますね」
「ええ」
「全く別物です」
「貴方達は我々のように羊や牛、豚等だけを召し上がられているわけではありません」
「はい」
「色々と召し上がられる。だからではないですか」
「ではそちらの貴族の方々は」
「もう我々と貴族は別の存在ですので。我々は決して混血しないのです」
「それはそちらになりますか」
「そう考えられています。まあ元々そうでしたから」
 欧州の貴族と平民は基本的に異なる民族である。イギリスにおいては平民はケルトの末裔やアングロサクソンであった。それに対して貴族達はノルマンであったのだ。
 貴族と平民は混血しない。そのまま民族的には異なるままであるのだ。
「あれは食べ物の問題はそれ程ではないかと」
「そうですか」
「我々もワインをいつも飲んでいますし。質こそは違えど」
「そう、それです」
 ここで兵士の一人が老人に対してそう言った。
「エウロパではごく普通に酒を飲んでいますね」
「どういう意味でしょうか」
 老人はそれに問うた。酒は連合でも広く飲まれているからだ。サハラにおいても今は同じである。
「それはそちらも同じ筈ですが」
「いや、これは失敬」
 彼はそれを受けてまずは謝罪した。
「朝や昼に、という意味です。将兵の食事にもついておりますね」
「はい」
 ただし下士官及び兵士はビール、将校はワインが普通である。
「あれはいいのでしょうか」
「何か悪いのですか?」
 老人は逆にそう問うてきた。
「私は別にそうは思いませんが」
「あの」
 話を聞きながら別の兵士が尋ねてきた。
「エウロパでは飲酒運転とかはないのですか」
「飲酒運転ですか」
「はい。連合ではアルコールを帯びて車に乗ってはいけないのですが」
「それはありませんね」
 老人はそう答えた。
「我々にとっては酒は飲み物の一つでしかありませんから」
「それもエウロパの伝統でしょうか」
「そうでしょうね。我々は昔からごく普通に酒を水の替わりとして飲んできましたから。それは今でも変わりがありません」
「だからですか。艦内でも酒をおおっぴらに飲めるのは」
「連合では違うのですね」
「勿論ですよ」
 兵士達は口を揃えてそう答えた。
「酒を飲みながら戦える筈がないじゃないですか」
「それはまた窮屈な」
「そう言われるとそうですが」
 ロシア出身の兵士がそれに同意した。
「何分快く飲むことができないのが連合軍でして」
「おい」
 それに他の兵士達が突っ込みを入れた。
「ロシアはまた特別だろうが」
「御前の国はまた飲み過ぎだ」
 ロシアは連合きっての酒の産出国として知られている。ロシア伝統のウォッカだけでなく今ではワインやビールもよく製造されている。そしてそれを真っ先に消費するのがロシアなのである。ロシア人の一人当たりのアルコール消費量は連合一であった。エウロパのどの国よりもそれは上であった。マウリアやサハラ各国よりも上なので実際には人類一のアルコール消費量であった。
「酒を飲めるのは健康な証拠だ」
 ロシアの兵士はそう反論した。
「御前等だってかなりいける方じゃないか」
「御前程じゃないぞ」
「一緒にするな」
 彼は同僚達にそう反論された。ロシア人は気が長く忍耐強いことでつとに知られているが酒がなくなれば即座に暴動を起こすとまで言われている。彼等にとって酒はそれ程にまで大切なものであるのだ。
「まあロシアのことは私も聞いております」
「おお」
 ロシアの兵士は老人の言葉を聞いて機嫌をよくさせた。
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