第九部第五章 戦いの意義その六
連合軍とエウロパ軍の戦いはそのまま続いていた。圧倒的な物量を誇る連合軍は北、中央、南の三方において果敢に攻撃を仕掛けていた。そしてエウロパ軍を徐々に追い詰めていたのであった。
北ではヴァルハラ星系に向かって進撃が続いていた。彼等の行く先に立ちはだかるエウロパ軍は最早おらず連合軍は快進撃を続けていた。
それは総司令部にも伝わっていた。彼等はニーベルング要塞群に総司令部を置きそこから戦線全体を統括していた。総司令官は宇宙艦隊司令長官であるマクレーン、副司令官は参謀総長である劉が務めていた。彼等は惑星において報告を受け取っていた。
「北が最も順調に進んでいますな」
マクレーンはかってファブリチーニがいた司令室において劉と話をしていた。二人はファブリチーニ達が使っていた豪奢な椅子に座っている。
「そうですな。しかしこれは予定通りです」
劉はそう答えた。彼の声は冷静なものであった。
「北は戦略的な価値は乏しいですから。占領していくだけで宜しいかと」
「ですな」
マクレーンはそれに同意して頷いた。
「あの地域のエウロパ軍はそれ程多くはないですし。精々五十個艦隊程でしたな。旧式の装備の艦艇ばかりで」
「はい」
劉はそれに答えた。
「それに対して我が軍は二百個艦隊。相手にはなりません」
「ヴァルハラ包囲は間も無くでしょうか」
「それについてはリバーグ司令次第ですね」
リバーグとはコロンビア出身の連合の軍人である。本名をネルソン=リバーグといい北方方面軍の司令官を務めている。階級は元帥、慎重でかつ無駄な指揮のない人物として知られている。人間としても上司には忠実で部下の意をよく汲み、そして心優しいことで知られている。
「彼ならやってくれるでしょうが」
「ただやり過ぎてはいけないですが。彼の場合」
「敵を倒すにはいいでしょう」
「ふふふ」
マクレーンはそれを受けて面白そうに笑った。どうやら二人は北方については何ら心配はしていないようである。
「南は停戦ということで長官御自身が行かれておりますが」
「まあ今は様子見ですね、南方も」
「ええ。それでは問題は」
「わかっておりますよ」
二人はここで壁に掛けられている地図に目をやった。エウロパの地図であった。
「中央ですね」
「ええ」
二人は頷き合った。
「あそこには軍務大臣であるシュヴァルツブルグエウロパ元帥自ら向かっております」
「軍務大臣自ら陣頭指揮を執るとは。エウロパもいよいよ追い詰められたというべきか」
「それはどうでしょうか」
多少楽観的な見方をしようとしたマクレーンを劉が嗜めた。
「彼等はまだ力があります。そしてオリンポスへの守りはまだあります」
「それでは何故今」
軍務大臣自ら兵を率いてやって来たか。マクレーンは問うた。
「それだけあのブレシアが重要な地であるということですが」
ブレシアはオリンポスと北、中央、そして南を結ぶ重要な場所にあった。この地を抑えられるということは彼等にとって喉元に刃を突き付けられるということであった。
「あの星系だけはおいそれと渡すわけにはいかないのでしょう」
「それは私もわかっているつもりです」
マクレーンはそう答えた。
「しかし軍務大臣自ら戦場に出て来るとは。普通は有り得ないでしょう」
「連合の考えではそうでしょう」
劉はそれに対してはそう答えた。シュヴァルツブルグは元帥である。だが彼は普通の元帥ではないのだ。普通の元帥の上位にいるエウロパ元帥である。これはエウロパにおいても数人しかいない特別な階級であった。
エウロパは貴族制である。軍においては将校は貴族が占める場合が多い。その階級も連合のそれと比べると将官のそれが多くなっている。これは貴族のポストの為でもあった。
エウロパにおいて元帥が多いのもその為であった。連合では二十人と定められているがエウロパでは五十人以上存在する。エウロパ元帥とはその上に存在する階級である。軍の事実上の最高の階級であった。
エウロパ元帥は三人しかいない。シュヴァルツブルグと宇宙艦隊司令長官であるローズ、そしてモンサルヴァートの三人である。彼等は軍の頂点にいるのである。
彼等は軍人である。文官ではない。従って彼等が戦場に出るのは当然とも言えた。
「ですがエウロパでは違うのです」
劉はそれについて言及したのであった。
「エウロパでは現役の武官でも閣僚になれますな」
「ええ」
それはマクレーンも知っている。軍務大臣だけであるが。時には文官が軍務大臣になる場合もある。
「それで彼等は前線に立つのです。軍人なのですから」
「ふむ」
彼はそれを聞いてあることに気がついた。
「我々も軍人であります」
「はい」
「それでは彼等の相手は我々がしても問題はないということですな」
「ええ」
彼はそれを待っていたかのようであった。
「私はそう考えますが」
「わかりました」
マクレーンは我が意を得たとばかりに頷いた。
「それでは我々も中央に向かいますか」
「シュヴァルツブルグ元帥と戦いに、ですね」
「はい」
彼は答えた。
「今かれはエウロパの精鋭を率いております」
「その精鋭こそがエウロパの切り札」
「それを叩けば彼等の戦力は大きく減少します。やるべきかと」
「どうやら長官も御理解して頂けたようですね」
「いやいや」
マクレーンは手を振って笑ってそれに応える。
「参謀総長に教えて頂くまでは。それでは行きますか」
「はい」
こうしてマクレーンと劉は中央に向かった。そして彼等も戦場に赴くのであった。
中央が緊迫し、北方での戦いが連合有利となっていく中南方ではある種の平穏が訪れていた。だがそれは厳密には平穏ではなかったかも知れない。
「目を離すな」
「了解」
モントローズ要塞に立て篭もる将兵達はそう言い合いながら目の前に布陣する連合軍を監視していた。彼等は今武器を持って対峙していたのである。これには変わりがなかった。
「連合軍の動きはどうなっているか」
モンサルヴァートはモントローズ要塞に入っていた。そしてベルガンサにそう問うていた。
「ハッ」
ベルガンサは敬礼をした後でそれに答えた。
「今彼等はこの要塞を半円状に包囲しております」
「そうか」
モンサルヴァートはまずそれを聞いて頷いた。
「彼等は臨戦態勢にあります」
「戦う気はなくしてはいないということか」
「そのようです」
ベルガンサはまた答えた。
「ですが避難している市民達に対しては攻撃を仕掛ける素振りは一切見せておりません」
「ふむ」
モンサルヴァートはそれを聞いて頷いた。
「それでは彼等は約束を今のところ守っているということか」
「そう判断されて宜しいかと」
「連合軍の軍律は厳しいと聞くが」
「そうですね」
ベルガンサは今度はそれについて答えた。
「規律は確かにいいようですね」
「ふむ」
「今まで掠奪や一般市民、捕虜への暴行は殆どありません。あってもすぐに厳罰の処されております」
「それもあの男の考えなのだろうか」
モンサルヴァートはそれを聞いてふとそう呟いた。
「あの男といいますと」
「彼だ」
それに対して一言そう述べた。
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