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第三十六部第三章 亡命という選択その六
「だからそれ程騒ぐことはありません」
「今は現状維持でよいではありませんか」
「それにです」
 また別の意見が出された。
「今は老人一人を子供三人、孫九人が支えている状況です」
「しかもその老人ですら働いていますな」
「確かに」
 連合では老人の多くも働いている。所謂シルバーパワーというものであるが定年になってもまだまだ先がある社会なのだ。定年はこの時代では一応は七十になっているがそこから先もあるのだ。何しろ平均年齢が百にまで達しているのでかなりの時間があるのだ。
 その時間にこそ働いているのだ。当然若い人間と同じことはできないがそれでもだった。様々な職種で働いているのが連合なのである。
「おまけに曾孫は二十七人です」
「充分ではないでしょうか」
「確かに割合ではそうですが」
「それでもです」
 だが野党側の何人かはまだ引き下がらない。あえてまだ言うのであった。
「まだ割合として不充分です」
「ですから」
 今回はこの議論は時間が来て終わりになった。そのうえで別の政策の審議に入る。政治は常に動いており一つの政策にこだわっていては進まないからである。
 今日の議会における議論では外交に関する話は出なかった。しかしだからといってそれで外交が行われていないかというとそうではなかったのだ。
 舞台裏では議員達がそれぞれ話しまた政府では。カバリエはアッチャラーン、それに八条を踏まえて三人で食事を採りながら話をしていた。
「今日の料理はこれはまた」
「中南米の料理ですね」
 アッチャラーンと八条はその料理を見て言うのだった。テーブルの上にあるものはタコスをメインとして青菜を炒めたものにミートパイとチーズパイ、それに豆と肉のシチューであった。二人はその一連のメニューを見てそのうえでカバリエに対して言うのであった。
「タコスはメキシコ料理ですが」
「後のものは」
「ブラジル料理です」
 カバリエは二人にこう述べた。
「ブラジル料理です」
「そうですか。これはフブラジル料理ですか」
「そうだったのですか」
「その通りです」
 彼等のその問いに答えるカバリエだった。
「これ等は全てブラジル料理です」
「ふむ。そうだったのですか」
 アッチャラーンはカバリエの今の言葉を聞いてあらためて考える顔を見せた。
「これがですか」
「ブラジル料理は食べられたことがないのですか」
「いえ」
 カバリエの今の問いは否定した。
「ありますが」
「ですがここに並べられている料理は御存知ないようですが」
「食べるのはシェラスコですので」
 ブラジル料理の代表格である。肉を大きく四角に切ったものを串にまとめて突き刺す。それを炭火の釜の中で焼いたものである。ブラジル料理の代表格だ。
「ですがこうしたものは」
「ブラジル料理はシェラスコだけではありません」
 ここでカバリエは言った。
「こうした料理もあるのです」
「そうだったのですか」
「まずはこの青菜を炒めたものですが」
 見ればほホウレン草を炒めている。ただしそのホウレン草は緑ではなく本当に青かった。コバルトブルーのホウレン草なのである。
「これはコーベといいます」
「コーベというのですか」
「そしてこのミートパイとチーズパイですが」
 それは一見揚げ餃子にも見えるものだった。
「これはパスティスといいます」
「ふむ」
「してシチューですが」
 中にはベーコンやコンビーフ等が入っている。他に大豆やあら挽きソーセージ、それにトマトや玉葱、大蒜といったものも見える。
「これはフェジョアーダです」
「全体的に肉が多いのですね」
「それも牛肉です」 
 今度は八条の問いに答えたカバリエだった。答えているうちにそのラテンアメリカの民家を思わせる造りの店の中にサンバが聴こえてくるのだった。それはまさにブラジルだった。
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