第三十六部第二章 要塞へその十八
「敗北した場合はな」
「辛いものですね」
「敗北した場合にはあらゆることがそう言われるのですね」
「勝利は全てを覆い隠すが敗北は全てを露わにする」
まさに正反対である。
「そうなるのだ。わかるな」
「ええ、それは」
「嫌が応でも」
この嫌が応という言葉にこそ今の彼等の心境がはっきりと出ていた。
「わかります」
「敗北した場合は」
「そうなる。敗北は全てを敗因にも変えてしまう」
歴史において敗者への評価は実に苛烈なものである。特に戦争における敗者についてはとりわけそうである。名将も最後の敗北で酷評されるということも多々にしてある。
「全てをな」
「因果なことですな」
「敗北により全てとは」
「だからこそだ」
また言う太子だった。
「我等は勝たなければならないのだ」
「そうですね。生き残る為にも」
「歴史において烙印を押されない為にも」
ここでまた高官達が次々に言葉を出す。現実が恐ろしいものであればある程こうした深刻なものになる。自然とそうなるのだ。
「それではだ」
「はい」
「それでは」
「我が軍はまずはオムダーマン軍を叩く」
太子のこの考えはここでも変わらなかった。
「まずはな」
「そして次にティムール軍」
「そうですね」
「さて、どうなるかだ」
彼はまた言った。
「どちらにしろ方針は決まった」
「後はこちらの賽を投げると」
「既に相手は賽を投げている」
そのオムダーマン軍とティムール軍だ。彼等もまた賽を持っているというのである。しかも彼等はその賽をそれぞれ既に投げてもいるのだった。
「我々はそれに返して投げるのだ」
「果たして残るは、ですね」
「どの勢力か」
「それはハサンでなくてはならない」
ハサンから見ればこうなるのは当然のことであった。彼等にしても生き残る為には万全を期さなければならない。そして実際に生き残らなくてはならないのである。
「ではそのように話を進めましょう」
「それでは」
「これで話は終わりだな」
太子は話が一段落したと見てこう述べた。
「これでな」
「そうですね」
「それでは」
「会議を終わる」
彼は言った。
「以上だ」
「はい、お疲れ様でした」
「では殿下。これで」
「それぞれ持ち場に戻るのだ」
太子はこうも彼等に告げた。
「そして仕事に取り掛かるようにな」
「了解です」
これで会議は終わり高官達はそれぞれの持ち場に戻った。太子もまた会議を終えると国防省を出た。そのうえで自身の宮殿である東宮に戻ったのだった。
東宮に戻るとすぐに直属の部下達が来た。そうして彼に告げるのだった。
「殿下、宜しいでしょうか」
「どうした?」
「今年度の財政に関してですが」
告げてきたのはこのことだった。太子はその言葉を受けてすぐに目を向けてきた。
「財政か」
「はい。宜しいでしょうか」
「聞こう。何だ」
こう前置きしてから問うのだった。
「財政収入のことだな」
「そうです。収入が激減する見通しです」
そう報告されるのだった。
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