第九部第五章 戦いの意義その四
「さて」
それを受けてアッチャラーンは八条に顔を向けた。
「長官はそれでいいか」
「ええ」
八条はそれに応えた。
「後は外相だけか」
「私は最初から長官の御考えに賛成です」
「そうか。なら問題はないな」
アッチャラーンはそれを聞いてまた頷いた。
「それでは停戦するとしよう。だが条件が欲しいな」
「それはもう考えてあります」
八条は即答した。
「モントローズ要塞を。これで宜しいでしょうか」
「そうだな。それならば問題ない」
アッチャラーンもそれを聞いて満足した。
「それではすぐに交渉に入りたい。外相には交渉にあたるスタッフを選んでもらいたいが」
「わかりました」
カバリエはそれに応えた。
「それではすぐに人選に入ります」
「うむ」
アッチャラーンはそれを認めた。
「それではそちらは頼むぞ」
「わかりました」
こうしてスタッフの人選もはじめられた。彼等は同時に動きはじめた。
連合はエウロパと南方において一時停戦することとなった。すぐに交渉にあたる外務省のスタッフが南方に派遣されることとなった。そこには八条も参加していた。
「長官も行かれるのですか?」
「はい」
彼はエウロパに向かうティアマト級巨大戦艦の一つテスカトリポカの艦橋において外務省のスタッフの声に応えた。そこには艦長達軍部の者も当然いた。
「交渉ならば我々がしますのに」
「まあ色々とやっておきたいことがありまして」
彼は微笑んでそう答えた。
「視察もありますしやはり軍事のことですから私が行かなくてはならないでしょうし」
「はあ」
「それに。彼にも会ってみたいです」
「彼とは?」
「おっと」
八条はここで言葉を引っ込めた。
「何でもありません。失礼しました」
「そうですか」
外務省のスタッフはそれ以上聞こうとはしなかった。何かあると思ったが今それを聞くつもりはなかった。
「わかりました。それではお願いします」
「ええ」
彼等の乗るテスカトリポカは太陽系を出た。冥王星が彼方に見える。かっては太陽系において最も離れた場所にあると言われていた。だが今は違う。
「雷王星も遠くなりましたな」
「はい」
八条はテスカトリポカの艦長である金青虎大佐に応えた。彼は韓国出身である。基本的にアジア系の顔立ちだが髪がやや縮れている。そこからアフリカ系の血が入っていることがわかる。
「そろそろワープに入るとしますか」
「ですね」
「よし」
金はここで艦橋の制服の者達に声をかけた。
「副長、航海長」
「ハッ」
隣にいる二人の軍人がそれに応えた。
「ワープに入る。準備はいいか」
「わかりました」
こうして彼等もそれぞれの持ち場についた。そして指示を下した。
「本艦はこれよりワープに入る」
「ワープ航行開始準備」
次々に指示が下る。そしてワープに入った。艦橋の前のモニターが暗黒に包まれた。異空間に入ったのであった。
「これから長い旅になりますね」
八条はその暗闇を見ながらそう呟いた。
「宜しくお願いします。これから何かと大変でしょうか」
「いえ、そのような」
金は長官のそんな言葉を聞いてかえって恐縮してしまった。
「むしろ長官の方が。艦内でも仕事があるのですよね」
「ええ」
仕事は逃がしてはくれない。彼はここでも仕事に追われているのである。パソコンからメールで山の様に送られているのである。彼に休みはなかった。
「それでは少し部屋に行かせて頂きます」
「はい」
八条は用意された自分の部屋に向かった。艦長他一同がそれを敬礼で送る。そして艦橋を出た。一人の士官に部屋まで案内される。女性の士官であった。階級は中尉である。
「こちらです」
「どうも」
彼はその女性中尉に応えた。
「有り難うございます。案内して頂いて」
「いえ、これが任務ですから」
彼女はそれににこやかに答えた。見れば金色の髪をした白人の女性である。目は青灰色であり背も高い。モデルとしても通用する顔立ちとプロポーションを持っていた。それは連合の軍服で包んでいた。
連合の軍服はスーツ型である。黒い上着とズボンである。そして黒い靴を履く。ネクタイも黒である。そしてシャツは白だ。これは下士官及び将校のものとなっている。兵士は水兵の軍服である。やはり黒のセーラーである。連合軍においては男性も女性もズボンを履く。その方が動き易いからである。
下士官と将校の軍服は大体同じだが違いがある。それはまず帽子にある。
下士官のものにある徽章と将校の徽章は違う。そして顎紐は下士官は黒であるが将校は金色である。靴も下士官のものは動き易いものであるが将校のものは事務用のものとなっている。そして軍服の両腕の部分に金モールがある。これが最大の差であった。
まず少尉は細いものが一本ある。中尉になると太いものが一本つく。大尉になるとその太いものが二本になる。こうして徐々に増えていくのである。それが階級を現わしているのだ。下士官、兵士は肩に近い部分に階級章を縫い付ける。連合軍は軍服ですぐに階級がわかるようにしているのだ。エウロパ軍が肩に階級章を付けているのとはかなり違っている。そしてさらに大きな違いがあった。それは機能性である。
エウロパ軍のそれは儀礼を重視している。とりわけ将校、特に将官のそれはそうであった。これは彼等が貴族であるからであった。赤と黒に豪奢な装飾が施された軍服にはネクタイはない。胸は締められている。そしてマントもある。佐官はケープを着ける場合もある。それに対して連合軍のそれはマントなぞない。そしてデザインもまず動き易いかどうかを考慮されている。そして戦闘中には戦闘服を着る。エウロパではそれがない。両軍は軍服に至るまでその考え方が異なっていたのである。
「任務ですか」
八条はそれを聞いて声を出した。
「お疲れ様です。何かと大変だと思いますが」
「いえいえ」
だが彼女はそれに対して笑みで返した。
「甲板士官としては当然のことです」
「甲板士官ですか。懐かしい言葉ですね」
八条はそれを聞いて目を細めた。甲板士官とは艦の風紀や雑用を統括する士官である。若いなりたての士官が勉強の為になることが多い。
「私もやりましたよ」
「長官もですか」
「はい。日本軍にいた時に。あの時は寝る暇もなかったですね。これは今もですが」
「おや」
彼女はそれを聞いてまた笑った。
「私はまだ寝る暇がありますけれど」
「士官の数がそれなりにいますからね。それにこの艦ですと甲板士官も一人ではないでしょう」
「ええ」
それは事実であった。
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