第三十六部第二章 要塞へその八
「砂糖はいい」
「砂糖はですか」
「そうだ。紅茶と砂糖は下げてくれ」
こうも言うのだった。
「そして紅茶はだ」
「どうされますか?」
「貴官達で飲んでくれ」
自分は口をつけないがそれでも無駄にはしないということだった。こうして選ばれなかった方を下の者達が勧められた上で飲むのはサハラだけでなく連合やエウロパでも同じである。エウロパに至ってはそれで貴族の御馳走や美酒にありつける為役得にもなっている。
「いいな」
「はい、それでは」
「そのように」
兵士達が答えた。ここでは当直士官は答えなかった。
「させて頂きます」
「ではコーヒーを」
「すぐに持って来てくれ」
こうも彼等に告げるアッディーンであった。
「そのコーヒーをな」
「わかりました」
「では」
こうしてそのコーヒーが運ばれてきた。それと共に運ばれてきたのはチョコレート菓子であった。四角いチョコレートのお菓子であった。
「チョコレートか」
「はい」
「如何でしょうか」
また当直仕官と兵士達が彼に問う。
「これにつきましては」
「シェフの手作りですが」
「手作りなぞ特別に作らなくともな」
だがアッディーンは今の言葉に少しばかり曇った顔になるのだった。
「別にいいのだが」
「宜しいのですか!?」
「何故」
「コーヒーはまだいい」
コーヒーはいいというのである。
「これについてはな」
「宜しいといいますと」
「それは一体」
「元々艦に積んである豆だな」
そのコーヒー豆のことである。コーヒーはコーヒー豆から煎れられるのは不変である。コーヒーがコーヒーである限り変えようのないことである。
「そうだな」
「はい、そうです」
「その通りです」
「ならいい。だがシェフが私だけの為に特別に作るとなるとだ」
「それは駄目なのですか」
「そうだ」
こうはっきりと述べるのだった。
「それは駄目だ」
「またそれは」
「どうしてでしょうか」
「私も戦場にいるからには同じものを食べなくてはならない」
彼はここでこう彼等に告げるのだった。
「戦場にいるオムダーマン軍の全ての将兵達と同じものをだ」
「同じものをですか」
「食べなくてはならないと」
「そうだ。同じものをだ」
また言うアッディーンであった。
「食べなくてはならない。それでどうして特別に作った菓子を食べろというのだ」
「ですがこれは」
「司令ですから」
だがそれでも彼等はいうのであった。
「せめてもというシェフの心尽くしです」
「ですからどうか」
「それではだ」
アッディーンは彼等のその言葉を受けてまた言ってきた。
「この菓子は全ての艦艇で作るのだ」
「全てのですか」
「そうだ。参加する全ての将兵が同じものを食べる」
アッディーンの強い信念の一つであることがわかる言葉であった。実際に彼は今までそうしてきている。兵士達と同じものを食べているのである。
「だからだ。わかったな」
「ではすぐに報告させて頂きます」
当直士官が今の彼の言葉を受けてはっきりと述べてきた。
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