第三十六部第一章 エウロパの英雄その十一
「しかも陰謀を使うことにも躊躇しませんし」
「人間としてはな」
そうした話を聞いたうえでラフネールは呟いた。
「とんでもない人物だ」
「全く以ってです」
「しかしだ」
だがここでラフネールはまた言うのだった。
「カリスマ性がある」
「その通りです」
「そこまでできるのもまたカリスマ故だ」
汚職や派手なスキャンダルについての言葉である。
「彼のな」
「確かに彼を嫌う声は少ないです」
これもまた事実であった。
「それも非常に」
「市民の間からも熱狂的な支持がある」
実際にカミュはエウロパにおいて最も人気のある政治家の一人でもあるのだ。確かにスキャンダルは多いがその整った美貌と明朗な声、それに高貴でありながら飾り気のない、かつ気品のある人柄が貴族達だけでなく平民達からも人気を得ているのである。
「それでもだ」
「そうした人気も考えてのことです」
また答えるボーデンだった。
「やはり彼こそがです」
「改革派の総統候補者か」
「はい」
結論としてはこれであった。
「彼しかいません」
「その通りだ」
そしてボーデンの今の言葉に頷くラフネールだった。
「本当にな」
「既に当人もそのつもりです」
ボーデンはこうも言い加えた。
「総統選に出るつもりです」
「当人もか。では問題はないな」
「はい」
「我々の候補はこれで決まった」
まずはよしとすることであった。
「これであの侯爵に対抗するか」
「いえ、もう一人います」
だがここでまた言ったボーデンだった。
「もう一人が」
「そうか。そうだったな」
そして今のボーデンの言葉を否定できないラフネールだった。
「保守派もいるのだったな」
「その通りです。彼等もまた相当候補者を出してきます」
このこともラフネールに対して告げるボーデンであった。
「当然ながら」
「しかしだ」
ラフネールは今のボーデンの言葉には逆接で返した。それは否定に他ならなかった。
「今保守派に適切な候補者がいたか」
「適切なですか」
「そうだ。いただろうか」
ボーデンに対する問い返しにすらなっていた。
「今の彼等は現状維持だけで精一杯だ」
「どうやらそのようですね」
「それで誰かいるか」
また問うラフネールだった。
「我々のカミュ内相やあのスタンフォード侯爵に対抗できるようなな」
「少なくとも今はいません」
これが今のラフネールの言葉に対するボーデンの答えであった。
「今はです」
「今は、か」
「人材は見つけるものです」
ボーデンはまた言った。
「おらず、そしていない場合はです」
「見つけるのか。そうだな」
「簡単に言えばスカウトです」
ボーデンはあえてドライな表現で話をしてみせていた。
「スカウトするのです」
「では今保守派はだ」
「はい」
話はこのドライな表現で動きはじめた。これもまたボーデンの読みでありラフネールもこのことをわかってうえで彼の話を聞いていた。
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