第九部第五章 戦いの意義その一
戦いの意義
エウロパ軍はブレシア、そしてモントローズに主力を向けていた。彼等はそこで連合軍と対峙するつもりであった。彼等は同時に決戦の覚悟を決めていた。
ブレシアには軍務大臣であるシュヴァルツブルグ自ら向かっていた。その下にはエウロパ軍の精鋭である多くの艦隊があった。それ等の艦隊は全てそれぞれの色により艦艇を塗装されていた。赤い艦隊もあれば青い艦隊もあった。彼等は『竜騎士団』と呼ばれていた。この名には由来があった。
竜は多くの種類があると言われている。赤い竜もいれば青い竜もいる。彼等はその色と吐く息により種類が分けられているのである。
赤い竜は炎を吐き青い竜は雷を吐く。そうしたふうに分けられているのである。彼等はその竜のように勇敢に、誇り高く戦うことを意識してそうした色にし、名乗っているのである。彼等もまた武人でありその心意気を見せているのである。
彼等が出撃するということはそれだけこの戦いがエウロパにとって重要なものであるということであった。シュヴァルツブルグは今決戦を挑むつもりであったのだ。
「閣下はあの場所に竜騎士団を送られた」
モンサルヴァートはモントローズに向かう途中乗艦であるリェンツィにてそう語っていた。その周りには参謀達や彼自身が率いている艦隊の司令達が並んでいた。
「それが意味するものは決戦だ」
「はい」
皆彼の言葉に頷いた。
「おそらくブレシアでの戦いは激しいものになるだろう。だがそれはモントローズでも同じことだ」
「今モントローズ要塞は連合軍の大軍が向かっております」
クライストが口を開いた。
「その数四百個艦隊、そしてサハラ義勇軍が四十個艦隊です」
「合計四百四十個艦隊か」
「はい」
「それでも方面軍としては一番少ないのか」
「そうです」
クライストは答えた。
「ですがそれでも」
「うむ」
彼は呟く。
「それでも我等の優に八倍はいるな」
モンサルヴァートはこう呟いた。そこには明るいものは感じられなかった。
「我が軍は今五十個艦隊だ。それで相手になると思うか」
「・・・・・・・・・」
それを聞いて皆沈黙してしまった。相手になるとは誰にも思えなかった。それはもう言うまでもないことであった。だから沈黙してしまったのだ。
「モントローズ要塞には二十個艦隊程いたな」
「はい」
ニルソンが答える。
「そして総督府軍として二十個艦隊です」
「合わせて九十個艦隊か。周辺にいる部隊を全て集めても百をかろうじて越えるといったところだ」
「数においての劣勢は否定できません」
マトクの声は沈痛なものであった。
「ですがそれでも我等は目的を達成しなければなりません」
「目的と言ったな」
「はい」
マトクはモンサルヴァートに対して応えた。
「今回は目的を達成することこそが重要なのです。違うでしょうか」
「いや」
モンサルヴァートはそれに対して首を横に振った。
「その通りだ。この戦いは勝利を収めることが重要ではないのだ」
「どういうことでしょうか」
ゴドゥノフが尋ねた。
「勝利を収める必要がないのですか」
「そうだ」
モンサルヴァートは彼に顔を向けてそう答えた。
「要は総督府にいる二百億の市民を安全な場所にまで避難させればよいのだ」
「市民達をですか」
「そうだ。私の言わんとしていることがわかっただろうか」
「はい」
ゴドゥノフはそれに答えた。
「ですがそれにはまず敵を何とかしなければなりません」
「それだ」
モンサルヴァートはそこに言葉を入れた。
「時間もあまりないだろうからな」
「時間もですか」
「今サハラではティムールがいる」
「はい」
「彼等が動いてからでは遅いのだ。だから市民達はもう避難を開始しているのだ」
「その市民達の避難ですが」
プロコフィエフがここで言った。
「今彼等は皆それまでいた星を離れました。そして随時モントローズに向かっております」
「そうか。思ったより早いな」
「総督府の艦隊はそれを護衛しております。彼等も徐々に北に逃れております」
「二百億の市民全てがモントローズを通過するまであとどれ位かかるか」
「二ヶ月程かと」
「二ヶ月程か」
彼はそれを聞いて考える顔をした。
「難しいな、今の戦局だと」
「残念ながら」
それはプロコフィエフだけの意見ではなかった。ここにる多くの者も同じ考えであった。
「連合軍がモントローズに到着するまであと一週間程ですから」
「我等が到着するのとほぼ同時になるな」
「はい」
彼女は答えた。
「ですから戦いと援護を同時に行うことになるでしょう」
「問題は市民の安全だ」
モンサルヴァートの目の光が変わった。深刻なものとなる。
「それは何としても確保しなければならない」
「はい」
プロコフィエフだけでなく諸将がそれに頷いた。
「ですが困難ですな」
「いや、そういう問題ではない」
腕を組み考え込むアローニカに対してターフェルが言った。
「例え我々の命がどうなろうと彼等だけは保護しなくてはならないのだ」
「ターフェル提督の言う通りだ」
モンサルヴァートはそれをよしとした。
「閣下」
「諸君、我々は何だ」
そしてそのうえで彼等に問うた。
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