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第三十五部第三章 教育者その二十二
「そうやって抜け道を使ってだな」
「はい、何とか我慢してくれています」
 酒に関してはなのだった。実際のところ酒がないわけではないし飲まないわけではない。あの上杉謙信も毘沙門天を篤く信仰し生涯妻帯しない程その信仰は篤いものであったがそれでも酒を愛していた。出家して僧侶ということになっても酒は飲んでいたのだ。
「ですがカロリーが」
「そこは我慢してもらうか」
 八条はそれに対しては仕方がないといった感じであった。
「研修ということでな」
「そうですか。そのように」
「量については何も言ってはいない」
 それは誰も制限していなかった。
「それで我慢してもらおう」
「わかりました。それでは」
「朝も夜も早いのも研修のうちだ」
 宗教家の朝は何処も早い。豆腐屋に魚屋、それと宗教家の朝が早いのはこの時代においても同じである。これが変わることはないのだ。
「だからそれもな」
「それについては不満はないようです」
 木口はこれについては大丈夫だというのだった。
「生活に関しては」
「それは我慢できるか」
「軍人も彼等程ではありませんが朝が早いですし」
「そうだな」
 これは八条もよく知っていることだった。
「総員六時に起きる」
「はい」
 起床時間はもう決まっているのだ。
「五分前には声が出てそうして六時になると起床ラッパが鳴る」
「そうして起きて」
「そうだ、すぐに着替えて整列だ」
 軍ではこうなっている。このことは不変である。
「だからそれは困っていないのか」
「安心していいそうです。それは」
「そうか。それは何よりだ」
 それを聞いて安心した声を出す八条だった。
「それはな」
「はい、それどころか朝から起きて身体を動かさないだけまだいいそうです」
 そして木口は今度はこんなことを言った。
「体操にランニングに」
「それも軍の常だからな」
 やはり常に身体を動かすということなのだ。軍だからこそだ。
「それがないからか」
「低血圧の者には特に有り難いそうです」
「朝起きればまず礼拝をしてそれから掃除だったな」
「そうです」
 これが宗教家の朝だ。朝起きてからそうして穏やかに一日をはじめるのだ。
「そうした朝が穏やかとのことです」
「どうも話は一長一短ということのようだな」
「実際のところ肉や魚は街に出て食べているそうです」
「それ位はいいな」
 八条は決して堅苦しい男ではない。その程度のことは何でもないとしていた。
「外で何を食べようがな」
「そうですね。それはですね」
「どうでもいいことだ。それではだ」
「はい」
「全体として上手くいっているのだな」
 こう木口に対して問うのだった。
「この研修は」
「そうですね。満足すべきかと」
 木口も実際にこう述べるのだった。
「今の状況は」
「わかった。それではだ」
「どうされますか?」
「このまま話を進めていこう」
 こう決定したのだった。
「それでな。これでいいか」
「はい、いいと思います」
 木口もまた彼の今の言葉に頷いた。
「それで」
「よし、それならばだ」
 八条は彼のその言葉を聞いてまずは納得した顔になった。
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