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第九部第三章 進撃その十一
「エウロパとの戦いは順調みたいね」
「ええ、それは」
 八条は明るい顔でそれに答えた。
「先程会議の場でお話した通りです」
「それならいいわ」
 伊藤はそれを聞いて笑みを作った。
「第一の攻撃目標はオリンポスね」
「はい」
 八条は頷いた。
「それも会議でお話した通りです」
「ただ戦線はエウロパの北から南まで、そして上から下まで広げているわね」
「戦線に穴を作らない為です」
 彼はそう答えた。
「そこから戦線に乱れが生じると危険ですので。サハラ義勇軍を先陣に少しずつ進撃させております」
「それでいいと思うわ。けれど地の利は向こうにあるということを忘れないでね」
「はい」
 彼はまた頷いた。
「それはわかっているつもりです」
「ならいいわ。ただ南方のあの要塞には気をつけてね」
「モントローズ要塞ですね。勿論です」
 モントローズ要塞とはエウロパ本土と総督府を結ぶモントローズ星系にある要塞である。サハラ北方侵攻の足掛かりになった場所だけでなく今も中継地として重要な場所となっている。エウロパの重要な軍事拠点の一つであるのだ。
「あの星系へは精鋭を向かわせております」
「義勇軍の中でもとりわけ精強な部隊のようね」
「はい。彼等ならやってくれるでしょう」
 八条は自身に満ちた声でそう言った。
「言い換えるならばやってもらわねば困ります」
「期待しているようね、彼等に」
「そうでなければ向けませんよ。ただ気になることがあります」
「何かしら」
「エウロパ総督府軍のことですね。彼等がどう動くか、です。今のところは総督府に駐留しているようですが」
「エウロパにとって貴重な戦力であることは事実ね」
「はい。彼等の行動が今後の戦局に大きく左右します。動いた時の事を考えておかなければ」
「ティムールはどうなのかしら」
「ティムールですか」
「ええ」
 伊藤は答えた。
「彼等の動きはまだ何も見られません。用意はしているようですが」
「そう、やっぱりね」
「やっぱり」
「そうよ。あのシャイターン主席だけれど私はあまり信用しない方がいいと思うわ」
「それは何故でしょうか」
「彼の今までの行動を見ているとね。確かに優れた政治家であり軍人であると思うけれど」
「それだけではない、と」
「そうよ。彼は天性のマキャベリストよ。目的の為ならば手段を選ばない」
「歴史では時折見られるタイプですね」
「ただ、彼の違う点はそれを正当化できることかしら。アッラーの名の下に」
「アッラーの名の下に」
「そう。嘉美が後ろにいるとね。強いわよ」
「あまりよくはわかりませんが」
 八条はそれを聞いて首を傾げた。
「そういうものでしょうか」
「君は確か仏教と神道を信仰していたわね」
「はい、それと天理教です」
「けれどイスラムのことは知っているでしょう」
「連合でのイスラムとサハラでのイスラムはかなり違うということは知っております」
「だったら話が早いわ。いい?」
「はい」
 連合のイスラムはかなり寛容なものである。一応豚肉や鱗のない魚、酒はご法度ということになっており軍においても分けられているが実際にはユダヤ教徒の方がそれに対して厳格であったりする。連合のイスラム教徒はアッラーに謝罪をしたならば食べたりもする。当然厳格な考えの持ち主もおりそうした者は口には入れないが多くは食べていたりするのである。連合は比較的そうした戒律には寛容な考えなのである。
 だがサハラでは豚肉も鱗のない魚も食べられない。酒は飲めるがそれだけである。そもそも砂漠において発展し、傷み易いという理由から遠ざけていたのであるから砂の多いサハラ各国においてはそれも当然であった。
「彼等は強烈な運命論者でもあるの」
「全てはアッラーが定めたこと」
「そう。だからシャイターン主席の行動も全てアッラーが定めたことなのよ」
「都合がよいと言えば都合がよいですね」
「確かにそうだけれどね。けれど自己を正当化するには都合がいいわね」
「ですね。ただ彼はそれでもかなりアッラーへの信仰は篤いように思えます」
「どうしてそう言えるのかしら」
「いえ、条約締結の時ですけれどね」
 八条は言った。
「話を聞くところによると礼拝を欠かさないそうです。そして常にコーランを側に置き読んでいるとか」
「連合ではあまりいないタイプね」
「ええ。だからこそ余計そう見えたのかも知れませんが」
「サハラの信仰心の篤さは今更ではないけれど。けれどそれでも印象的ね」
「はい。彼の実家のこともあるでしょうが。それでも意外と言えば意外ですね」
「人間はそうしたところもあるけれど」
 伊藤は考えていた。
「けれど彼の考えを読んでいくうえで重要になるかもね、これから」
「はい」
「さしあたっては今回の戦争にどう動くか、ね。問題はそこよ」
「ええ。信用はできませんがね」
 二人は話を終えると分かれた。そして八条は自分のホテルに戻った。そこでは木口が待っていた。
「お帰りなさい」
「待っていたかな」
「いえ、そうでもありません」
「そうかな。予定より三時間も遅れてしまっているのに」
「何、その間こちらも楽しませてもらいましたから」
 見ればテレビにゲーム機がついている。彼はテレビゲームを趣味としているのだ。
「かなり進みましたよ」
「今は何のゲームをしているんだい?」
「ロールプレイニングですね。宇宙を舞台にした」
「宇宙を」
 それを聞いて首を傾げた。普通ロールプレイニングといえば架空のヨーロッパやそうした世界を舞台とするからである。連合においてはそれぞれの国を舞台とした作品が多い。日本を舞台にしたものも西部を舞台にしたものも唐を舞台にしたものもある。中には核戦争後の世界を舞台とした荒涼としたゲームも存在する。
「またえらく変わっているな」
「そうでしょう、未来の連合を舞台にしたものです」
「未来の?」
「はい。千年後のです。宇宙人との戦いですよ」
「面白いかい、それ」
「ええ。一度やると病みつきになりますよ。シリーズで八作目まで出ていますし」
「九部作とかそういったものになりそうだね」
「ええ、この前九部の発売が決定しました。ただそれで完結ではないようですが」
「そうだろうね」
 八条はそれを聞いて納得した。
「ゲームは売れるだけ続くからね。売れるとなれば何時までも続編が出るものさ」
「クールですね」
「それなりにゲームも好きだからね。ネットのゲームもやるよ」
「そうなのですか」
「ああ。けれどね」
 八条の顔が少し曇った。
「ネットのゲームはね。マナーの悪い人がちらほらしているのが」
「それは仕方ありませんよ」
「わかってはいるけれど。この前やっていたら闇討ちを受けたよ。宝物を取る為にね」
「まるで夜盗ですね」
「ああ。それも十人、二十人で。あれには参ったよ」
「それがネットゲームの醍醐味でもありますけれどね。何が起こるかわからない」
「だから私はテレビゲームの方がいいね。最近はそればかりしているよ」
「長官はどんなゲームがお好きですか」
「そうだな」
 問われて暫し考えてから口を開いた。
「スポーツのゲームはよくやるね」
「成程」
「野球にしろサッカーにしろアメフトにしろ。それも育成ゲームが多いかな」
「面白いですか?」
「面白いよ。自分が育てた選手が活躍するんだ。見ていて飽きないよ」
「一度やってみようかな」
「やってみたらいいよ。何かと仕事の参考にもなるだろうし」
「仕事の、ですか」
「そうだね。それで今の仕事にも役立てているし。ゲームも色々と使えるものだね」
「確かに」
「けれどもう闇討ちには遭いたくはないな」
「ははは」
 二人はそうした話をしながら今度は野球ゲームをはじめた。対戦であり互いにチームを選んではじめた。
「野球はやはり攻撃と守備だね。特に守備のいいチームが勝つ」
「いやいや、戦術を駆使して勝つのが面白いんですよ」
 そう話をしながらゲームを続けた。ほんの一時の息抜きの時間であった。
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