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第三十五部第二章 日本国首相その二十六
「本気で一緒になれるとは中々思えないものなのよ」
「だから長官は結婚できないと」
「本人も全く気付かないし」
 つまり双方に重大な問題があるということだった。話が進まない場合一方にだけ問題があるのではなく双方に問題がある場合が多いのである。
「そういうことだから」
「では長官には」
「八条家ともお話してみるわ」
 伊東は腕を組み少し首を右に傾けて述べた。
「時間を見つけてね」
「わかりました。それでは」
「ええ。じゃあ話はこれで終わりね」
 ここまで話をしてそれでであった。
「これでね。じゃあこれからどうするの?」
「すぐに仕事です」
 東は微笑んで述べたのだった。
「国軍の士官学校に行って訓話があります」
「そう。国の士官学校に」
「第二士官学校です」
 国軍にしろ士官学校は幾つかあるのだ。軍の規模が大きければ将校の数も多く必要になるからだ。もっとも連合軍では大将までは多いが元帥になるとぐっと少なくなるのは先に二人が話した通りである。
「そこに向かいます」
「わかったわ。それじゃあね」
「はい、それでは」
「あと国軍と中央軍の間の人員の移動だけれど」
「それも順調に話が進んでいます」
 中央軍と各国軍の関係は簡単に言うとかつてのあめりか合衆国のアメリカ軍と州軍の関係に似ているが人員の移動が自由なのが大きな違いである。
「それもまた」
「わかったわ。それもね」
「はい」
 東はここまで話して一礼してから官邸を後にした。伊東は一人になるとまた仕事に入った。その仕事が夜の八時まで続いたがここで秘書が入って来た。
「総理、宜しいでしょうか」
「ええ。時間ね」
「そうです。時間です」
「そう。わかったわ」
 秘書のその言葉に静かに頷いて答えるのだった。
「ではすぐに」
「前総理がお待ちかと」
「あの人はそんなにせっかちだったかしら」
「時々せっかちになられる方かと」
 秘書は少し微笑んで述べてきた。若い知的な美女である。
「あくまで時々ですが」
「そういえばそうだったわね」
 伊東は彼女の言葉を受けて面白そうに微笑んだ。
「時と場合によってせっかちになる人だったわね」
「あれで気分屋でもあられますので」
「ええ。じゃあすぐにね」
「お仕事はお車の中でもされますね」
「そうね。ただしよ」
 しかしここで伊東は言うのだった。
「お酒は飲まないわ」
「それはですか」
「飲みたいところだけれど今日はまだ仕事があるから」
 こう言うのだった。
「だからね」
「お仕事がですか?」
 ここで秘書は伊東の机の上を見た。見れば朝と比べて整然とされていた。埃一つ落ちておらず書類もCDもパワーメモリーも置かれてはいない。パソコンの電源も落ちている。
「もう終わるところでは?」
「総理としての仕事は終わりよ」
 それは終わりだというのである。
「日本軍最高司令官代理の仕事もね」
「では全て終わりなのでは?」
 これはどの国の大統領や首相の仕事である。ただ国家元首や閣僚の首席であるだけではないのである。その政党の総裁でありその国の軍の最高司令官でもあるのだ。
「それでは」
「そう。総裁としての仕事はこれからの前首相とのお話で終わりよ」
 それも終わるというのだ。
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