第三十五部第二章 日本国首相その十六
「貴方達がまたどうして」
「はい、実はです」
「陛下のことで」
その帝のことであるというのだ。
「お話があるのですが」
「宜しいのでしょうか」
「一体何かしら」
彼等を見ながら問うのだった。
「それでお話とは」
「それですが」
「帝もまたよい御歳になられました」
彼等はまずここから話すのだった。
「ですから。もうそろそろと思っているのですが」
「その。御相手ですが」
「そうね。それね」
伊東は彼等の真剣な声に考える前で返すのだった。
「帝はただ帝であられるわけではないのだから」
「伴侶がいないとやはり」
「他の国々に申し立ちができません」
「そうなのよね。ここが難しいのよ」
伊東はこう言って腕を組んで難しい顔になっていた。それを隠すこともしなかった。
「これが大統領ならね」
「そうです、あまり体裁がいいとは言えませんが」
「それでも話はいけます」
そうなのだった。国際社会において大統領や首相が独身でも特に問題はない。しかし皇帝や国王といった存在はそうはいかないのである。
「ですが我が国は天皇陛下です」
「陛下が御一人で何時までもおられるというのはあまりにもです」
彼等の話は続く。
「我々も今探しているのですが」
「総理は誰か思い当たる方はおられますか?」
「陛下の生涯の伴侶となられるべき方は」
「そうね。今まで皇室の中の方や我が国の名門出身」
どの国にも名門というのはある。貴族制のエウロパ程ではないにしろどうしてもそうした家はどの国にも存在するものだ。そしてどの時代にもだ。
「若しくは」
「他の国の王家の方ですが」
「どなたが宜しいでしょうか」
「エチオピア皇室はどうかしら」
伊東は考える顔でまた述べたのだった。
「エチオピア皇室で。確か若くて能力的にも優れた方が何人かおられたわよね」
「はい、そういえばあちらも」
「伴侶を選ばれるのに苦労されているとか」
彼等もなのだった。皇室の方の御成婚が常に騒ぎになり政治的な問題になるのは日本だけではないのだ。他の国でも同じなのである。
「それを考えるとこちらから話をすれば」
「向こうにとっても有り難い話でしょうか」
「そうだと思うわ」
伊東はエチオピア皇室の立場になって考えたうえで述べた。
「皇室は何によって皇室であるかを考えれば」
「血統が途絶えることだけは避けなければなりませんから」
「ですから」
「そうなのよね。そしてそれを考えるのもまた私の仕事で」
「我々の仕事であります」
「皇室の方々の為に」
宮内省は何処でも特殊な省庁である。国民の為にあるのではなくまず皇室や王室の為にあるからだ。もっともそれが同時に国民の為でもあるのだが。
「ですから何としても見つけたいのですが」
「首相に何かよいお知恵は」
「そのエチオピア皇室かしら」
彼女が推すのはこの皇室であった。
「家柄としては文句はないわよね」
「はい、エチオピア皇室ならば」
「何の問題もありません」
「シバの女王からの名家」
少なくともそうされている。日本の皇室はおよそ三八〇〇年とされているがエチオピア皇室はそのはじまりが不明とされている。成立が伝説の時代だからだ。
二十世紀には悪名高きメンギスツ政権により消されてしまった。しかし後にその末裔を何とか見つけ出して復活させているのである。今ではれっきとしたエチオピア皇帝である。
それだけに毛並みで言えばそれこそ日本の皇室より上とも言われている。少なくとも連合でたった二つの皇室である。新興国家はこの二国に遠慮してどの国も王で留まっているのだ。皇帝は王よりも上にある、この意識はこの時代においても健在なのである。
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