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第九部第三章 進撃その八
「わかりました。それでは貴女を信じることにしましょう」
「有り難うございます」
 こうしてロシアは日本につくことにした。それを見てマックリーフと李の目の色が少し変わった。首脳達はそれを見て動きがあると見た。これで連合の四大国が完全に二つに分かれたのだ。だが大国はまだある。マックリーフと李はすぐに動いた。
「ロベルト大統領」
 マックリーフはブラジル大統領プラシド=ロベルトに声をかけた。
「何でしょうか」
 黒い髪に瞳、そして低い鼻の白人がそれに応えた。彼の髪や鼻はアジア系のものであった。
「貴方はこれについてどう考えておられるでしょうか」
「私がですか」
「はい」
 マックリーフはそれに頷いた。
「何か御考えがあると思いますが」
「そうですな」
 彼はそれを受けて考えはじめた。ブラジルはロベルトの政権ではアメリカと関係が深いのである。マックリーフはだからこそ彼に声をかけたのである。そしてロベルトはここはマックリーフに応えることにした。恩を売っておくつもりなのだ。
「私はそのマーシャル氏という人物をよく知りませんからな。いきなりここで指導者に相応しいと言われても考えてしまいます」
「そうですか」
「はい」
 それを聞いたマックリーフの顔に笑みが浮かんだ。
「私もそれに同意です。どうもそのマーシャル氏という人物を知らないものでして」
「お知りになりませんか」
「はい」
 伊藤に対しそう答えた。
「残念なことですが」
「そうですか。ですがそれは今の時点では、ですね」
「はい」
 問われたマックリーフの顔色が変わった。
「それが何か」
「閣下はマーシャル氏を御存知ないだけだということを知り安心したのです」
 伊藤はそう答えた。実は彼等がマーシャルを知っているといことは気付いてはいる。
「違いますか」
「いえ」
 マックリーフはそれを否定してみせた。
「これは新たな国家の建設に関わることですので重要なお話だと考えております」
 伊藤はここで言った。
「ですからあらためてお話したいと考えております」
「何をでしょうか」
 皆伊藤の口調が変わったことを察していた。それを受けて話を聞く。
「マーシャル氏を連合中央政府に紹介したいと思います」
「その人物をですか」
「当然です。一国の首脳になられるかも知れない方なのですから」
「確かに」
 李がそれを聞いて呟いた。
「ですがそれは何処ででしょうか」
「中央議会です」
 伊藤はすぐにそれに答えた。
「そこで彼に演説をしてもらいたいと考えているのですが」
「我々の前でもですね」
「はい」
「ならば問題はありませんな」
 グリーニスキーがここでマックリーフや李より先に口を開いた。
「むっ」
 それを受けて二人は顔を一瞬顰めさせた。
「それでいきましょう。議長、それでよろしいでしょうか」
「私はそれで問題ないと考えております」
 サガモはグリーニスキーに対してそう答えた。ザイールは日本との関係がわりかし深いことも関係していた。それを知っているマックリーフ達は内心舌打ちしていた。
「それではこれで決まりです」
 グリーニスキーが議長を代弁するかのようにあえて大きな声で言った。
「この戦いが終わった後マーシャル氏の演説を連合中央議会そして各国の首脳達の前で行う。それで宜しいでしょうか」
「異議なし」
 アメリカ、中国と彼等と関係の深い国以外はそれに賛成した。それだけで過半数はあった。しかしグリーニスキーはそこでまた突っ込んだ。
「閣下」
 彼はマックリーフ達に顔を向けて来た。



「それで宜しいでしょうか」
「はい」
 何とか感情を押し殺してそれに答える。内心では思うところがあってもやはり出すわけにはいかなかったのだ。それは李も同じであった。
「わかりました」
 李も頷いた。彼等が頷けば他の者も頷くしかなかった。こうしてマーシャルの件は満場一致という形で決定した。伊藤はそれを見て優雅に微笑んでいた。
 会議はそれからも続いた。だが先の二つに比べるとそれ程重要なものではなかった。エウロパとの戦いにおける戦局とこれからの流れについての確認等であった。こうして会議は終わり皆その場から離れた。
「総理」
 八条は会議が終わると伊藤に声をかけた。
「何かしら」
「先程のお話についてですが」
 彼はそのマーシャルという男について聞くつもりだった。そして伊藤もそれを察していた。
「ここでは何だから場所を変えましょう」
「はい」
 誰かに聞かれる恐れもある。八条はそれを受けて伊藤と二人でホテルに戻った。それは伊藤が借りていたホテルの一室であった。
「ここで二人でいると不倫と思われても仕方ないわね」
 伊藤はホテルに戻るとそう呟いた。ロイヤルスイートルームであった。
「まさか」
 だが八条はそれを一笑に付した。
「考え過ぎです。そんなことありませんよ」
「確かに君の場合はそうした話がないけれどね」
 伊藤は少し苦笑しながらそう言った。
「けれど普通はそう勘ぐられるから。だからここで話すのも結構危ないことなのだけれどね」
「はい」
「まあいいわ。ここには主人もいるし」
「御主人もですか」
「そうよ。丁度学会があってね」
 伊藤は夫のことについても話をした。
「それで一緒のホテルに泊まってるのよ。おかげでここは自費よ」
「それはまた」
「本当はお金がかかるからロイヤルスイートは避けたかったのだけれど。ほら、私も一国の首相でしょ」
「はい」
「体裁ってものがあってね。ここにするしかなかったのよ」
「それはわかります」
 八条はそれを聞いて頷いた。
「私もそうしたことがありますから」
「あら、けれど八条君はいつも結構なホテルにいるのじゃないの」
「まあそれはそうですが」
 裕福な育ちなのでそれは当然であった。伊藤のような学者出身とは違っていたのである。
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