第三十五部第一章 各国の法その二十四
「今回はな。それ以前だ」
「既に市民達もですか」
「反対している」
そうなのだった。
「それではどうしようもない。市民に説明しようにも先手を打たれた」
「イスラエルも動きましたし」
「仕方がない。今回は見送ろう」
そしてアッチャラーンは撤退を決意したのだった。
「大きな議論になる前にな。その方が我々にとっても大きなダメージにはならない」
「傷が深くなる前にですね」
「今なら何とでもなる」
そうしたことを全て見切ってのことであった。彼はあくまで政治的なビジョンで見据えてそのうえで判断を下しているのである。政治家らしく。
「見送る。いいな」
「わかりました。それでは」
これで話は決まった。今回は見送ることにしたのだった。そしてそれが決まってからもアッチャラーンはまた言うのであった。
「しかしだ。全てが上手くいくとは限らないな」
「そうですね」
今度は金が頷くのだった。
「連合軍を設立しエウロパとの戦いに勝利した」
「はい」
まずはこの二つであった。
「そして軍の力で治安を向上させそうしてバチカンの移転も勝ち取った」
「エウロパの国防を危機に陥れると共に我々の護りはさらに万全となりました」
「そうして経済成長率も上々にしている」
全てこの政権の功績である。
「これで満足すべきか」
「そうですね。充分満足すべきです」
金はそれでいいと言うのだった。
「もうこれで」
「そうだな。ではこれでよしとしよう」
アッチャラーンはあらためて言う。
「それにこれはまだまだ先でいいことだしな」
「中央政府には中央政府の法律がありますし」
「そして各国には各国の法があるな」
「双方のバランスが重要だ」
連合ではそうなのだ。中央政府と各国のバランスこそが重要でありそれをどう維持していくかが連合を保つかが最大の課題なのだ。これは建国から変わらない。そうしてそのうえで徐々に中央政府に権限を集めたり各国の権限を尊重したりしてきていた。そうやって千年の間やってきたのである。
「それを踏まえてもう一度考えていくぞ」
「ええ、それでは」
「そういうことで」
サコと金も頷いた。結局これで話は終わりになった。
そうしてアッチャラーンはここで。妙にウキウキとした顔になってそのうえで言うのだった。
「それではだ。今日はだ」
「何かあるのですか?」
「実はな。地球に陛下が来られている」
今は中央政府首相の顔ではなくなっていた。
「我が国の陛下が」
「といいますとタイ王国の陛下ですか」
「あの方が」
「そうだ、我等の王ラーマ陛下だ」
このラーマという名は代々である。一世から連綿となく続いている。地球にあった頃のタイでは一世の他に中興の祖である五世と十世が知られている。
「陛下にお食事に誘われているのだ」
「それではそちらに」
「行かない筈がない」
やはりタイ人としての言葉であった。
「この上ない名誉なのだからな」
「そうですね。陛下のお誘いとあらば」
「国王と大統領は違いますから」
なおケニアも韓国も共和制である。もっと言えば六大国の中で国家元首が王家やそうしたものであるのは日本だけである。そして皇室を戴いているのはその日本とエチオピアだけである。三百以上の国がある連合の中でもその二国しか存在しないのである。
「そういえば八条長官も」
「ですね」
そしてその日本出身である八条についても語られる。
「天皇陛下に度々お誘いを受けていますな」
「それを断ることはありませんし」
「それだけ栄誉ということだな」
アッチャラーンの顔はにこにことしたままであった。
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