第九部第三章 進撃その六
「帰還を希望しない者に対してはどうするか、です。それを望まない者も当然いるでしょう」
「確かに」
それは予想されることであった。皆それに顔を向けた。
「彼等は既に市民権は持っています」
「はい」
「ですが今所属している国にそのまま留まるかどうかはわかりません。難民であるのは事実ですから」
「そうですね。全ては彼等が決めることです」
「そしてそれを我々は表立っては拒めないようですな。功績があるだけに」
「ふむ」
それを聞いていた李がここで言った。
「一つ考えがあるのですが」
「何でしょうか」
皆それを聞いて彼に顔を向けた。
「まだ我々には開拓されていない、若しくは開拓が進んでいない星系が多量にありますな」
「ええ、そうですが」
連合の勢力圏は広い。そこに三兆もの人間がいる。だがそれでもまだ銀河を全て開拓してはいないのだ。銀河はあまりにも広大であり人々がまだ到達してはいない星系も多いのである。そして到達はしていても開拓が為されていない星系も多いのである。
「その中の一つを彼等に譲るというのはどうでしょう」
「新たな国家を築いてもらうということでしょうか」
「そうとられても結構です」
李はジリノフに対してそう答えた。
「彼等にしても悪い条件ではないですが」
「ふむ」
それを聞いて各国の首脳達は思案に入った。そしてまずは伊藤が述べた。
「李大統領」
「はい」
「その星系は何処がいいと思われますか」
「何処か、ですか」
「はい。何か候補地として相応しい場所は知っておられるでしょうか」
「それでしたら」
ここでグリーニスキーが出て来た。だがそれを見たマックリーフ、李、そして伊藤の顔色が少し変わった。それを見た他国の首脳達も眉を動かした。
「ロシアに一つ相応しい星系があるのですが」
「何処ですかな」
マックリーフと李がそれにすぐに反応した。
「オルシャ星系です」
グリーニスキーはそう答えた。
「オルシャ星系」
「確か最近貴国の開拓地に指定さえた星系ですな」
「はい」
彼はそれに頷いた。
「まだ入植も開発も行われてはおりませんがかなり良好な星系です」
「ふむ」
マックリーフと李はそれを聞いて目を動かした。
「そこならばいいと思うのですがね」
「私はそうは思いませんな」
だがマックリーフはそれを否定した。
「何故ですかな」
「理由は簡単です。オルシャが彼等には合わないと思うからです」
「ほう」
それを聞いたグリーニスキーは内心どう思っているかわからないが眉を動かした。
「合わないと。何故なのか私にはわかりません」
「サハラは砂や岩の惑星が多いです」
「それは知っております」
「それです。あの星系は確か緑の多い星系でしたな」
「はい」
調査によればオルシャは温帯の地域が多く、そして緑も多い。開拓も容易だとの見方が出ているのである。
「素晴らしい場所ですが」
「それは我々の感覚です」
マックリーフはここでこう述べた。
「彼等がそう思うとは限らないのです」
「妙なことを仰いますな」
グリーニスキーは今度はやや不快感を表に出してきた。
「まるでロシアが移住先を提示したのが気に入られないようだ」
「まさか」
根幹を突かれはしたがマックリーフは全く動じてはいなかった。それをあっさりと聞き流した。
「そのようなことは考えておりません」
「ならば宜しいですがな」
「まあ御二人共落ち着かれてはどうですかな」
李が間に入るふりをしてきた。
「私もオルシャは彼等に合わないと考えております」
「貴方もですか」
マックリーフはそれを聞いて目の端だけで笑った。
「はい」
李もそれは同じであった。彼も目の端だけで笑った。
「それでは御二人は何処がよいと考えておられるのですかな」
グリーニスキーは彼等に尋ねた。
「そうですな」
二人は互いに目配せをし合いながら話をはじめた。ここでオーストラリア首相エレナ=オーウェルに目をやった。彼は銀色の髪に青灰色の目、そして黒い肌を持つアボリジニーの血の濃い中年の女性であった。姓がアイルランド系なのは彼女の父方の祖父、そして名がスラブ系なのは母方の祖母のせいである。アボリジニーの血が強くとも彼女もかなり混血しているのである。
「オーストラリアに素晴らしい星系があるそうですな」
「はい」
オーウェルはそれを受けて微笑んだ。オーストラリアは最近アメリカや中国と仲がよく、日本やロシアとは少し距離を置いているのである。それはグリーニスキーもよく知っていた。彼はオーウェルを見て少し不機嫌そうな顔を一瞬だけ見せた。
「パームバレー星系のことですね」
「そうです」
マックリーフと李は彼女の言葉に頷いた。
「あそこはサハラの多くの星に酷似した気候にありますね」
「はい」
彼女はそれに応えた。
「それでいて過ごし易いそうですから」
それを聞いた各国の首脳達がまた動いた。伊藤以外の者が米中豪の三ヶ国の首脳達の方に顔を向けたのだ。しかし伊藤はそれを見てもまだ冷静なままであった。
「面白いジョークですな」
そしてグリーニスキーはそれを一笑に付した。そしてこう言った。
「要はていのいい彼等の隔離ですな」
「おやおや」
だがそれを受けてもマックリーフと李は冷静なままであった。これにオーウェルも加わっていた。
「隔離とはまた妙な言葉を使われますね」
「パームバレー星系が何処にあるかは御存知ですな」
「無論です」
三人はグリーニスキーの言葉に対して頷いた。
「連合の領土の北東の端ですな。それも開拓地の中でもとりわけ僻地にあります。しかも北東の数十万光年向こうにはかなり高度な知的生命体の勢力があるという話もあります」
「ええ」
「そこに彼等を押し込めたいだけにしか思えないのですよ、それを考えますと」
「確かに今は僻地ですな」
「それは認められますね」
「はい」
李はグリーニスキーの言葉に対して頷いた。
「ですが僻地なのは今の時点では、です」
そしてこう言った。
「それに知的生命体にしろ言われているだけで本当にいるかどうかすらわかりませんな」
「それはそうですが」
「我々はあくまで彼等の生活、文化に適合した場所を提示しただけです。閣下もそうは思われませんか」
「むむむ」
返答に窮した。これで決まったと殆どの者が思った。三人はそれを見て内心ニヤリと笑った。だがここで三人はもう一人いることを忘れていた。
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