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第三十五部第一章 各国の法その四
「ですから彼は小さくはありません」
「当時では普通でしょう」
「ははは、そうでしたな」
 また笑顔で語られるのだった。
「今の我々と比べれば確かに小さいですが」
「今のエウロパ人にしろ」
 この時代の連合の平均身長は一九〇に達している。それに対してエウロパは一八〇あるかないかといった程度である。このことから連合軍が攻めてきてバイキングの再来とまで言われたのである。
「当時であの伍長殿は普通でしたな」
「しかもその伍長にしろ」
 これまたヒトラーを指すスラングの一つともなっている。
「兵士から昇進できる最高の階級だったとか」
「ではやはり優秀だったのですな」
 一応ヒトラーに対しての結論も出された。
「あの人物なりに」
「そうなりますな」
 またここでバットゥータが述べた。
「あの男はあの男として」
「優秀でした」
「確かに」
 この場にいる者が皆それを確認し合う。そうしてそのうえでまた話すのだった。
「そして彼はヒトラーでしょうか」
「確かに演説は見事ですな」
「はい」
 演説もまた政治家にとって重要な要素の一つである。ヒトラーはとりわけその天才として知られその演説によって総統になった部分が大きい。
「そしてカリスマもまたあります」
「それもですな」
「増々似ていますか」
 ヒトラーはその恐ろしいまでのカリスマによりドイツ国民から圧倒的な支持を得た。そのカリスマはドイツが敗北するまで健在で死後も彼を密かに支持し崇拝する者は多かった。この時代の連合では全否定されているが言い換えるとこれもまた支持なのかも知れない。
 かつて三島由紀夫という作家がヒトラーについて戯作を書きそこからヒトラーが好きかどうか問われこう答えた記録が残っている。
「嫌いと答える他ない」
 こう答えたのである。今の連合におけるヒトラーの評価もこうであるかも知れない。連合においてはエウロパを否定することで存在している一面があるからだ。
「しかし。何かが違いますな」
「何かがですか」
「それは?」
 皆ここでまたバットゥータの言葉に注目するのだった。
「ヒトラーは伍長でしたな」
「え、ええ」
「そうですが」
 彼等はまずこのバットゥータの言葉に頷いた。
「ですがそれは今先程」
「お話に出ていますが」
「そこです」
 だが彼は悠然と笑ってこのことをまた言うのであった。
「彼は伍長でした。即ち」
「即ち?」
「といいますと」
「平民出身でした」
 この時代の連合ではとりわけ忘れられていることであるが彼はまごうことなき平民出身であった。そこが彼という人間を語る重要な要素の一つとなっているのだ。
「だからこそ伍長だったのです」
「そうですな。当時の欧州は貴族社会でした」
「今も同じですが」
 どうしても皮肉が出てしまうのはやはり連合だからであった。
「貴族が将校になる」
「これは絶対ですからな」
「その通り。ここが我々と違います」
 バットゥータは述べた。
「我々とはです」
「連合ではそもそも階級はありません」
「その通りです」
 周りの者達もここで言うのだった。6
「階級がありませんから士官学校を出るか大学を出れば」
「若しくはパイロット等になるかすれば」
 そうした条件があるには、であった。
「それで将校になれます」
「それだけでです」
「階級によってではなく」
 これが連合なのだ。階級がない為誰もが将校になれるのだ。これは明治維新以降の日本でもそうであったしアメリカでもそうである。
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