第九部第三章 進撃その四
三人はそのまま会議場に向かった。そこはアラスカ星系議会の会議室であった。彼等はそこでそれぞれ首脳、そして閣僚に別れて話をすることになっていたのだ。八条は連合中央政府の代表として首脳会議に列席した。そこには連合三百国の首脳達が集まっていた。
「さて」
今年の連合議長国であるザイール共和国の国家主席であるムワミ=サガモが最初に口を開いた。赤い髪の中肉中背の黒人である。彼は高い声で言った。
「それでは会議をはじめたいと思います」
「はい」
一同それに頷いた。伊藤は円卓の中の一つ、そして八条はサガモの横にいた。彼は中央政府の代表として敬意を払われての席の場であった。
「まず議題について説明致します」
サガモは説明を続ける。
「今回の会議の議題はエウロパとの戦争についてであります」
「はい」
皆それに頷いた。
「只今戦争の流れはこうなっております」
ここで円卓の中に立体映像が映し出される。それはエウロパの三次元立体地図であった。
「まず」
サガモは席を立った。そしてレーザーでエウロパのある部分を指し示した。
「我が軍は最初にニーベルング要塞群を陥落させました」
「サハラ義勇軍と無人艦隊の力で、ですね」
「はい」
サガモはアメリカ大統領マックリーフの言葉に答えた。見ればマックリーフの青い目が彼と八条を見据えていた。
「連合軍の本隊は戦いに参加しなかったのですか」
「彼等が戦場に到達した時にはもう戦闘は終了しておりました」
八条がそれに答えた。
「それ故戦闘には参加することがなかったのです」
「それは聞いております」
マックリーフはそう答えた。
「ですが一つ御聞きしたい」
「はい」
やはり弁護士出身だけあってその質問は鋭いようである。また執拗であった。
「今回の作戦はかなりの部分を長官が立案されておられるそうですが」
「はい」
八条はそれを素直に認めた。内心ではそこまで調べているアメリカの調査能力とそれを各国の首脳達の前で堂々という力の誇示にいささか思うところがあったがそれは言わなかった。
「それでは無人艦隊もサハラ義勇軍を軍の先頭に出すことを考えられたのも長官でしょうか」
「少なくとも決定したのは私です」
彼はそう答えた。
「私がその作戦の方針を決定しました。これは事実です」
「そうですか」
マックリーフはそれを聞いて頷いた。だが質問はそれで終わりではなかった。
「長官はサハラ義勇軍を連合軍正規部隊の楯にされているのですか」
「楯」
「はい」
マックリーフは答えた。
「今も進撃の先陣を務めていますね、彼等は」
「ええ」
「そして主に戦っているのは義勇軍です。当然その損害は正規軍に比してかなり大きいものになります」
「実際にそうですな」
李がここで言った。
「正規軍には今のところこれといった損害は出ておりません」
これは事実であった。正規軍二千個艦隊は進撃を続けているがその前には義勇軍がいる。彼等は戦闘を殆どすることがなく実際の戦闘は義勇軍が行っていたのである。彼等は占領地の確保と後方支持が主な任務となっていた。
「それは本来喜ばしいことなのですが」
「ですね」
李の言葉に隣にいたハシム=ジャネンドラ首相が頷いた。黒い肌の青年であった。
「連合の若者の血が最小限で済むに越したことはありません」
「それでは問題ないではありませんか」
チェチェン連邦執政コリアノフ=ジリノフがそれに対して言った。
「戦争をしているといえど損害が出ないならば」
「ところがです」
マックリーフはここで言った。
「損害は出ているのです。今のところ連合軍本隊には出ておりませんが」
「成程」
皆彼の言葉を聞いて頷いた。マックリーフが何を言いたいのかよくわかっているのだ。
「彼等ですね」
「はい」
マックリーフも頷いた。
「彼等の損害は既にかなりのものになっております」
「それは本当ですか?」
彼等はそれを聞いて八条に顔を向けてきた。八条はそれを受けて答えた。
「はい」
そしてそれを認めた。
「ふむ」
それを聴いてまずはサガモが頷いた。
「そしてそれはどの程度の規模なのでしょうか」
「既に五パーセントに達しております」
八条は静かにそう答えた。
「五パーセントですか」
「はい。艦艇の損傷はその程度です」
「人員は」
「それを少し下回る程度ですが。戦死者は多くはありません」
「ならばよいのですけれどね」
サガモはそれでよしとした。
「戦死者が出なければ」
「いや、それは違いますな」
だがそれに李がクレームをつけてきた。
「戦死者の問題ではないのです」
「では何なのでしょうか」
伊藤が彼に問うてきた。李は彼女を見た。
「義勇軍に損害が集中していることです」
「それは致し方ないのでは」
ロシア大統領グリーニスキーがここで出て来た。彼はここは日本につくことにしたようである。それを見て各国の首脳達のうち何人かが目の色を変えた。
「致し方ないと」
「はい」
グリーニスキーは李にそう答えた。
「彼等は義勇軍ですね」
「ええ」
「ならば自ら進んで戦場に赴いているのです。それならば当然でしょう」
「それは違いますな」
しかしマックリーフがここでグリーニスキーにクレームをつけてきた。首脳達はそれを見てまた目を動かさせた。
「違うと」
「そうです」
マックリーフは頷いた。
「連合軍は志願制ですな」
「はい」
これは各国の軍に分かれていた頃からであった。連合では海賊やテロリストへの対処、災害救助等が主な仕事であった為にそれ程数は必要なかったのである。その為に志願制でも充分であったのだ。それよりも個々の将兵の質を重要視したというのはお題目ではあるが。
「それならば正規軍も前線に立たなくてはならないのではないですかな」
「ふむ」
だがグリーニスキーはそれを受けても平然としていた。
「違いますかな」
「残念ですが」
まず彼はそう前置きをした。
「私はマックリーフ大統領とは異なる考えです」
「どういった御考えですかな」
マックリーフはそう言ってグリーニスキーを見据えた。
「宜しければお答え願えますかな」
「はい」
彼はそれを受けて答えた。
「志願制と義勇軍は違うのです。確かに彼等は連合の市民権を持っております」
「はい」
「ですが難民であることに変わりはありません。それは厳然たる事実ですね」
「否定はしません」
それを否定することはできなかった。マックリーフは頷いた。
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