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第三十四部第五章 覆される優勢その十七
「当分はそれでいい」
「わかりました」
「言い換えればそうするしかないがな」
「これもいつも通りですか」
「そうだ。装備を揃えるのにも時間がかかる」
 これもまた軍事の常であった。流石に今の戦争中で併呑した相手国の軍まで全て己の国の装備にしそのうえ万全に動かせるようにする物資や時間の余裕はないのだった。
「だからだ。当分はそれで我慢するしかない」
「ではそれもまた伝えておきます」
「そうしてくれ。とりあえず話はここまでだ」
 話しながらそのうえでまたワインを飲むシャイターンだった。見れば今飲んでいるワインは魚に合わせてか白ワインであった。先程までの赤ではなかった。
「そう。例えばだ」
「例えば?」
「赤いワインがある」
 話をワインに例えてきた。一旦終わらせたうえでだ。
「しかし同じテーブルの上で白いワインも出されるな」
「はい」
 これは料理の常識だった。メニューにあわせて赤も白も用意するものなのだ。
「それを同じに飲んで楽しむものだ」
「では軍もまた」
「そういうことだ。話はそういうことだ」
 また述べるシャイターンであった。
「わかったらだ。すぐにそうしていくようにな」
「はっ、それではそれも」
 指揮官はまた敬礼して応えた。
「そのように」
「では御苦労だった」
 シャイターンは白ワインを飲み終えたうえでまた指揮官に告げた。
「下がっていいぞ」
「はい、それでは」
「ああ、そうだ」
 ふとまた思い出したシャイターンであった。
「アヤグーズ軍の将兵達だが」
「彼等も我が軍に組み入れるのですね」
「志願者だけだ」
 こう制限はするのだった。
「志願者だけにせよ。そして階級はそのままだ」
「階級はそのままですか」
「そうだ。待遇もティムール軍と同じだ」
「同じといいますと」
「何かあるというのか?」
 指揮官が異議を言いそうなので事前に問うのだった。
「何かあれば言ってみるがいい」
「宜しいですか?」
「私は異論で誰かを咎めたことはない」 
 これはその通りであった。ティムールは確かに独裁国家であるが言論の自由はあるのだ。己を批判するかといって何かをするシャイターンではないのだ。
「それはわかっているな」
「はい、それではです」
「うむ」
 こうして口を開く指揮官だった。彼は言った。
「そうなれば元々のティムール軍の将兵が不満を抱きませんか?」
「かつての敵と同じになってですか」
「そうです。感情的に」
「その心配はない」
 それに関しては一言で終わらせたシャイターンであった。
「それはな」
「ありませんか」
「今までもそうだった」
 そしてこうも言うのだった。
「そもそもティムール軍は北方の諸国家の軍を集めた軍だな」
「そういえば」
 ここでそのことを思い出した指揮官だった。
「我が軍は。そうでした」
「その通りだな。ティムールという国家自体がだ」
「はい」
 それもその通りだった。そもそもティムールという国家は北方の諸国家が集まりシャイターンを元首として成立したのである。シャイターンはその政治力と以ってその寄り合い所帯を瞬く間に己の独裁体制にしてしまったが。その際彼のこの考えに反対しような要人や実力者が何人か消えていたりもする。
「だからだ。気にすることはない」
「左様ですか」
「全てのティムール軍の将兵は同じだ」
 そしてこうも言うのだった。
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