第三十四部第五章 覆される優勢その七
「一瞬の油断が命取りとなる。それを忘れるな!」
「わ、わかりました」
「申し訳ありません」
彼等は下士官の声に震え上がる。兵と下士官の関係はこのハサン軍においても健在であった。
「十秒遅れだ」
「十秒ですか」
「その程度ですか」
「馬鹿者!」
今の口ごたえにはすぐに怒鳴り声が届いた。
「十秒でも遅れたことは遅れたのだ!」
「は、はい!」
「すいません!」
「罰として腕立て百回!」
そして下士官は今度はこう怒鳴った。
「全員だ!今すぐここでやれ!いいな!」
「わかりました!」
「申し訳ありませんでした!」
彼等はすぐにその場で腕立ての姿勢に入りすぐにそれを行う。こうした場面はハサン軍のあちこちで見られるようになっていた。
このこともまた他の国々にも伝わっていた。モンサルヴァートはシュバルツブルグからこの話を聞いていた。丁度エウロパ軍の軍事訓練の最中でだ。
「そうですか。ハサン軍がそこまでですか」
「今までの緩んだ空気は一層されたらしい」
こうモンサルヴァートに対して述べていた。場所はリエンツィの艦橋である。
「そして緊張した空気に支配されているようだ」
「当然と言えば当然ですね」
モンサルヴァートはここまで話を聞くとこう述べたのだった。
「本来は。そうあるべきなのです」
「軍だからだな」
「そうです。ましてやハサンは今戦争中です」
この事情もあるのだった。
「それでどうして。これまで聞いていたような緩みきったものがあるのか」
「その方が以上だったか」
「だからこそ敗れたのです」
そしてこうも言うのだった。
「アヤグーズも。彼等がもう少しまともならばです」
「勝てただろうか」
「いえ、それは」
しかしこのことについてはすぐに首を傾げたシャイターンであった。
「それを言われますと」
「わからないか」
「おそらく無理だったと思います」
ティムールの戦いぶりを思い出しながらの言葉であった。
「ティムール軍、そしてシャイターン主席の戦い方を見ていますと」
「やはり敗れていたか」
「それは間違いありません」
そしてこう言うのだった。
「ティムール軍は精強でありシャイターン主席の指揮は水際だっていました」
「見事なまでにな」
「あれを見ていると。如何にブルコルジ女王とはいえ」
勝利を収めたからこその言葉だがそれでも的確であった。
「おそらく。ハサン軍がしっかりとしていてもです」
「勝てはしなかったか」
「はい、そう思います」
そしてこう結論付けそのうえでまた言うのだった。
「しかしです」
「それでもあの緩みきった空気はだな」
「軍のものではありません。それが正されるのは道理です」
ハサン軍に対するかなり辛辣な言葉であった。
「これでハサンもかなり真面目になるでしょう」
「そうだな。しかも傭兵達まで雇い入れた」
「はい」
次にこのことが話される。
「このことでも問題になっているようだがな」
「なりふり構っていられないのでしょう」
シャイターンもこう見ているのだった。
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