第九部第三章 進撃その一
進撃
ニーベルング要塞群を確保した連合軍はそこから進撃を開始した。彼等はそこから半円を描く様にしてエウロパ領内に進撃を行った。その先頭にはサハラ義勇軍がいた。
「前方に敵艦隊発見!」
すぐに報告が入る。すると黒い艦隊は一直線に進むのであった。
「攻撃開始!」
「了解!」
それを受けてティアマト級巨大戦艦の巨砲が火を噴く。そして砲艦、ミサイル艦の一斉射撃が続く。これによりエウロパ軍はその数を大きく減らした。だがそれで終わりではないのだ。
「戦艦、前へ!」
戦艦や巡洋艦が前に出る。そして一斉射撃の後砲艦、ミサイル艦の援護を受けながら進む。駆逐艦も一緒である。
エウロパ軍の攻撃は殆ど通用しない。先の攻撃で数を減らしており、また連合軍の艦艇のバリアーを貫けないでいた。そして彼等は為す術もなく突撃を受けたのであった。
駆逐艦の魚雷が放たれる。空母から艦載機が出る。そしてエウロパ軍は総崩れとなった。
「反撃だ!こちらも艦載機を出せ!」
「ハッ!」
その艦隊の司令の言葉を受けてエインヘリャルが発進される。だがそれは連合軍の圧倒的な数のタイガーキャットに阻まれる。彼等は同時に複数の目標にミサイルを放つことが可能なのだ。
「いけ!」
ミサイルが放たれる。それで一度に複数の機が炎と変わる。それをかいくぐっても運命は同じであった。護衛艦が彼等の前にいた。
「対空射撃、はじめ!」
護衛艦の対空ビーム、そしてミサイルが敵を撃つ。そして彼等はまたもや炎と変わった。そして気付いた時には彼等は全滅していたのであった。残る艦艇も次々と撃破されていく。連合軍の攻撃は執拗であった。エウロパ軍の艦隊は最早艦隊と呼べるものではなくなっていた。
「旗艦を狙え!頭を潰せば敵は混乱するぞ!」
それでも諦めない司令は攻撃の指示を下し続ける。そして目の前にいる巨大戦艦に対し集中攻撃を命じた。
「撃て!」
残った僅かの艦艇からビームが放たれる。少なくなったとはいえまだそれなりの数が残っていた。それがティアマト級に向けて攻撃を開始したのだ。これならいけると誰もが思った。だがそれは思っただけに終わった。
「なっ!」
その攻撃は全て弾き返された。ティアマト級巨大戦艦のバリアー、そして装甲はあまりにも厚かったのだ。そして戸惑っている間に反撃が加えられた。
「今度はこちらの番だな」
「はい」
その巨大戦艦の艦長が副長に対して言う。副長は微笑んでそれに応えた。凄みのある笑みであった。
「主砲、一斉発射!」
艦長の指示が下る。艦のことに関しては艦長に一任される。基本的に司令は艦隊のことを司るのであるからこれは当然であった。
その主砲が一斉にエウロパ軍に襲い掛かった。まるで光の帯の様であった。それがエウロパ軍を直撃した。
「うわあっ!」
一撃で殆どの艦が消え去った。攻撃を命令した司令も光の中に消え去った。その艦も乗組員も皆消え去った。全ては巨大戦艦の攻撃に拠るものであった。
「引け!引け!」
僅かに残った艦はそれを見て一斉に逃走を開始した。それは最早形のある撤退ではなく逃走であった。彼等は算を乱して戦場から逃げ出した。
「敵が逃げております。如何なさいますか」
「追え」
先程攻撃を加えた巨大戦艦に乗っていた司令は幕僚の言葉にそう答えた。その顔には満面の笑みがあった。
それを受けて追撃が開始される。彼等はすぐに全艦拿捕されてしまった。
「捕まえましたな」
「うむ」
司令は鷹揚に頷いた。そして言った。
「連合軍大将マフメット=アッサルームの名において彼等に伝えよ」
「はい」
「降伏せよ、とな。よいか」
「わかりました」
それを受けて降伏勧告が下される。それを受ける形でエウロパ軍は彼等に対し降伏した。それを見てアッサルームはまた笑った。
「これでよし。しかし」
「しかし?」
若い幕僚が彼に尋ねた。
「エウロパの貴族というのも不甲斐無いな」
アッサルームはそう言って勝利の笑みを浮かべていた。若い幕僚もそれを受けて笑った。
「全くです」
彼等は難民となった恨みを忘れてはいなかった。それを今戦場で晴らしているのであった。彼等はエウロパの貴族達を追って戦場を駆け巡っていた。戦いは彼等の獅子奮迅の活躍ばかりが伝えられた。エウロパ軍はただ敗北を重ねるだけであった。
「義勇軍の活躍はいいことですが」
八条はその報告をアメリカ領アラスカ星系で聞いていた。今ここで各国の首脳会議が行われているのだ。議題はエウロパとの戦争に関してであるので彼は中央政府の代表の一人として出席しているのである。キロモトも一緒であった。
彼は今アラスカ星系の第四惑星の海岸にいた。この星系は人が住める惑星が三つある。そのうちの一つに彼は今いるのである。
海には何やら巨大な海棲生物がいた。白っぽい背中を出してぷかぷかと浮かんでいる。時折鼻を出して呼吸をする。海岸にはペンギンに似た鳥が大勢動き回っていた。
「正規軍はあまり戦ってはいないようですね」
「どうやらそうみたいね」
その隣には伊藤がいた。彼女も日本の首相として列席していたのだ。彼女は八条にそう答えながら海とそこにいる生物達を見ていた。
「ところでここにいる動物だけれど」
「はい」
「珍しい生き物ね。どれも地球ではもういないのに」
「そうですね」
八条はその言葉に頷いた。
「どれもね。残念な話ですが」
「そうね」
八条も伊藤も寂しい顔をした。
「あれは残念な話だわ」
「はい」
今彼等の目の前にいるのはステラーカイギュウとオオウミガラスであった。どれもかっては地球にいたものと同じ種類である。星によっては地球と酷似している星もある。そういった星では地球にいる生物と同じ進化を遂げ、同じ種類の動物がいる場合もあるのだ。このアラスカ星系第四惑星は地球の寒帯、冷帯に生息する生物が多い。正式な名称は当然地球のそれとは異なるが生物の種類としては同じなのである。連合にはこの他にも恐竜がいる惑星や両生類ばかりの惑星もある。巨大な昆虫がいる惑星、マンモスやオオツノシカ等古い種類の哺乳類がいる惑星もある。当然アノマロカリスやそういった古代の生物がいる惑星もあるのである。
このステラーカイギュウは十八世紀にロシアの探検隊がベーリング海峡付近で発見した海牛類の仲間である。普通海牛類といえば熱帯、若しくは亜熱帯の海や川に住むがステラーカイギュウは北方の冷たい海に棲む非常に珍しい種類の海牛であった。かなり大きく八メートルを超えるものまでいた。だが性質は極めて大人しく海岸に近い場所で藻を食べて暮らしていた。仲間意識が強く互いに助け合う性質も持っていた。そして人間も恐れなかった。人間というものに対して知らなかったせいであろうか。
だがそれが禍いした。その肉と皮に目をつけた人々によって乱獲された。そして発見から僅か二十七年で絶滅してしまったのだ。だがそれ以後も発見は続いた。そして二十一世紀にはようやく生存が確認されたが彼等はすぐに全て水族館に送られてしまった。こうして野性のステラーカイギュウはいなくなってしまったのだ。
オオウミガラスはより悲惨であった。その肉と卵に目をつけられ乱獲された。このかってはペンギンと呼ばれた愛嬌のある生き物もまた食料とされたのだ。そして個体数が減ると貴族や博物館にその剥製が求められた。希少だからという理由である。オオウミガラスは北氷洋近辺にいたがその当時のヨーロッパ人にはまだ環境保護という概念がなかったのである。人間とは経験してはじめて何かを知るものである。時には失ってからようやく気付く時もある。それを愚かと断言して終わるのは至極簡単なことだが人間はそれだけでは終わらないのである。愚かではあるが考え、常に前に進もうとするのもまた人間である。この当時のヨーロッパ人も同じであった。所詮その時の価値観で過去の人間を批判することは自らを優位に置き他者を貶める行為に他ならないのだ。
話をオオウミガラスに戻す。この生き物の絶滅が確認されたのは十九世紀の中頃であった。人々が環境、生態系の保護について真剣に考え取り組むようになるのはそれからかなり後のことであった。あと一世紀遅ければ彼等は僅かながら生き残っていたかも知れないのだ。
「さっきあそこでイッカクがいましたよ」
「まあ」
鯨の仲間で寒い海に棲む。オスは牙が発達した長い角を持っているのである。
「ここの海はいいですね。もう地球では滅多に見られない、もういない生き物がいるんですから」
「そうね」
伊藤は八条のその言葉に頷いた。
「絶滅が確認されるとおもういなくなったって諦めるんだけれど」
「けれど別の星にいた。再会ってやつでしょうか」
「そうでしょうね。再会だわ」
伊藤は前でのんびりと食事を採っているステラーカイギュウと前をヒョコヒョコと歩くオオウミガラスを見ながら静かに言った。普段の知的な様子はなく穏やかで優しい顔をしていた。そうした顔も持っているということである。
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