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第九部第二章 虚の兵士達その十八
「少佐、君にも色々と仕事が回ってくるぞ」
「はい」
「当然わしにもだ。山の様な書類が来るだろうな。わしは書類なぞ見るのも嫌だが」
「そうも言ってはいられませんよ」
「それもわかっている。残念なことだが」
「残念ですか」
「戦いたくて軍人になったのだからな。事務仕事をする為に軍人になったのではないつもりだ」
「ですが実際にはそうした事務仕事も多かった、と」
「そうだ」
 サチフの顔は不機嫌なものとなっていた。
「それに連合軍は事務仕事が変に多くないか。前から気になっていたのだが」
「そういえばそうですね」
 それはジナールも気付いていたことであった。実は彼も事務仕事は好きではない。
「私のいた国では事務仕事はそれ程多くはありませんでした」
「わしの国もだ。ここへ来て書類の量が一気に三倍に増えた」
「私もそれ位ですね」
「これが連合軍なのか。我々は軍人であり官僚ではないのだがな」
「どうやら連合では軍人は特別な存在ではありませんからね」
「そうなのか」
「はい。現に連合軍は志願制です」
「うむ」
「求人にはいつも苦労しておりますね。募集が大変だとか」
「そのようだな。サハラでは考えられぬことだが」
「我々の多くは徴兵制でしたし。その違いもあるでしょう」
「そもそも何故徴兵制ではないのか不思議なのだがな」
「連合の置かれた状況でしょうね、彼等は人口が多い」
 三兆の人口はやはり巨大であった。全人類の七分の六に達し今戦っているエウロパとは三十倍もの差がある。この差は実に大きかった。
 他国より多くの将兵を集めるのに徴兵制を採る必要なぞないのである。ここがサハラ各国とは事情が違うところであった。だが海賊やテロリストを相手にするには一定の数が必要である。その一定の数を集めるのに彼等は苦心しているのである。
「そういえば連合軍の主な仕事は災害派遣でしたな」
「そうだ。わしもこの前行ったぞ」
 サチフはそれにそう答えた。
「ヤルカンド星系の第七惑星でな。あそこで津波が起こったのだ」
「ああ、あれですね」
「大津波でな。万単位の被災者が出た。死者も百人を越えた」
「大きな被害が出たとは聞いておりましたがそこまで」
「行った時は酷かったな。あらためて津波の怖ろしさを知った」
 サチフはその髭だらけの顔を岩の様にさせてそう言った。その時彼の目にはあの時の破壊された街や災害から投げ出されてしまった被災者の姿が浮かんでいた。それは彼の脳裏からも離れなかった。
「わしがサハラでいた星は穏やかな海が広がっていてな」
「はい」
「あそこまでの津波は見たことがなかった。わしが来た時にも津波が起こった」
「そしてどうなりました」
「それは止めることが出来たがな。事前に堤防を作っておいたので」
「それはよかったですね」
 ジナールはそれを聞いて少し安心した顔になった。
「やはり被災者は少ない方がいいです」
「うむ。そして災害救助だが」
「はい」
「その時は上手くいった。わし等より連合軍の正規軍の方がそうした活動には慣れているようだったな」
「今までそれが彼等の主な仕事でしたからね」
 ジナールはそう答えた。連合軍は設立以前から災害に関しては各国であたっていたのである。中央政府の要請で災害派遣に赴くことが多かった。連合軍設立前から彼等は中央政府のある程度の統制下には置かれていたのである。だがそれは中央政府に属してはおらず国防省もなかった。そうした意味で彼等は連合軍ではなかったのである。
「そうだな」
 サチフはここでまた頷いた。
「やはり慣れということか」
「はい。あと宇宙海賊の征伐も彼等は慣れておりますね」
「そうだな。軍とは戦争の為以外にあるのではないのだな」
「そういうことですね。それにしても」
 ジナールはここでややうんざりした顔を作った。
「書類の多さには確かに参りますが」
「そうだな、本当に」
 彼等はそう言って顔を見合わせた。そして港に入った。既に占拠がはじまっていた。これで惑星は完全に連合軍のものとなったのであった。
 惑星は完全に連合軍のものとなったが宇宙はそうではなかった。連合軍はなおもエウロパ軍と戦闘を続けていた。
「しぶとい奴等だ」
 マシュハドは前にいるエウロパ軍を見てそう呟いた。顔に苦味が走っている。
「そうですね。ですがあと一押しかと思います」
 ワフラが彼に対してそう言った。見ればエウロパ軍はその数を大きく減らしている。まともに戦闘に参加できる艦艇は全体の半数程にまでなっていた。
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