第九部第二章 虚の兵士達その十七
「よし」
彼は頃合いと見るや頷いた。そして指示を下した。
「次のラインまで下がれ」
「ハッ」
それを受けてエウロパ軍の防衛隊は戦線を下がる。そしてそこでまた連合軍を迎え撃つ。
「港まで維持するぞ。いいな」
「了解」
エウロパ軍は彼の指示の下戦線を縮小して戦っていく。その都度放棄した陣地にトラップを仕掛けておくことも忘れていなかった。これは連合軍への足止めの為であった。それは一定の効果を出していた。
「フン、小賢しい真似をしてくれるわ」
サチフはトラップの報告を聞いて忌々しげにそう呟いた。
「そこまでするとはな。まあ奴等らしいと言えばそうだが」
「ですがそれが確実に効果を表しています」
ここでジナールが言った。
「我が軍は足止めを受けております。如何致しますか」
「そうだな」
サチフはそれを受けて考えた。豪放に見えるが彼も考える時は考えるのである。
「この移動要塞を使うぞ」
「移動要塞をですか」
「そうだ。これを使うのだ」
彼はニイ、と笑ってそれに頷いた。
「前に出せ。突っ込むぞ」
「トラップはどうするのですか」
「知れたこと。これで踏み潰すのだ」
彼はおくびもなくそう答えた。
「それだけだ。何か言いたいことはあるか」
「勿論です」
ジナールは言うまいと思ったがやはりそう言った。彼にとってそれはあまりにも危険なことに思えたからだ。
「幾ら移動要塞といっても危険ではないですが」
「この移動要塞が敵のトラップでやられると思うのか。地雷など効かぬというのに」
「それはそうですが」
「安心しろ。よいな」
サチフはそう言ってジナールを静かにさせた。そして指示を出した。
「移動要塞、前へ!そして敵の陣地を突破せよ!」
すぐに指示が出された。それを受けて連合軍が突進する。エウロパ軍の放棄された前線が巨大なキャタピラによって踏み潰されていく。その中にはトラップもあった。だがそれも踏み潰されていった。移動要塞の前には何の効果もなかったのであった。
「どうだ、わしの考えは正しかっただろう」
「ですね」
ジナールはサチフにそう応えた。見ればサチフの顔は満面の笑みであった。
「わしにはわかっておったのだ。エウロパ軍のトラップの威力がな」
「そうだったのですか」
「ジナール少佐だったな」
彼はここでジナールの官職氏名を問うた。
「はい」
「卿はまだ若い。だからあえて言っておこう」
そして彼は言った。
「敵の兵器とこちらの兵器をよく見ておくのだ、常にな」
「はい」
それはわかっているつもりであったがまだ視野が狭いということであろうか。ジナールは彼の話を聞きながらそう考えていた。そしてどうやらその通りであるようだった。
「ここに来るまでもエウロパ軍のトラップは多くあったな」
「はい」
「わしはそれを見ていたのだ。そしてそれを見ていけると思ったのだ。移動要塞で突破できるとな」
「そうだったのですか」
「それを受けて進んだのだ。それでは行くぞ」
「はい」
ジナールは頷いた。サチフはそれを受けて再度指示を出した。
「このまま進め。そしてエウロパの奴等の小賢しい罠を全て踏み潰せ。よいな!」
「ハッ!」
それを受けて義勇軍の進撃の足は速まった。その先頭には移動要塞があった。それはまさに巨大な獣であった。神が創造した大地の獣ベヒーモスにも似ていた。
「ここでも化け物を前に出してきたか」
その進撃はファブリチーニにも見えていた。彼はそれを見て顔を顰めさせた。
「連合軍というのはつくづく大きなものが好きなようだな。それで勝てると思っているようだが」
「ですがあれにより我が軍のトラップは全て破壊されてしまっております」
「わかっている」
幕僚の一人にそう答えた。
「どうやら今の我が軍では止めることは困難だな。無駄な損害を出すだけだ」
「はい」
それは幕僚達にもわかっていた。その言葉に頷いた。
「それでは戦線を縮小させますか」
「うむ。港まで撤退する。あれを前に出されては止むを得ない」
「了解しました」
幕僚達はその言葉に頷いた。そしてすぐに指示を出した。
「全軍港まで下がれ。そしてそこで戦う」
「了解」
全軍それに従い退きはじめた。ファブリチーニはそれを見ながら別の幕僚に問うた。
「撤退はどうなっているか」
「既に七割以上がニーベルングから撤退しております」
その幕僚はそれを受けてそう答えた。
「そして残り三割近くも港に入ろうとしております。あともう少しです」
「そうか、ならばよい」
彼はそれを聞いて安心したように頷いた。
「だがまだ時間が必要だな」
「まだですか」
「そうだ」
ファブリチーニはここでそう答えた。
「我々が撤退する時間も必要だからな。それはわかっているな」
「はい」
若い幕僚がそれに頷いた。
「死んではならないぞ。戦いはまだ続く」
「続きますか」
「そうだ。最後まで戦わなくてはならない。その為には」
「生きろ、ということですね」
「その通りだ」
ファブリチーニはそう答えて頷いた。
「敵が来ました」
ここで報告が入って来た。ファブリチーニ達は前を見た。そこに敵がいた。
「奴等を退けるぞ」
「はい」
「そしてそれが終わったならば我々も撤退する。よいな」
「了解」
惑星における最後の戦いがはじまった。炎が燃えて大地を焦がす。戦いは火力と制空権において圧倒的な有利に立つ連合軍有利となっていた。
「司令、このままでは!」
「怖気づくな!」
ファブリチーニはそう言って部下を叱咤した。
「最後の攻撃だ、火力を集中させよ!」
「ハッ!」
それを受けて最後の総攻撃が開始された。それで連合軍は一瞬怯んだ。ファブリチーニはその一瞬を見逃さなかった。
「よし!煙幕を張れ!敵の通信を妨害せよ!」
「了解!」
その指示に従い煙幕と妨害電波が流された。これで連合軍の動きを止めた。
「全軍撤退!」
ファブリチーニの指示がまた飛んだ。それを受けてエウロパ軍は一斉に退いた。後にはもぬけの殻となったエウロパ軍の陣だけが残った。連合軍はまだ煙幕と妨害電波に悩まされていた。
「最後の最後にやってくれたようだな」
サチフは艦橋の前に広がる煙幕を見て忌々しげにそう呟いた。
「だが効果はあるな。しかしだ」
それでも彼は目の前にある港から目を離さなかった。そここそが彼の獲物だからだ。
「逃さぬぞ。全軍に伝えよ」
彼は幕僚の一人に顔を向けてそう言った。
「進撃を続けよ、とな」
「了解」
それを受けて連合軍は港への進撃を再開した。だがここで問題が残っていた。
「この煙幕と妨害電波はすぐに除去せよ、鬱陶しい」
「ハッ」
「電子車両があったな。あれを使え」
「わかりました」
サチフも伊達に軍を率いているわけではない。戦いが前進のみでは成り立たないことはわかっている。彼はここで障害を取り除くことを優先させた。そしてそれを取り除くとあらためて進撃を開始した。目指す目標は言うまでもなかった。
港から輸送船が次々と出港する。そして今ファブリチーニ達も港に到着した。彼をフランドが出迎えた。
「お待ちしておりました」
「今までよくこの港を守ってくれたな」
ファブリチーニはまずフランドにそう礼を述べた。
「おかげでここに入ることができた」
「いえ、司令の御苦労に比べれば」
彼はそう応えて微笑んだ。
「大したことはありませんから」
「言ってくれるな」
ファブリチーニもそう応えて微笑んだ。
「それでは我々も撤退するか」
「はい、既に最後の輸送船の出港準備が整っております。行きますか」
「うむ」
彼はそれに頷いた。既に最後の将兵達がその輸送船に乗り込んでいた。
「急げよ、敵はすぐ側にまで迫っている」
「はい」
彼等はファブリチーニのその言葉に頷いた。そして次々に乗り込む。最後にファブリチーニとフランドが乗り込んだ。ここで桟橋が落ちた。
「残っている者はもういないな」
「はい」
「ならばよい。それでは出港せよ、よいな」
「了解」
最後の輸送船が出港した。だがそこに連合軍がやって来た。彼等は宇宙に向かう輸送船に殺到する。見れば空にもいた。空を埋め尽くさんばかりである。
「あの輸送船を沈めよ!あれには敵の司令が乗り込んでいるぞ!」
「あれを撃沈した者には報償が出るぞ!」
そう激励が飛ぶ。それを受けて輸送船に向かう。だがそれは一瞬であるが遅かった。輸送船は宇宙へと旅立ってしまったのである。
「フン、悪運の強い奴だ」
サチフは宇宙へと消えた輸送船を見上げてそう呟いた。
「だが戦いはまだ続く。奴を仕留める機会はまだまだあるな」
「ですね」
ジナールがそれを受けて頷いた。
「とりあえず我々の今の仕事は次の段階に入った。港を完全に占領するぞ」
「はい」
「そしてそれからだ」
彼は言葉を続けた。
「惑星を完全に掌握する。残敵がいれば掃討する。よいな」
「わかりました」
「まだまだやるべきことは多い。いや、むしろ」
彼はここで考える目をした。
「戦争というものは戦闘が終わってからだな、本当に忙しいのは」
「そうですね」
それはジナールもわかっていた。彼もまたこれまで多くの戦いを経てきたからわかっているのである。これは勝ち戦でも負け戦でも同じであった。
人気サイトランキング
小説・詩ランキング
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。