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第三十四部第三章 仲介は聞かれずその五
「だからといって戦いを放棄することは許されない」
「はい、そうです」
「それは」
 将官達だけでなく閣僚達も述べる。このことについては誰も異論がなかった。
「戦うからには勝たなければならない」
「そう、その通りです」
「戦うからには」
 彼等もそれぞれ言うのだった。
「勝たなければなりません」
「何としても」
 こう太子に対して述べるのであった。
「ですが殿下。アヤグーズでの敗北の結果」
「今の我々は」
「劣勢になっているのはわかっている」
 それはもう把握してのことであった。既にこの場でも何度も話されていることである。それでわからない筈がなかった。人並の知能さえ備わっていれば。
「既に動員もかけている」
「これ以上の予備役の動員はできません」
 将官の一人がまた述べた。
「これ以上の動員は最早不可能です」
「人も兵器もありません」
「先の総動員で既に予備戦力は全て出している」
 太子自身が命じたことであるからよくわかっていた。
「全てな。今ある戦力だけで戦うしかない」
「いえ、殿下」
「傭兵を使いましょう」
 将官達はここで彼に言ってきた。
「彼等を雇いそのうえで戦場に送りましょう」
「これはどうでしょうか」
「傭兵か」
 傭兵と聞いた太子の目がまず動いた。
「彼等を使えとうのか」
「はい、そうです」
「これならばかなりの戦力が集まります」
 彼等は口々にこう主張するのだった。
「サハラにはまだ多くの傭兵がいますので」
「彼等を雇いそのうえで戦力としましょう」
「いや、それはどうか」
「傭兵を使うというのは」
 将官達のこの主張に対して反対の言葉を述べたのは閣僚達であった。丁度武官と文官が対立する形となった。丁度左右に分かれていた為に対比する形になっていた。
「傭兵は信用できません」
「報酬次第でどうとでも動きます」
 これは古来から変わらない。傭兵というものは金により動きそうして簡単に願えるものだ。このことはかつての欧州でも今のサハラでも同じだ。
「しかも報酬と称して略奪を行うことも多いですぞ」
「我々の領土であっても」
 何故かというと彼等の国ではないからだ。傭兵と市民兵の違いはここにある。彼等は祖国への忠誠心といったものとは全く無縁の存在なのだ。
「そうした者達を使うとなると」
「我が国の損失も覚悟しなければなりませんぞ」
「いや、それでもです」
「今は戦力がありません」
 将官達は政治的見地から傭兵の必要性を主張するのだった。
「ですからここは彼等を雇いましょう」
「何があっても」
「しかし。それでは我が国の安全が脅かされる」
「傭兵は侵略する敵国以上に厄介な存在だ」
 閣僚達はとかく傭兵というものに反発を示す。
「それに我がハサンは今まで傭兵を使ったことがない」
「そう、一度も」
 これがハサン王国の軍事の特徴であるのだ。彼等はあくまで自国出身者の将兵から軍を形成していたのである。近代国家の国民兵というわけである。こうした意味ではオムダーマン軍と同じである。サハラの軍の主流ではあり彼等もその中にいるのである。
「それをするというのはどうかと思いますが」
「我が国の伝統を崩すというのは」
「伝統にこだわっている場合ではありませんぞ」
「その通りです」
 また将官達が閣僚達の意見に反対する。
「さもなければ敗れます」
「敗北は即ち滅亡です」
 今ハサンはそうした状況なのであった。これはもう誰もがわかっていることだった。
「ですからここは」
「傭兵を是非」
「しかし傭兵を使えばそれは」
「略奪や破壊の元となる。それは駄目だ」
「だがそれでも今は」
「そんなことを言っている状況では」
 双方の意見は完全に対立してしまい最早彼等の間だけでの調停は不可能であった。となれば残された話をまとめられる者は一人しかいなかった。そう、彼であった。
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