第九部第二章 虚の兵士達その十六
「大尉、他の怪我人も頼む。今彼等は手当てを待っている」
「わかりました」
「それではな。縁があったらまた会おう」
「はい」
「といっても当分この輸送船の中で一緒だが」
彼はそう言って微笑んだ。リストもそれにつられて笑った。
「そうですね。それでは暫くの間ご一緒しましょう」
「ああ」
彼等を乗せた輸送船も出港した。そして宇宙に出る。それを要塞群に駐留していた艦隊が護衛する。彼等はそれを受けて戦線を離脱していった。
連合軍の攻撃は宇宙においても惑星においてもさらに激しくなっていた。とりわけ惑星のそれは熾烈なものであり彼等はもう司令部のあったエリアを制圧し港にも迫っていた。
「港を制圧せよ、あそこを陥落させれば勝敗は決する!」
サチフの声が戦場に響く。義勇軍の将兵はそれを受けて港に向けて進撃する。だがそれをエウロパ軍の幾重もの防衛ラインが阻む。指揮はファブリチーニが執っていた。
「ここは何としても通すな!」
「はい!」
バリケードを組み施設を利用した防衛ラインを組んでいた。道の要所に戦車や大砲を置き敵を待ち構えている。施設の窓には大勢の将兵が銃を向けて待っていた。
ファブリチーニはそれを陣頭で指揮を執っていた。彼も銃を持っていた。
「司令も戦われるのですか」
「当然だ」
彼はゴンガーザにそう答えた。
「私も軍人だ。それは当然だろう」
「それはそうですが」
「どうした、何か不都合があるのか」
「いえ」
そう言うゴンガーザも手に銃を持っていた。それはライフルであった。ファブリチーニもライフルを持っていた。これはエウロパの将校では珍しいことであった。
エウロパでは将校はライフルを持たない。拳銃を持つのである。ライフルを持つのは下士官及び兵士であった。これは将校は指揮を執るからであった。これは連合やマウリアでも同じである。
「まさかライフルを持つようになるとは思いませんでしたので」
「仕方ないことだ」
彼はゴンガーザにそう言った。
「今のような事態だとな。これだけ逼迫していると」
「ですね」
「まだ武器があるだけましだ。エネルギーは大丈夫か」
「はい」
ゴンガーザはそれに答えた。
「さっき充填しましたから。心配ありません」
「そうか、それは何よりだ」
ファブリチーニはそれを聞いて微笑んだ。
「戦えるな。一人でも多くの連合の者を倒すぞ」
「はい」
ゴンガーザの頷きは強いものであった。彼も前線で戦う覚悟はできていた。
「港は何としても死守しましょう。フランド副司令も同じ御考えです」
「副司令は今何処にいる」
「港の防衛を固めておられます。もうすぐ前線に来られるかと」
「そうか」
彼はその報告を聞いて頷いた。それから考える顔をした。
「彼は引き続き港の防衛に回ってもらいたい」
「港のですか」
「そうだ。おそらくこの防衛ラインは単なる時間稼ぎにしかならない」
「時間稼ぎですか」
「それは卿もわかっていると思う」
「はい」
「だがなくてはならないものなのだ。戦争にとって時間こそが命だ」
ここで彼はそう断言した。
「今は撤退する将兵達の為の時間を稼がなくてはならない」
「それには今ここにいる彼等も入りますね」
「当然だ。その際の撤退の指揮は私が責任を以って執り行う。今は」
そう言うと目の前にる敵を見据えた。移動要塞を主軸にこちらにやって来ている。
「彼等の足を止める。何があってもな」
「ですね」
ゴンガーザも頷いた。彼も銃を構えた。
「私も共に」
「感謝する」
ファブリチーニはそう応えて笑った。彼もまた銃を手にしていた。
「後ろにいる者達はどうしているか」
「既に安全な場所にまで撤退した者達もいます」
「上手くいっているといっていいな」
「そうですね。もう一踏ん張りです」
「そうだな。ならばやるぞ」
「はい」
彼等は連合軍を戦闘に入った。銃声とビームが交差する。それは連合軍のものの方が遥かに多かった。やはりエウロパ軍は劣勢であった。しかしそれはファブリチーニにとっては計算内のことであった。
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