ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第九部第二章 虚の兵士達その十三
「戦わなければならんがな。それでも生きなければならん」
「矛盾していますね」
「何を言っているのだ」
 ローズマンはそれを聞いて笑った。不敵な笑みであった。
「何も矛盾はしておらんぞ。勝てばいいだけだからな」
「そうなのですか」
「そうだ。だからこそ戦え、よいな」
「わかりました」
「全軍前進、こうなれば空からの攻撃は対空砲とミサイル車で防ぐしかない」
「ハッ」
 ベルジュラックだけでなく他の将兵達もそれに頷く。見ればまだ軍服に着られている者が多い。
「そして敵をニーベルングから退ける、よいな」
「了解」
 皆それに頷いた。ローズマンはそれを見届けると指揮車に乗った。その隣にはベルジュラックが乗った。
「攻撃目標はあの化け物だ、よいな」
 ローズマンが指差した場所に巨大な獣がいた。連合の移動要塞であった。見れば揚陸艦からそれが次々と出て来ている。一両や二両ではなかった。
「陛下には丁度よい武勲の証になるな」
「陛下ですか」
「うむ」
 ローズマンはベルジュラックの問いに答えた。
「我が主ウィリアム十二世陛下へのな」
「閣下は確かイングランド出身でしたね」
「そうだ」
 彼は答えた。
「代々王家に剣を捧げてきた。生憎ロイヤル=ネービーではないがな」
「陸軍だったのですね」
「戦争は宇宙だけでするものではない」
 ローズマンはベルジュラックに対してそう述べた。
「陸や空でも行われるものだ。それは今も変わらない」
「はい」
「我がローズマン家は海軍には進まないと定められているのだ。家訓でな」
「代々ですか」
「それが定めなのだ。何故かわかるか」
「いえ」
「陛下は何処におられるか」
 彼はここで逆にベルジュラックにそう問うてきた。ベルジュラックは最初それに戸惑っていたがやがて答えた。
「城におられます」
「そうだ。城は陸にあるな」
「はい」
「我が家はその城を守ることを決めたのだ。だから今もここにいる」
「ニーベルング要塞群に」
「要塞は城だ。そこを守ることこそがエウロパ、そして国王陛下を御守りすることだ。違うか」
「いえ」
 ベルジュラックはその言葉に首を横に振った。
「私としては閣下の御考えが間違っているとは思えません」
「いささか学者の様な話し方だな」
「まだ卵ですが」
「ふふふ」
 それを聞いてまた笑った。
「ならば大成するんだ。いいな」
「はい」
「その為には生き残れ、よいな」
「了解」
 ベルジュラックは頷いた。ローズマンはそれを見届けると部隊に指示を出した。
「では行くぞ。そして敵を退ける!」
「ハッ!」
 それを受けて全軍進撃を再開した。連合軍に向かって行った。だがやはり連合軍の優勢は変わらなかった。物量、そして装備に勝る彼等は制空権も得て戦局を有利に進めていた。惑星の表面は刻一刻と連合軍のものとなっていた。そしてそれは内部にも浸透しようとしていた。
「地下の第十七エリアが敵の手に落ちました」
 ゴンガーザがファブリチーニにそう報告した。ファブリチーニはそれを聞いて暗い顔をした。
「あそこがか」
「はい。将兵は全員戦死、若しくは捕虜になったようです」
「そうか。あそこには私の甥がいた」
「はい」
「立派に戦ったのだろうな」
「マラケシ=デ=ファブリチーニ中佐は最後まで戦い名誉の負傷だということです」
「生きているのか」
「捕虜になったことが確認されておりますが」
「ふむ」
 それを聞いて僅かだがファブリチーニの顔色がよくなった。
「生きておればよい。また戦う時が来るだろう」
「はい」
「だがそれは我々にも言えることだ」
「そうですね」
 ゴンガーザはその言葉に対して頷いた。
「勝たなければなりませんが」
「それが不可能ならば・・・・・・。わかるな」
「無論です」
 彼はここでそう答えた。
「それならば我々のとるべき方法は一つです」
「うむ」
「それを決断するのなら今をおいて他にはないと思いますが」
「艦隊は今どうなっている」
「艦隊ですか」
「そうだ」
 ファブリチーニはゴンガーザに顔を向けてきた。
「今どれだけの戦力が残っているか」
「六割程です」
 ゴンガーザはすぐにそう答えた。
「撃沈及び損傷していない艦艇はそれ程です」
「そうか」
 彼はそれを聞いて頷いた。
「かなり手痛くやられたな」
「残念ながら」
「ジェラール司令は無事だな」
「はい。乗艦であるダミヤーノは被弾こそしとえりますが行動に問題はないそうです」
「そうか。それならばいい」
 彼はそれを聞いて安心した顔をした。暗いままであったが。
「艦隊の援護を受けられるならばそれにこしたことはないからな」
「ですね」
「そして我等の戦力はどれだけ残っているか」
「地上部隊は七割程、その他の部隊は八割程となっております」
「そうか。思ったより多いな」
「まだ戦闘がはじまったばかりですから。しかしこれ以上戦いが進みますと」
「それはわかっている」
 ファブリチーニはそれに応えて頷いた。
「やはり今決めなければならんな」
「はい」
「全軍撤退だ。損害の激しい部隊から先に港に向かうぞ」
「わかりました」
「港の防衛はフランド副司令が続けていたな」
「はい」
「それでは彼に伝えてくれ。そこを死守してくれ、とな」
「死守ですか」
「そうだ。今あの港を失うわけにはいかない」
 ファブリチーニの顔と声に漂う深刻さが増した。
「失えば我々は一人残らずこの星で死ななければならない」
「一人残らず、ですか」
「若しくは捕虜になるか、だ。どちらがいい」
「捕虜になった方がいいのは事実ですが」
 問われたゴンガーザはそれに答えた。
「ですがまだ戦いたいですね。それが本音です」
「そうだろう。私も同じ考えだ」
「それならば決まりですな」
「ああ。港に援軍を送れ。精鋭をな」
「はい」
「そして最後の兵士が宇宙に出るまで守り抜くように伝えよ。よいな」
「ハッ!」
 それを受けてエウロパ軍は動きはじめた。まずは損害の酷い部隊から撤退をはじめた。無傷な部隊、損害の軽微な部隊は彼等の援護に回った。そして港に向かった。
 連合軍は当然ながらそれを追撃にかかる。各地で戦闘がさらに激しくなった。
「敵なぞ踏み潰してしまえ!」
 前線で指揮を執る顔中髭だらけの男がそう叫ぶ。サハラ義勇軍陸戦部隊総監マジュワーン=サチフ大将である。彼は移動要塞の艦橋から全軍にそう檄を飛ばしていた。身体だけでなく声も大きかった。
「一人残らずこの移動要塞で踏み潰すのだ。そしてエウロパの貴族達の血と肉でこのニーベルング要塞群を舗装しなおせ!」
「閣下、幾ら何でもそれは不可能かと」
 隣にいる若い将校が苦笑して彼にそう言った。この移動要塞の砲術長であるハルーン=ジナール少佐であった。
「砲術長」
 サチフはそれを受けてジナールに顔を向けた。
人気サイトランキング site_access.php?citi_id=254078182&size=200小説・詩ランキングcont_access.php?citi_cont_id=343008101&size=200


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。