第九部第二章 虚の兵士達その十二
「さて、やってやるか」
彼は目の前にいる六機のエインヘリャルに照準をロックオンさせた。複数の照準が動き、そして固定される。
「いけっ!」
ミサイルが放たれた。それは複雑な動きを示しつつそれぞれの標的に向かう。そして全て撃墜した。
「あの時の借りは返させてもらうぜ!」
彼はサハラにおいてもパイロットであった。そしてその時は七十七機を撃墜したエースであった。だが戦いには敗れた。そして連合に難民として流れてきたのだ。その際年老いた両親や幼い兄弟達も一緒であった。
「あいつ等の分までやってやるか」
彼は今度は三機をビームで撃墜してそう呟いた。彼等は生きている。だが連合に辿り着くまでにかなりの辛酸を舐めてきているのだ。
弟や妹達は常に腹を空かせていた。両親は身体を壊していた。彼はそれに対して何も出来なかったのだ。出来る筈もなかったのだ。
彼は軍人であった。戦うことしか知らなかった。そんな彼が彼等に対して何かをできる筈がなかったのだ。ただ餓え、病に苦しむ姿を見るだけであった。彼はその中で敗戦の軍人としての自らの無力さを呪った。そしてエウロパへの復讐を誓っていたのだ。
彼は連合に着くとダイアモンドの採掘に携わった。実際に現場で働いた。そうして糧を得ていた。弟や妹達は飢えから解放され、両親の病も治った。だがそれでも彼は忘れてはいなかった。自身の無力さと復讐を。そして彼はその機会を待っていたのだ。
遂にその時が来た。彼にとって今この瞬間は待ち望んでいたものであったのだ。彼は今目の前にいるエウロパ軍を前に興奮していた。
「まだだ!」
また敵を一機撃墜した。そして次の敵に襲い掛かる。
「貴様等に受けた恨み、まだ晴れん!」
叫びながら攻撃を続ける。それはさながら戦場に舞う死の天使の様であった。黒い翼を持つ天使であった。
タイガーキャットだけではなかった。炎龍もマトロフもいた。炎龍にはウダイもいた。
「さてと」
彼はビーム砲のスイッチに手を向けて敵の戦艦を見た。
「悪いが死んでもらずぜ。これが戦争だからな」
そう言うとミサイルを放った。そしてその戦艦のエンジンを破壊した。的確な攻撃であった。
それでその戦艦は動きを止めた。そこから爆発が生じる。炎と変わるのに左程時間はかからなかった。
やはり数であった。連合軍の艦載機の数はエウロパ軍のそれを遥かに凌駕していた。やはり元々の艦載数の違いが大きかった。エインヘリャルはその数を次第に減らし、艦艇も損傷を受けていた。
惑星もそれは同じであった。艦載機の攻撃も受けその攻撃能力を大幅に低下させていた。最早組織立った攻撃は不可能な程であった。
「よし、揚陸艦を出せ」
マシュハドは惑星の抵抗は弱まったのを見てそう指示を出した。
「了解」
ワフラが頷く。それに従い揚陸艦が前に出て来た。
揚陸艦達が惑星に貼りつく。それを連合軍の他の艦艇が援護する。もうエウロパ軍からの反撃はないに等しかった。
陸上部隊が突入を開始する。そこには戦車や装甲車もいた。歩兵と共にまずは周辺を制圧していく。それから進撃をはじめた。
「敵の陸上部隊が来ました!」
それは惑星の司令部にもすぐに報告された。ファブリチーニはそれでもまだ冷静さを失ってはいなかった。
「こちらも陸上部隊を差し向けよ」
「わかりました」
すぐに地上部隊が動員される。そして惑星でも戦いがはじまった。
「重砲隊、一斉射撃!」
こちらにやって来たエウロパ軍に連合軍の重砲が火を噴く。そしてエウロパ軍を叩いた。
「まだだ、怯むな!」
地上部隊を率いるクリス=ローズマン大将が敵の攻撃の中でも怖気づくことなく部下達を叱咤激励していた。そして指示を下す。
「こちらもやりかえせ、撃て!」
「はい!」
それを受けてエウロパ軍も攻撃を開始する。だがそれよりも前に敵の二撃目が来た。それでエウロパ軍の重砲部隊は壊滅した。
「空からも来ます!」
兵士の一人がそう叫ぶ。すると空に連合軍の攻撃機及び爆撃機が来ていた。
「対空砲、ミサイル車前へ!」
ローズマンは爆風の中ずれたヘルメットをなおしてまた指示を出した。そして彼自身も上を見上げていた。
「こちらの航空機はどうした」
「それが・・・・・・」
問われた参謀は口ごもっていた。
「何かあったのか」
「はい。既に先の無人艦艇の攻撃でかなりの数を減らしておりまして」
「まことか」
「ええ。今残っているのは三割程です」
「ううむ」
彼はそれを聞いて顔を歪めた。
「僅か三割か」
「はい。戦闘機に至っては一割を切っております」
「それでは制空権がなくなるぞ。対空砲やミサイル車だけでは防ぐことはできん」
「それはわかっておりますが」
「わかっている、いないの問題ではない」
ローズマンはそれを聞いて吐き捨てるように言った。
「勝つか、負けるかの問題なのだ」
「はい」
参謀は力なくそれに応えた。
「もっともそれを卿に今ここで言っても仕方のないことだが」
「はあ」
「だがこれはよく覚えておくことだ。よいな」
彼は言い聞かせるようにしてそう語った。
「わかりました」
その参謀は言われるままに頷いた。だがよくはわかってはいないようであった。
「卿は何時軍人になった?」
ローズマンはその参謀にまた尋ねた。
「三ヶ月前です」
彼はそう答えた。
「総動員令により召集されました」
「そうか。今までは何処にいたのだ」
「フランスのプロヴァンス大学の研究室におりました。そこで歴史を学んでおりました」
「ふむ、学者か」
「はい」
「見たところ確かにそう見えるな」
ローズマンは彼を見ながらそう言った。見れば細身で背もそれ程高くはない。金がかかった赤い髪に緑の目をしている。ソバカスが顔にあった。
「階級は」
ローズマンはまた問うた。
「少尉であります。名はエル=ド=ベルジュラックと申します」
「ベルジュラック・・・・・・何処かで聞いたな」
「父はブランデンブルグ大学で教授を務めております。機械工学です」
「そう、そうだったな。確かノーベル賞を受賞した」
この時代にもノーベル賞はあった。だがそれはエウロパだけのことであり、連合やサハラにはない。サハラは国ごとにそうした賞がある。ない国もある。連合は連合中央政府主催にでそうした賞が設けられている。これにはマウリアも同盟国として参加している。
「はい」
「それで聞いたことがあるのだった。そして卿も学究の身となったのか」
「部門こそは違いますが。父の影響を受けたのは事実です」
「ふむ」
「私は将来歴史学において父を越える学者となりたいと考えております」
「それは何よりだ」
ローズマンは目を輝かせてそう語るベルジュラックにそう応えた。
「だがそれにはまずやらなければならないことがあるぞ」
「それは何でしょうか」
「この戦いに勝つことだ。いや」
彼はここで言葉を変えた。
「生きることだ。いいな」
「生きることですか」
「そうだ。何事も命があってのものだ。卿は元々軍人ではない」
「はあ」
ベルジュラックは問われるがままに応えた。
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