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第九部第二章 虚の兵士達その十
 こうして連合軍の無人艦隊はさらに数を減らした。だが完璧に防ぐというのは不可能である。やはり防衛網をかいくぐって惑星に激突してくる艦艇もあった。
「グッ!」 
 激突を受けた部分に衝撃が走る。そしてまた人員、兵器にダメージを受けた。
「まだだ、まだやれる!」
 司令部のすぐ側に突撃を受ける。それにより司令部にも衝撃が及ぶがファブリチーニはそれでも立って指揮にあたって
いた。
「敵はまだいるのだ、それを忘れるな!」
「はい!」
 彼が立っているのを見て周りの者も踏み止まった。彼はそれを見て内心頷いていた。
(こうでなければならない)
 彼はそう考えていた。
(指揮官が立っていなくてどうする。我等がいなくてどうする)
 彼はあくまで指揮官としての義務を果たさんとしていた。そしてそこにはもう一つの理念があった。それこそがエウロパ独特の『高貴なる者の義務』であった。
 エウロパは貴族社会である。各国の王や大公を頂点として公候伯子男の五つの爵位があり、その下に騎士や紳士といった階級が存在する。かなり複雑な構造になっているのである。
 エウロパにおいては教育も連合のそれとは異なり平民と貴族に別けられている。連合においてはそもそも階級といったものがなく各国によって多少の違いがあるとはいえ高校までの義務教育を受け、それからは本人の意志や状況等により就職したり進学したりする。だがエウロパでは貴族はまず大学に行く。士官学校も入れてである。平民は行く者もいれば行かない者もいる。そして義務教育での学校も平民と貴族では異なっているのである。そうした中で彼等は独特の貴族としての意識を育てていく。それこそが『高貴なる者の義務』であった。
「貴族ならばその責務を果たせ」
 そう教えられるのだ。そして今ファブリチーニはそれに従っていた。
「よいか」
 彼は司令部にいる者達に声をかけた。
「はい」
「我等はまだまだ戦うことができる。それはわかっているな」
「はい」
 皆それに応えた。
「ならばよい。敵がどれだけ来ようともこのニーベルング要塞群は陥落なぞしない」
「そうですね」
「ニーベルングは難攻不落でした」
「それは何故かわかるか」
「この装甲と装備があるからです」
「違う」
 だがファブリチーニはその言葉を否定した。
「残念だがそうではない」
「違うのですか」
「そうだ。何故このニーベルング要塞群が難攻不落かというと」
「はい」
「我等がいるからだ。エウロパ軍がいるからだ」
 昂然と胸を張りそう言った。あえて胸を張ることで彼等を奮い立たせる為であった。
「我等が」
「そうだ。エウロパ軍とは何だ」
「最強の軍です」
 彼等はファブリチーニの問いにそう答えた。
「最強の軍は負けることはあるか」
「いえ」
 その問いに首を横に振った。
「そしてこの戦い、負けると思ってはいるか」
「思っておりません」
 皆強い声でそう答えた。
「何故だ」
「我等の方が敵より強いからであります」
「そういうことだ」
 そこまで聞いてファブリチーニは満足したように頷いた。
「ではわかるな」
「はい」
「連合軍を退けよ、そしてこの要塞を守り抜け!」
「ハッ!」
 瞬く間に戦意が上がった。エウロパ軍の戦意は最早天を衝かんばかりであった。
「ほう」
 エウロパ軍の動きがよくなったのは義勇軍からも確認されていた。マシュハドはそれを見て笑った。
「どうやら気合が入ったようだな」
「そのようで」
 ワフラがそれに応える。
「ここが連合軍とは違うな。彼等は戦いというものを知っている」
「はい」
 連合軍は海賊やテロリストとの戦闘はあった。だが実際に他国の軍との戦争はなかったのである。これは連合軍設立以前の各国の軍に分かれていた頃からであった。
「戦争は違うのだ。海賊やテロリストを相手にするのとはな」
「そうですね」
「生憎我が戦友達はそれをまだ知らぬ。しかしな」
 マシュハドは言葉を続けた。
「我等は知っておるぞ。それもよくな」
 そう言ってニヤリ、と笑った。不敵な笑みであった。
「よいか」 
 ここで指示を下した。
「まずはティアマト級を前に出せ」
「ハッ」
 言われるままティアマト級巨大戦艦を前に出してきた。百隻程であった。
 そのまま進む。そしてある距離に来るとマシュハドは叫んだ。
「撃て!」
 巨砲が一斉に火を噴く。そして惑星を攻撃した。
 無人の艦艇も炎の中に包む。そしてそのまま惑星を撃った。
「ぬう!」
「連合軍の攻撃か!」
「はい!」
 フランドに参謀の一人が答える。今ファブリチーニは港で将兵の士気の鼓舞にあたっていたのだ。
「どうやらあの黒い艦隊の攻撃です」
「あれか」
 フランドはそれを受けてモニターに目をやる。見ればその前にはティアマト級巨大戦艦が列を作っていた。
「こちらの射程外から撃ってくるとはな」
「本来なら連中を主砲で撃つところですが」
「使えないとあってはな。仕方がない」
「はい」
 参謀は苦い顔でそれに応えた。
「この為の作戦だったのでしょうか」
「おそらくな」
 フランドはそれに頷いた。
「考えたものだ。まあそうでなくともこちらの主砲は使用不能にしようとしていただろうがな」
「そうでしょうね」
「艦隊の損害はどうか」
 彼はここで艦隊について問うた。
「今の攻撃でダメージを受けてはいないか」
 そこで通信が入って来た。艦隊からのものであった。
「どうだ」
「こちらの損害は軽微」
「そうか」
 それを聞いてとりあえずは安心した。だがそれはほんの一瞬のことであった。
 また砲撃が加えられてきた。それにより惑星全体が大きく揺れた。
「またか!」
「はい!」
 地震の様に揺れる司令室の中で彼等はそれでも立っていた。そしてモニターを見た。
「少しずつ近付いて来るな」
「ええ」
 フランドはここで辺りを見回した。既に負傷している者も多かった。
「司令は御無事か」
「お待ち下さい」
 それを受けて将校の一人が港に確認を入れた。暫くして彼はフランドに答えた。
「御無事です。しかし港にもかなりの損害が出ております」
「そうか。すぐに応急班を向かわせよ」
「はい」
 指示が下される。それを受けて応急部隊が動く場面がモニターに映し出された。
 彼等はすぐに港の消火及び復旧にあたった。だがそれは遅々として進まないようであった。
「司令は現場で指揮を執っておられるのか」
「そのようです」 
 フランドに先程連絡を入れた将校の一人がそう答えた。
「まずいな」
「まずいですか」
「そうだ」
 フランドの声は深刻なものとなっていた。
「司令にはすぐにこちらに戻って頂きたい。港には私が行く」
「何故ですか」
「司令には全体の指揮を執って頂きたいからだ。港は確かに重要だ」
「はい」
「だがそこだけではないのだ。他にも重要な場所はある。いや」
 ここで言葉を換えた。
「この惑星全てが重要なのだ。わかるな」
「はい」
「そういうことだ。司令には全体の指揮を執って頂きたい」
「わかりました」
 それを受けて港と司令部の指揮が交代した。結果的にこれがこの要塞における戦いに大きく影響することになるとは誰も知らなかった。知る由もなかった。
 艦隊は迫り来る連合軍に向かおうとしていた。既に無人艦隊は彼等の攻撃と先程の砲撃により殆どいなくなっていた。ジェラールはそれを受けて攻撃目標を連合軍の本軍に変えたのだ。
「よいか」
 彼は全軍の動きを見ながら指示を下していた。
「あまり前には出るな。惑星からの援護がある範囲で迎え撃つ」
「はい」
 全軍彼の指示に従い慎重に動いていた。徐々に間合いを詰めようとする。
 連合軍はそれに対してティアマト級を後ろに下げ砲艦とミサイル艦を出してきた。そしてそれで一斉攻撃を仕掛けてきた。
「来ました!」
「散開、そして前面にバリアーを集中させよ!」
「ハッ!」
 ジェラールの指示に従い全艦動く。そしてそれにより損害を最小限に抑えようとした。だが連合軍の攻撃は彼等が予想している以上のものであった。
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