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第三十三部第四章 犠牲を厭わずその二十
「その為今の時点から備えを用意しているのです」
「連合中央政府国防長官は八条義統という」
「その名は私も知っています」
 フラームの冷静な言葉が続けられる。
「日本、いえ連合でも有名な企業グループの長子ですね」
「そして政界の俊英でもある」
 これが八条のサハラでの評価である。彼等だけの評価ではない。
「若き英雄とも言われている」
「英雄ですか」
「英雄は軍服を着ている者だけではない」
 シャイターンはあえて軍服のことを述べた。
「背広を着ていてもだ。英雄は英雄だ」
「そうなのですか」
「政治家であろうとも経営者であろうともだ」
 どちらも完全に軍人ではない。しかし連合においては彼等はサハラにおける軍人よりも遥かにポピュラーな存在となっているのは事実だ。
「農夫であっても医者であっても銀行員であってもな」
「英雄になるのですか」
「優れた業績を残し大事を為したならばだ」
 これはシャイターン独自の定義である。
「そしてそれにより偉大な存在となったならばだ」
「それで英雄なのですね」
「それで」
「そういうことだ。だからあの長官も英雄なのですか」
「あれだけの短期間であそこまでの軍を作り上げた」
 連合軍をである。
「そしてそれを動かし勝利を収めたな」
「エウロパとの戦争にですね」
「あの戦争の勝利は見事でした」
「幾ら質量共に圧倒的な差があってもだ」 
 数では四倍以上、兵器の質ではさらに圧倒的なものがあった。そのうえ万全の補給を整えていたので勝利を収めない筈がない。しかしであった。
「それでも新造の軍隊だ」
「はい、確かに」
「新造の軍隊です」
 このことが言われるのだった。フラームとアブーによって。
「各国の軍を寄せ集め同じ軍服を着せ」
「同じ装備を揃えただけの」
「それであそこまでの勝利を収められるか」
 シャイターンはこのことにも言及する。
「連合軍の損害は十個艦隊程度、人員にして百万だ」
「はい」
「そのうちの九割が義勇軍でしたね」
「それに対してエウロパ軍は百五十個艦隊」
 艦隊規模にして十五倍である。
「そして人員は。死傷者全てで五千万を優に超えているな」
「一億だったのでは?」
「そうとも聞いていますが」
 この辺りは諸説入り乱れている。だが実際は五千万程度でありエウロパ側もこう主張しているし連合もその程度だと分析して戦果として報告している。
「五千万ですか」
「しかし。それでも圧倒的ですね」
「義勇軍の存在があったとはいえ新造の軍隊でそこまでの勝利を収められるか」
「戦果だけではありませんしね」
「彼等は戦略目標も達する寸前でした」
「その通りだ」
 当然ながらシャイターンはそこも見ているのだった。
「それもな。オリンポスをあと一歩で占領するところだった:
「それができなかったのはすんでのところでマウリアが仲裁に入ったからで」
「それがなければ。やはり」
「オリンポスは陥落していた」
 一言で述べたのだった。
「確実にな」
「そうですね。あのまま押し切られ」
「そのままオリンポスを陥落させられあのオリンポス条約はエウロパによってさらに厳しい内容になっていたでしょう」
 それを救ったのはエウロパ軍ではなくマウリアであった。実に皮肉な現実である。
「そこまでの一方的ナ勝利を収められるだけの軍を短期間で作り上げたのは」
「確かに見事ですね」
「そして連合の治安も飛躍的に向上した」
 シャイターンはここでも勝利以外のものを見ていた。
「宇宙海賊やテロリストを掃討してな」
「その通りですね」
「それもまた」
「戦いに勝利を収め国家の治安も安定させた」
 彼は言う。
「やはり英雄なのだ、彼もな」
「そういうことですか」
「あの八条長官は」
「あの長官とは一度会ってみたいな」
 シャイターンの目が興味深げなものになっていた。
「是非な」
「では連合まで行かれるのですか?」
「それともこちらまで及びするのでしょうか」
「どちらでもいいがな」
 何処で会うのかにはこだわらない様子だった。
「しかしだ。それでもだ」
「一度御会いされたいのですね」
「この戦いが終わってから考えよう」
 彼は言った。
「ゆっくりとな」
「それでは今は」
「まずは目の前の戦いを終わらせる為に」
「そうだ。アッサルームだ」
 アッサルームへの侵攻をここでも命じた。
「いいな。今からな」
「はっ、それでは」
「また。あらためて」
 こうして彼等はアッサルームに向かった。そこでアヤグーズと、そしてブルコルジと最後の戦いに入るのであった。
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