第三十三部第四章 犠牲を厭わずその十
「派手に失いましたね」
「ですがこのまま戦えば」
「我等は。これ以上の損害を受けていたでしょうから」
「それは承知のうえではなかったのですか」
「それはその通りです」
他ならぬ彼女もまたその指示を出しているからこそ頷けるものであった。
「それは。やはり」
「ですね。それは」
「止むを得ないことですから」
「わかっています。では全軍全速力で戦場を離脱する」
感情を押し殺して指示を伝えた。
「落伍した艦艇には降伏するのように伝えなさい」
「はっ、了解です」
「では」
こうして協同軍はまず全力で戦場を離脱にかかった。やはり落伍者も多く出たがそれでもだった。今は全速力で脇目も振らず戦場を離脱した。
協同軍はティムール軍の第二の攻撃を受けることなく戦場を離脱した。それを見てシャイターンはまずは自軍に対してこれ以上の追撃を止めさせた。
「今はいい」
「よいと!?」
「ですが彼等は」
「アヤグーズ軍は撤退した」
シャイターンはこのことをあえて言った。
「アッサルームにな」
「ですからここでこそ」
「追撃を仕掛けないのです」
「よい。むしろ下手に追って反撃を受けては元も子もない」
それを危惧しての慎重な動きでもあった。
「だからだ」
「それでですか」
「そうだ。それにだ」
今度の言葉はブルコルジの考えを読んでのことである。
「彼女はもうアッサルームでは戦いを挑まない」
「!?アッサルームではですか」
「その宙域ではな」
こう述べるのだった。
「それはない」
「では惑星でですか」
「我等と」
「そう。惑星での戦いだ」
既にその戦いも見据えていたのである。
「最後はな」
「アッサルームのですか」
「遂に」
「最後の舞台に相応しい」
シャイターンの声は楽しむものであった。
「実にな」
「最後のですか」
「そうだ」
フラームの問いに対して答えた。
「豹と虎の戦いの最後の舞台にな」
「虎が最後の輝きを見せるのですね」
「その通りだ」
ブルコルジが倒れる、それは最早彼の中では定まっていることであった。
「そして膝を屈しだ」
「兄上に仕えると」
「何度も言うが私は才を愛する」
シャイターンの特徴として優れた人材を欲するというところである。才がある者ならばその出自や立場にこだわらずにすぐにそれに相応しい場所に就ける。そうした人材を見抜く目があることも彼をして今のティムールの独裁者にしているのである。独裁者はそうしたこともできなければ独裁者になれないものなのだ。
「そして彼女には」
「その才があるというのですね」
「その通りだ。だからこそだ」
「はい」
「あの女王を」
「元帥の地位を用意してある」
ここで彼はこうも言った。
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