第九部第二章 虚の兵士達その六
「何時まで続くんだ、一体」
「わからん」
流石に士気にも影響が出はじめていた。それはファブリチーニやジェラールの耳にも入っていた。彼等はそれを深刻に受け止めていた。
「まずいことになってきたな」
「ああ」
二人は要塞群防衛司令官の司令室で互いにそう話をしていた。座らずに立ったままであった。その余裕も最早なかったのであった。
顔には焦燥が漂っている。この三日ろくに寝てはいないのだ。休めてすらいない。髭が顔を覆おうとしていた。エウロパの者は純粋なコーカロイドなのでそれはかなり濃い者が多いのである。
「燃料や武器、弾薬はまだ大丈夫だろうな」
「今のところはな」
ファブリチーニはジェラールの問いにそう答えた。
「あと一月は満足に戦えるぞ」
「ならそちらは問題はないか」
「しかし将兵はそうはいかない」
「その通りだ」
ジェラールが言いたいのではそれであった。彼は大きく頷いた。
「援軍は来るのだろうな」
「一週間先だ」
「そうか」
ジェラールはそれを聞いて少し暗い顔になった。
「長い一週間になりそうだな」
「このままではその一週間すら危ういぞ」
「そうだな」
それを認めるしかなかった。
「また敵が来たらしいしな」
「こちらの戦力は限られている。だが敵は無尽蔵か。ハンデはかなりのものだな」
「それは最初からわかっていたと思うが」
「フン、確かにな」
戦友のその言葉に苦笑した。それからまた言った。
「だがゴーレムを相手にするとは思わなかった」
「ゴーレムか、連中は」
「そうだ。ゴーレムだ、奴等は」
ジェラールはいささかシニカルな言葉尻でそう言った。ゴーレムとはユダヤ教徒達に伝わる土の巨人である。彼等を守る為に戦う古代のロボットであった。迫害を受け続けたユダヤ人達の心の支えの一つであったのだ。だが本当にあったかどうかは不明である。かってプラハに出たという話はあった。二十世紀にイスラエルが建国され、そして連合に参加してからはそうした話はなくなった。だがイスラエルの市民達もゴーレムの存在は忘れず、兵器の名に冠したりしていたのであった。
「ただし、守る程弱い相手ではないがな」
「それは言えるな」
「それに無人艦隊だけでこの要塞群を陥落させられると彼等が思っているとは思えない」
「うむ」
「必ず出て来る筈だ、敵の主力が」
「それを退けなければならないな」
「ああ」
彼等が最もよくわかっていることであった。このまま無人の戦力だけで連合軍が戦う筈がないということは。
「また敵の援軍だ」
「旧式の無人艦隊だな」
「そうだ。これで今までで三百個艦隊を送り込んできている」
「ふむ」
ジェラールはそれを聞いて顎に手を当てて考え込んだ。
「そろそろ・・・・・・かな」
「だろうな」
「主砲はまだ使えるな」
「何発でもいけるぞ」
「要塞群のビーム砲やミサイルは」
「かなり損傷を受けてはいるがまだいける」
「そちらの損害はどれ位だ」
「二割といったところか」
「そうか。まだ大丈夫か」
「おそらくな」
「それではこの一週間を耐え切るとしよう。事態はそれで好転する筈だ」
「うむ」
苦境に耐えてこその勝利だと彼等は考えていた。それが為にここは踏み止まることを選択したのだ。彼等にもエウロパの軍人としての矜持があった。
連合軍の援軍はそのまま要塞群に向かって来た。それを受けて他の連合軍の艦艇も動きをはじめた。要塞群に向けて突っ込んで来たのだ。
「!?何をするつもりだ」
それを見たファブリチーニもジェラールも首を傾げた。連合軍の艦艇はエウロパ軍の攻撃にもかかわらずそのまま突撃してきたのだ。
「火力を集中させよ!」
ファブリチーニもジェラールもすぐに指示を出した。そして連合軍の艦艇を次々に沈める。しかしそれでも連合軍の突撃は止まらなかった。
艦艇はそのまま要塞群の惑星に肉迫するとそのまま体当たりを敢行した。そして艦をそのまま爆弾にして要塞群を破壊しにかかってきた。
「クッ、今度はそうきたか!」
「司令、如何なさいますか」
ファブリチーニにゴンガーザが問うてきた。彼はそれにすぐに答えた。
「決まっている。攻撃を続けよ」
それしかなかった。そして逡巡している暇もなかった。
「衛星の被害は」
「第一衛星が表面装甲及び砲座に損傷、ですが人員にはそれ程の損害はありません」
「そうか」
「第二衛星は表面装甲のみです。人員には損害はありません」
「今のところは大したことはないな」
「はい」
「ではこのまま攻撃を強めよ。よいな」
「わかりました」
ゴンガーザはその指示に頷いた。
「それではこのまま攻撃を続行致します」
「うむ」
「あと敵の動きですが」
「まだ何かあるのか」
「はい。何かブラウブルグ回廊でエネルギー反応がありました」
「エネルギー反応がか」
「敵が動いているものと思われますが」
「本隊か」
「そこまではわかりませんが。如何為されますか」
「今の我が軍に彼等にまで兵を向ける余裕はない」
ファブリチーニは苦い顔をしながらもそう答えるしかなかった。
「とりあえずは今攻撃を仕掛けている敵を退ける。よいな」
「わかりました」
ゴンガーザはその言葉に頷いた。
「それではまずは敵の無人艦隊を何とか致しましょう」
「それしかないな」
「はい」
この判断は正しかった。エウロパ軍は今目の前にいる敵に対処することで精一杯であった。彼等は兵力分散を避ける意味でも回廊にいる連合軍をさしあたって放置した。彼等がどれ程危険な存在であるのかを薄々ながら知りながらもであった。結果としてそれが命取りとなるのであるが。
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