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第九部第二章 虚の兵士達その三
 敵軍が迫っているのはエウロパも既に感知していることであった。駐留艦隊は出撃し敵に向かって移動していた。機雷が置かれている部分を左に迂回し敵の側面を叩く予定であった。
「連合軍は今何処にいる」 
 旗艦ガリバルディの艦橋に彼はいた。ジェラールはそこに立ちスタッフである参謀達に問うていた。
「まだ回廊の出口付近だと思われます」
 参謀の一人がそう答える。見れば中将の軍服を身に着けている。金髪碧眼で端整な顔立ちの美青年であった。
「そうか」 
 ジェラールはそれを聞いて頷いた。
「ならば少し足を緩めるぞ」
「はい」
 それに従い艦隊は速度を抑えた。そして回廊の出入り口に向かうのであった。
「この機雷源が我等の命綱だな」
 ジェラールは右手に拡がる機雷源を見ながらふとそう呟いた。
「これで防がなくてはならない」
「はい」
 参謀達はその言葉に頷いた。
「これは連合軍も突破出来ないでしょう」
「そうだな。しかし百億の機雷を撒くのには苦労したな」
「全くです」
 彼等はそれに同意した。
「しかしそれだけに壮観ではあります。そして今も捲かれています」
「うむ」
「これを抜くことはおそらく誰にもできないでしょうね」
「そうだな。だが油断はできないぞ」
「はい」
「彼等の最大の武器はその物量だ。それで一気に押し切るやも知れぬ」
「数でですか」
「そうだ。我等は総動員令をかけたとはいえその数は彼等には遠く及ばない」
「はい」
「それは認めなくてはならない。そのうえで作戦を立てているのだからな」
「わかっております」
「ブライベルグ回廊が広いといっても一度に通過できる艦隊の数は決まっている」
「はい」
「それが我等の付け入る隙だ。ならば」
 彼はさらに言う。
「それで入口を塞いでおけばよい。この要塞の本来の機能だ」
「本来の機能ですか」
「そういうことだ。ここから一歩も引いてはならないぞ。よいな」
「はい」
「それにはまず」
 彼はここで前を見据えた。
「今来ている敵を倒す。よいな」
「ハッ」
 皆それに頷いた。ジェラールは経験豊富な将として知られている。かってはサハラにおいて活躍し、数々の武勲をたてているのだ。だからこそ部下からの信頼を篤いのだ。
 機雷源と回廊の出口の間に隠れるようにして艦隊を置いた。そして敵を待った。暫くして敵艦隊が回廊から出て来たのを確認した。
「来たか」
「はい」
 部下達もそれに頷いた。すぐに動こうと提案する者がいた。しかしジェラールはそれを手で制した。
「まだだ」
「何故ですか」
「まだ早い」
 彼はそう答えた。
「敵が完全に回廊から出てからだ。よいな」
「はい」
 皆その言葉に従った。エウロパ軍はそれを受けて息を殺して連合軍が全て回廊を通り抜けるのを待った。やがて全ての艦隊が回廊を通り抜けた。それを見てジェラールはまた言った。
「機は熟した」
「わかりました」
 それを受けてエウロパ軍は動いた。そして連合軍の後方に回る。それまで連合軍の反応は一切なかった。
「?」
 ジェラールはそれを見て違和感を覚えた。
「司令、どうなされました?」
「おかしいとは思わないか」
 彼はそう参謀達に言った。
「おかしいですか」
「ああ。今まで何の反応もない。どういうことだ」
「そういえば」
 彼等もそれを受けて頷いた。
「幾ら我等が通信を切って隠密行動に徹しているとはいえ」
「確か連合軍の索敵能力はかなりのものだったな」
「はい、そう聞いております」
「それを考えるとな。おかしい」
「ううむ」
「そういえば彼等の艦艇も」
「そうだな」
 ジェラールはモニターに映し出される連合軍の艦艇を見てそれに応えた。
「やけに古いものだな。そうは思わんか」
「はい」
「それにティアマト級戦艦もない。どういうことだ」
「確か各艦隊の旗艦でしたね」
「そうだった筈だ。しかも全艦隊にある筈だ」
「はい」
「それを思うとな。おかしことだらけだ」
「まさか」
 その時彼等は回廊の出入り口の前を通過していた。ジェラールはそれを確認した後で艦隊を動かした。
「敵が後ろから来る怖れがあるな」
「はい」
 それは皆よくわかっていることであった。それを踏まえて彼等はさらに前に出た。そして敵艦隊の左斜め後ろに出た。それから攻撃を仕掛けるつもりであった。
「全艦砲門開け」
「了解」
 それを受けて砲門を開く。
「砲撃用意」
「砲撃用意」
 命令が繰り返される。そして距離がさらに詰められる。ジェラールはゆっくりと手をあげた。
「撃て!」
 そしてその手が振り下ろされる。一斉に砲撃が放たれる。
 砲撃を受けた連合軍が炎に包まれる。しかしそれでも反転等をして攻撃を仕掛けてはこなかった。それを見てジェラールはさらに不思議に思った。
「どういうことだ」
 そこで回廊の出口から敵が来た。それを見て彼はすぐに動いた。
「回廊付近にも兵を回せ!」
「はい!」
 それを受けて艦隊が派遣される。見れば回廊から出て来たのも古い艦であった。かって各国がそれぞれ軍を持っていた頃の古い艦であった。
「どういうことだ」
 ジェラールはそれを見てさらに首を傾げた。
「司令、前方の敵艦隊ですが」
 ここで先程の青年の参謀が彼に対し声をかけてきた。
「どうした」
「我が軍の攻撃を受けながらもそのまま要塞に向かっているのですが」
「何!?」
 見ればその通りであった。艦隊はそのまま前に進んでいる。どう見ても妙であった。
「奴等、どういうつもりだ」
「司令」
 ここでまた情報が入ってきた。
「先程回廊に出た艦隊ですが」
「どうしたのだ」
「我等の攻撃を無視してそのまま右手に迂回し要塞群に向かっております」
「何!?」
「後続艦隊もです。どうしますか」
「ううむ」
 この時彼の頭の中で一帯の地図が浮かんだ。今の自分達がいる位置と敵がいる位置が。それを見て彼は決断を下さざるを得なかった。
「止むを得んな」
 彼は言った。
「回廊の出口に向かっている艦隊を呼び戻せ。兵を一つにする」
「はい」
 それを受けて艦隊が呼び戻された。そして今要塞群の左手にいる連合軍に攻撃が集中された。
「ニーベルング要塞群に伝えよ」
「はい」
 またもやジェラールの指示が下った。
「右手は頼むとな」
「わかりました」
 こうして指示がまた下る。それを受けたファブリチーニは要塞群の砲やミサイルを回廊から見て右手、要塞群から見て左手に集中的に向けた。そして指示を下した。
「敵艦隊に攻撃を集中させよ!」
「ハッ!」
 それを受けて無数のビームやミサイルが放たれる。そしてそれが連合軍を撃つ。その間にファブリチーニは管制室に電話を入れた。
「あれの用意は出来ているか」
「はい」
 電話に出た管制室長がそれに答える。
「何時でも可能です」
「よし」
 ファブリチーニはそれを受けて頷いた。
「ならばすぐに撃つぞ。いいな」
「わかりました」
 室長はそれを了承した。そして彼に対して言った。
「発射は司令御自身の手で宜しいですね」
「うむ」
 それに頷く。
「是非ともな。それでいこう」
「はい」
 ファブリチーニは前に出た。そして司令の席に来た。そこにある一つのボタンに目をやる。
「これを実際に戦闘で押すのははじめてだな」
「はい」
 隣にいるゴンガーザがそれに応える。
「今まで演習やテストで撃ったことはありますが」
「戦闘でははじめてだったな。だがこれは運命のようなものだな」
「はい」
「連合を倒す為にはな。その為だけの為に今まで温存されていた」
 彼は言葉を続ける。
「それを今放つ。そして連合軍を退けるぞ!」
「ハッ!」
「発射!」
 ボタンが押された。そしてニーベルング要塞群の中央の惑星から巨大な光が放たれた。それは一直線に連合軍に向かっていく。
 光が連合軍を貫いた。そして光の周りを無数の炎が覆う。それはまるで神の裁きの炎であった。
「やったか!」
 管制室の士官がそれを見て叫ぶ。ファブリチーニも会心の笑みを浮かべていた。
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