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第三十三部第三章 機雷戦その三
「ここまで苦労もしないのだがな」
「確かにですがそれは」
「言っても何もはじまるものでもない」
「残念ですが」
 バンダルのその言葉に頷くのであった。
「その通りです」
「何かはじまるわけではなく何かをできるわけでもない」
「そのことを申し上げましても」
「ならば何かをはじめ何かをする為には」
「そうです。動くことです」
 やはりこれであった。ギーヴの言葉は見事に現実を捉えたものなのであった。
「今。動くということは」
「勝つことだ」
 バンダルは一言で全てを述べてしまった。
「ただ。それだけだ」
「はい。それでは」
「今は。待つ」
 ブルコルジの指令をあらためてハサン軍全軍に告げた。
「よいな。軽挙妄動はくれぐれも慎むように」
「はっ、それでは」
「暫く。ここに留まる」
 バンダルはブルコルジの指示を彼自身の口からもハサン軍に対して告げた。
「それでいいな」
「はっ」
 ギーヴが代表してそれに応える。こうしてブルコルジの指示は一応はハサン軍全体に及んだのであった。だが。それはあくまで一応であったのだった。
 ハサン軍の将兵の中にはそれぞれの艦艇でこの指示に不満を抱く者達もいた。彼等は今現在の停止命令を聞いて眉を顰めさせて言うのであった。
「折角こちらの方が数が上だというのにな」
「全くだ」
 彼等の数を妄信してもの言葉であった。
「それで攻めないなぞ愚の骨頂だ」
「その通りだ。やはりここは」
「攻めるべきだ」
 見れば予備兵あがりの者達ばかりだ。彼等は将校に至るまで今攻めないことに不平を漏らすのだった。中にはそれは艦長クラスにまで及んでいた。
「愚かな話だな」
「全くです」
 ある戦艦において副長が艦長に対して答えていた。
「今ここで攻めずして何とするか」
「ですがアヤグーズのあの女王様ときたら」
「全くだ」
 不満をありありと述べ続ける二人であった。
「何が猛虎なのだ。攻め方もわかっていないとはな」
「数は我等が優勢です」
 やはり彼等もこのことを念頭に考えているのであった。しかしそこにはその数以外に考慮に入れている部分はなかったりする。そしてそれに気付いてもいない。
「それを何故生かさないのか」
「駄目だな」
 忌々しげに言い捨てた艦長だった。なお彼は長い間どころか兵役を務めてすぐに予備役になりそのまま二十年を過ごしている。その間碌に教練を受けたこともない。ある企業の部長でそれを考慮して今艦長をしているのである。
「これはな」
「そうですな」 
 この副長も大体同じである。今の本来の仕事は役場の課長である。たまたま予備役将校となっていたのでこの艦長共々今この艦の副長をしているのだ。
「まあいい。いざとなったらだ」
「攻めますか」
「独断専行も時にはよしだ」
 艦長は言った。
「これは普段わしの会社でな」
「はい、会社において」
「いつも言っていることだ」
 しかも企業と軍を混同していた。やはり何もわかってはいないのだった。
「そうした時の責任は常に上司持ちだとな」
「それはいいことで」
 確かにそれはいいがそもそも軍がわかっていない言葉である。
「だからだ。いざとなればな」
「出ますか」
「何が紅い豹だ」
 シャイターンのことである。
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