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第九部第二章 虚の兵士達その二
「また腕を上げているようだな」
「そうだろう」
 ジェラールはそれを聞いて微笑んだ。
「他にもケーキやパイなんかも美味くなったぞ」
「それは何よりだ」
 ファブリチーニはそれを聞いて顔を綻ばせた。
「あいつは子供の頃からお菓子を作りのが好きだったからな。あの頃から上手かったが」
「最近ではさらに磨きがかかってきているな」
「そう思う」
 ファブリチーニはそう言いながらクッキーをまた一つつまんだ。それをまた味わう。
「願うことならまた食べたいな」
「そうだな」
 ジェラールもその言葉に同意した。
「奴等が来ている。もう知っていると思うが」
「既にそれはこっちでも聞いている」
「ならば話が早い」
 ファブリチーニはそれを聞いてから頷いた。
「艦隊を率いて奴等を退けてくれ」
「ああ」
「何かあったらすぐにこの要塞に入れ。そして援軍が来るまで持ち堪える」
「全てはこれをまた食べる為だな」
「そうなるな」
 二人はここでもう一切れクッキーを口に入れた。そして甘みを味わう。
「だがそれが適わない時は」
「あの時に誓ったな」
「うむ」
 二人は士官学校を出る時に誓ったことがある。彼等はそれを受けて頷き合った。
「ヴァルハラで会おう」
 彼等の信仰する神はオーディンであった。二人共イタリア出身であるがオーディンを信仰していたのであった。これは戦を生業とする武人の家であるからであった。
「では奴等が回廊から出て来たならばすぐに出る」
「頼むぞ」
「任せておけ。そして」
「シャンパンを用意しておこう」
「あとクッキーもな」
「ふふふ」
 こうして二人の戦友達は挨拶を交わした後別れた。彼等は連合軍が回廊から出て来るのを今か、今かと待ち構えていたのであった。
 これに対して連合軍は落ち着いたものであった。ガンタース要塞群に集結する全軍に出撃命令が出ていたがそれでも彼等の殆どはまだ動いてすらいなかった。多くは艦に乗り込んでいたがそこで準備をしているだけであった。
「先に出撃した部隊は何なんだ」
 とある巡洋艦で乗組員達が昼食のスパゲティを食べながら話をしていた。ミートソースである。
「サハラ義勇軍じゃないのか」
 同僚がそれに応える。彼もフォークを手にパスタを口に入れていた。
「あれ、まだ出ていないと聞いたぜ」
 別の者がそれを聞いて言う。そう言った後で茶を口に入れた。紅茶、それもレモンティーであった。
 連合軍においては艦内での飲酒は禁じられている。エウロパ軍が艦内でも好きなだけ飲んでもいいのとは対象的であった。ここにも文化の相違があった。これは昔からの食文化の違いであった。
 エウロパではかって済んでいた欧州は水が悪かった。その為酒を水の替わりに飲んでいたのであった。ビールやワイン等がよく飲まれた。朝からビールに入れたパンを食べることもあった。
 こうしたことから今でも彼等は普通に水の替わりとしてワインを飲んでいるのである。これに対して連合では水が欧州程悪くはなかった国が多かった為酒を平時に飲む風習はなかった。よって今でも艦内では酒を飲むことはないのである。だがこれは原則的にであって時には内密に飲まれることもある。
「もうすぐ出るとは聞いているがな」
「そうなのか」
 三等伍長の階級章をつけた若い男がそれを聞いて頷いた。見ればアジア系の顔に金色の髪をしていた。やはり混血が見られる。
「じゃあ先に出た艦隊は一体何なんだ」
「偵察の艦隊じゃないのか」
「その割に規模が大きかったみたいだぜ」
 先程紅茶を飲んでいた男がそれに対して言う。
「そういえばそうね」
 女の兵士がそれを聞いて頷いた。連合軍にも女性の兵士はいる。連合軍において女性兵士の割合は大体四割を越えている。こうして前線部隊にも普通の配置されているのだ。
「何か通信室でも偵察みたいな話は出てはいなかったわよ」
「そうなのか」
 この女性兵士も三等伍長の階級章を身に着けている。マークは通信であった。
「じゃあ何なんだろうな」
「待った」
 ここで彼等の席の後ろから声がした。
「艦内とはいえそうした話をするのはよくないな」
「あ、申し訳ありません」
「うむ」
 見ればそこには連合軍の軍服を着た中年の女性がいた。赤い髪の緑の瞳をした浅黒い肌の女であった。階級は中佐のものであった。
「わかってくれればいい」
「はい」
「ところで席は空いているか」
「こちらに」
「そうか」
 彼女はそれを受けて示された席に座った。その手にはスパゲティがあった。やはりミートソースであった。
「何処に目や耳があるかわからないからな」
「そうですね」
「マスコミや市民の目や耳がある。そうした話は最低限出撃してから部屋でこっそりとやってもらいたい」
「わかりました」
「ならいい。さて」
 彼女はここでスパゲティを口に入れた。
「ふうむ」
「どうですか」
「何というか」
 彼女はパスタを口に入れながら答えた。
「味が薄くはないかな」
「えっ、そうですか?」
 それを聞いた黒い髪のアジア系の若者が声をあげた。
「丁度いいですよ」
「そうか」
 彼女はそれを聞いて納得したような、しないような顔をした。
「私はそうは思わないが」
「艦長は確かツバル出身であられましたよね」
「そうだが」
「あちらでは料理は濃い味付けなのでしょうか」
「別にそうではないが」
「では何故」
「それは御前が日本人だからだろ」
 ここで金髪の三等伍長が黒い髪の男に対して言った。
「日本人は薄い味付けを好むからな」
「別にそうは思わないけれど」
「俺から見たらそうなるぜ」
「同感」
 女の伍長もそれに同意した。
「和食って全体的に味が薄いのよね」
「そうだよな。何でも素材の味を楽しむってことで。単に調味料をケチっているだけなんじゃねえか、って思うんだけれどな」
「おい、それは暴言だぞ」
 黒い髪の男はそれを聞いて口を尖らせた。
「和食のよさがわからないからといってな」
「確かに美味いことは美味いよ。うどんも蕎麦も好きだよ」
「けれど薄味ってのは否めないでしょ」
「確かに」
「このスパゲティに関しては少し辛さが足りないな」
「どうぞ」
「あ、すまない」
 艦長はここで差し出されたタバスコを受け取った。そしてそれをかけてから食べる。
「如何ですか」
「これなら問題ないな」
 彼女は微笑んでそう答えた。
「どうも辛さが少し足りないと思っていたからな」
「左様ですか」
「といっても私個人の好みを艦全体に押し付けるわけにもいかない」
「はい」
「こうして味は自分で調整すればいいからな」
「艦長」
 ここで艦内放送が入った。
「艦橋にお戻り下さい」
「何だ」
 彼女はそれを受けてスパゲティを素早く腹の中に収めた。そして席を立ち皿を洗台に入れた。自動で洗われるのである。
 そして艦橋に向かった。階段と廊下を進み艦橋に着いた。そこでは士官達が既に何人か集まっていた。
「出撃か」
 彼女は艦橋に着くとまずこう問うた。しかしその答えは違っていた。
「いえ、違います」
「そうか。では何があった」
「艦隊司令からの達がありました」
「司令から」
「はい。出撃に関することで。一週間以内に出撃するとのことです」
「そうか、一週間か」
 彼女はそれを聞いて考える顔をした。
「思ったより長いな」
「その間に出撃すると思いますが」
「うむ。しかしだ」
 彼女は言葉を続けた。
「それでも遅いとは思わないか。サハラ義勇軍はどうしている」
「明日にも出撃するようです」
「そうか」
「しかしそれよりも前に百個艦隊規模で出撃しておりますね」
「うむ」
「あれは一体何なのでしょうか」
「あれか」
 それを聞いて顔を向けた。
「私にもわからない。どうやらかなり上の方で極秘にやっているらしいが」
「そうなのですか」
 連合軍のように巨大な組織ともなると艦長では末端に過ぎない。将官ですら軍のことを全て把握できているわけではないのだ。それだけ巨大な組織であった。
「しかし近いうちにわからことだ」
「はい」
「何が行なわれているのかはな。そして我々がやっておくことは」
「わかっております」
 士官達はそれに応えた。
「既に全て整っております」
「よし」
 彼女はそれを聞いて満足そうに頷いた。
「ならばいい。それでは艦長命令だ」
「はい」
「総員艦内にて出撃命令があるまで待機。各自英気を養っておくようにな」
「ハッ」
 彼等はそれを受けて敬礼した。そしてその命令に従い総員英気を養うのであった。

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