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第三十三部第二章 優勢な中でその十二
「そうなるな。ではそれにしよう」
「わかりました。それでは」
「サハラ風で」
「頼む。それでな」
「わかりました」
 こうしてメニューは決まった。まずは豪奢な鶏をメインとしたメニューを食べ終えそのうえでデザートとなった。見事なチョコレートケーキを同じくチョコレートで頂く。白い陶器のカップの中にあるチョコレートはその独特の黒を見せてそこにたたえられてあった。シャイターンはそれを見つつまた言った。
「このチョコレートだが」
「どうかされましたか?」
「ヒトラーがこよなく愛していたな」
「ヒトラーといいますと」
 従者達はその名を聞いて述べた。
「あのエウロパの」
「ドイツでしたな。確か二十世紀の」
「そうだ。独裁者だ」
 サハラにおいても知らぬ者はない。人類史上においてヨシフ=スターリンと肩を並べる独裁者としてその名を残している人物である。
「彼はチョコレートを愛していたのだ」
「ほう。それはまた」
「意外です」
「意外か」
 従者の言葉を聞いて目を向けるシャイターンだった。
「それは意外か」
「ヒトラーといえばその行動や思想からあまりそうしたものを好むとは思えませんので」
「酒を愛していそうなのですが」
「だが彼は酒は飲まなかった」
「そうなのですか」
「酒だけではない」
 シャイターンはさらに言葉を続ける。
「煙草も吸わなかったし完全に菜食主義だった」
「ふむ。それは」
「禁欲的と言いましょうか」
「そう。ヒトラーは禁欲主義者だった」
 そのことをはっきりと言ったシャイターンであった。
「身の回りには財産はなかった」
「財産もですか」
「そもそも蓄財には興味がなかった」
 スターリンもそうであったがヒトラーもそうだったのだ。そういったものには一切興味がなかったのが彼等の人間的な特徴の一つなのだ。
「女性に対しても清潔だった」
「それは聞いております」
 従者の一人がここでまた述べた。
「確か。最期の時まで妻帯しなかったとは」
「ゲリ=ラバウルと結婚するまでな」
 シャイターンはこの女性の名前を出した。実は彼女のことはヒトラーの側にいた者ですら知らなかったのだ。ドイツ軍の将軍の一人であったグーデリアンはヒトラーの私生活について書く機会があったがヒトラーの側にいた時間の多かったその彼にしろこの女性の存在は知らなかったと書いているのだ。
「それまでは妻を持っていなかった」
「それでも女性からの人気は高かったそうで」
「そちらでもカリスマ的な人気があった」
 ドイツ人は熱狂的にヒトラーを支持した。それは崇拝に近いものだった。当然そこには女性の人気もあった。ヒトラーの下には常に彼を支持する女性達からのプレゼントが山のように積まれていたという。
「だが彼は生涯最期の時まで結婚はしなかった」
「そもそも女性にまつわる話も少ないですな」
「そういえば」
 従者達は言い合う。ヒトラーという人間について調べているとあまり女性については出ないのだ。彼はそういったことにはさして興味がなかったのだ。
「彼は母なるドイツと結婚した男だと言っていた」
「母なる国とですか」
「だから最期まで結婚せず清潔だったのだ」
「そうだったのですか」
「それで」
「その服装も常に制服だった」
「それもまた質素ですな」
 服装もそれだけだったのだ。ナチスのあの制服を着ているだけでやはり服も質素なものであった。贅沢とは無縁の男であり続けていた。
「では結局ヒトラーの私生活というのは」
「至って真面目なものだった」
 結論はそれであった。
「酒も煙草もしない菜食主義者で尚且つ女性にも贅沢にも一切興味がなかったのだからな」
「そうです、確かに」
「そうなります」
「しかしだ」
 だがここでシャイターンは言うのであった。
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