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第九部第二章 虚の兵士達その一
                          虚の兵士達
 連合軍は遂に兵を動かした。そしてブラウベルグ回廊を通り一路ニーベルング要塞を目指していた。
 だがその先陣を行くのはサハラ義勇軍ではなかった。彼等はまだガンタース要塞群に留まっており、出撃準備をしているだけであった。
 それはエウロパの方からも確認された。彼等はそれを見て妙に感じていた。
「これは一体どういうことだ」
 ファブリチーニはそれを聞いて作戦会議室において腹心の部下であるゴンガーザ少将に問うていた。
「何故サハラ義勇軍を出さない。あれは彼等にとってこうした時に真っ先に来る軍ではなかったのか」
「何か事情があるのでしょう」
 ゴンガーザはそれに対してこう答えた。
「事情」
「はい。彼等はサハラの者です」
 それは最早言うまでもないことであった。だが彼はあえてそれを言った。
「それを考えますと何かったのかも」
「何か」
「そうです。軍の内部で彼等に対する運用で問題があったとか」
「問題が」
「暴動が起こり動かせない等。それで今は出て来ないのかも知れません」
「そうかな」
 だがファブリチーニはそれに対して懐疑的であった。
「連合軍は何か企んでいるのではないか」
「それは」
「今のところ私にもわからない」
 彼にもそれが何かまではわかってはいなかった。
「だがやはり何かあるだろう」
「はい」
「どちらにしろ兵がこちらに来ているのは事実だ。これは何とかしなくてはならないことに変わりはない」
「それはわかっております」
 ゴンガーザはそう答えた。
「既に前面に機雷を配置しておきました」
「早いな」
「これでまずは彼等の動きを止めましょう。そして彼等がそれを避けて回り込んだところを艦隊で叩くのです」
「その際の指揮はジェラール元帥だな」
「はい」
 フィリップ=ド=ジェラール、フランスの子爵家の出身であり階級は元帥である。このニーベルング要塞群の艦隊司令である。
「彼に任せるか。だが」
 ファブリチーニは自分で話をしながらふと考え込んだ。
「彼に直接話を聞きたいな。今から行くぞ」
「どちらにですか」
「彼のところへだ。決まっているだろう」
「わかりました」
 こうして二人はジェラールのいる港の艦隊司令部に向かった。彼はそこに待機している筈なのである。事前に確認の電話をとったところいるとのことであった。彼等はそれを受けてこちらに来た。
「司令はいるな」
「はい」
 出迎えに来た若い将校がそれに応えた。
「こちらです」
「うむ」
 二人は司令室に案内された。そこには黒い髪にやや黄色い瞳の中年の男がいた。綺麗に切り揃えられた口髭が印象的であった。
「ようこそ、我が司令部に」
 ジェラールは二人が部屋に来ると敬礼をして出迎えた。
「司令、お待ちしておりましたぞ」
 エウロパにおいてはニーベルング要塞群の司令はその駐留艦隊司令よりも地位が高い。同じ元帥の階級であるが席次によりそう決められているのだ。
「うむ」
 ファブリチーニはそれを受けて返礼した。後ろにいるゴンガーザは礼はしない。上官が返礼をしたからであった。これは連合でも変わらない敬礼の仕方であった。
「ゴンガーザ少将」
 ファブリチーニは彼に顔を向けた。
「はい」
「卿は少し席を外してくれ。いいな」
「わかりました」
 彼はそれを受けて敬礼した。そして部屋を後にした。二人の元帥が残った。
「さてと」
 ファブリチーニは二人になったところでいささかリラックスした声を出した。
「これで話し易くなったな」
「ああ」
 ジェラールもであった。彼等は和んだ顔になってまずは応接のソファーに向かい合って座った。
「コーヒーはいるか」
「そうだな」
 ファブリチーニはジェラールに問われて考え込んだ。
「お茶菓子によるな」
「クッキーがあるぞ」
「お、いいな」
 彼はそれを聞いて顔を綻ばせた。
「私の好みを覚えておいてくれたか」
「残念だが卿の好みに合わせたのじゃないぞ」
「というと」
「妻の好みだ」
「では私の好みと同じようなものだな」
「全く、兄と妹でそうした好みまで似るとは思わなかったぞ」
「そういうものだ。一緒のものを食べていたからな、子供の頃は」
 ファブリチーニは笑いながらそう言った。
「あれの焼いたクッキーは美味いだろう」
「それがこれだ」
 ジェラールはそのクッキーを見せながらファブリチーニに対して言う。
「わざわざこっちまで持って来たんだ。まあゆっくり話をしながら食べよう」
「ああ」
 実は二人は士官学校において同級生であった。同じ寄宿舎の同じ部屋で暮らしていたこともある。昔馴染みの戦友であったのだ。
 それだけではない。ファブリチーニ家とジェラール家は縁戚関係にあった。ジェラールの妻はファブリチーニの妹であるのだ。エウロパ貴族の特徴である婚姻により互いの結び付きを強めるというものであった。だがこれは双方の若き主達が互いに戦友であることも大きく関係していることから普通の貴族の婚姻ではなかったのである。それは二人の会話からも伺い知れることであった。
 二人はジェラールが入れたブラックに砂糖とクリームを入れ、それからクッキーを口にした。固い歯触りと甘い味が口の中全体に漂う。
「どうだ」
「うむ」
 ファブリチーニはクッキーを味わいながら答える。
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