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第九部第一章 星の大海にてその四
「あの艦については色々と知りたいからな。だが多くは見られないだろう」
「でしょうね」
 軍事機密をそうおいそれと渡すことは有り得ない。例え同盟国の関係であってもだ。
「装備だけでないからな、兵器というのは」
「はい」
「そうした電子設備等も重要だ。それに」
「それに」
「構造もだ。観戦武官の中に技術者は入れているか」
「いえ」
 彼は首を横に振った。そこまで考えは至らなかったのだ。
「それではすぐに入れておけ。それもかなりの数をな」
「わかりました」
 将校といってもその職種は色々あるのだ。パイロットもいれば技術者もいる。ただ戦場において指揮をするだけが将校の仕事ではないのである。
「彼等にはあの艦の技術について詳しく見てもらう。よいな」
「はい」
「そしてだ」
 クリシュナータの言葉は続く。
「補給についてもよく研究するようにな。これはとりわけ重視したい」
「補給ですか」
「あれだけの規模の軍を動かすとなるとかなりのものとなる。連合軍がそれをどうするのか。興味がある」
「そうなのですか」
「今後の我が軍の補給についても参考になるかも知れん。よいな」
「はい。ではそちらも」
「うむ」
 クリシュナータはラーンチの返礼を受けて頷いた。
「それにしてもだ」
 しかしまだ終わりではなかった。彼の言葉は続く。
「何でしょうか」
「連合では軍の人気はあまりないというが」
「職業としてはそうですね。他にも多くの職がありますから」
「それだ。彼等はカーストによって職が決まっているわけではない」
「はい」
「我々とはそこが大きく違うのだな」
「その通りです」
 ラーンチはそれに答えた。マウリアはインド文明を受け継ぐ国家であり、カースト制もまだ残っている。人の職業はそれによっておおむね決まるのである。軍人となるのはクシャトリアというカーストに属する者達である。カーストは大きく分けて司祭階級であるバラモン、貴族や軍人の階級であるクシャトリア、商人の階級であるヴァイシャ、そして奴隷とされるシュードラである。ここで奴隷となっているが実際には平民といった意味である。異なるカーストの間では結婚や交際が認められていなかった。だがそれは流石に今ではない。またその下にある不可触民であるアウトカーストの者達もいるが彼等も存在している。だがこれはヒンズー教での話でありマウリアにも多くの宗教が存在する。ジャイナ教やシーク教もあるのだ。だがその多くがヒンズー教徒でありクリシュナータ達もそうである。だから彼等はここではヒンズーのカーストに沿った考えをしているのである。
「彼等は完全な志願制です」
「我等もそうだがな」
 しかしマウリアのそれはクシャトリア階級に限定されたものであるのだ。ヴァイシャやシュードラも志願することは可能であり、無論バラモンもアウトカーストもそうであるが彼等は大抵志願しない。カーストの関係でだ。
「ですが彼等の社会にはカーストがありません」
「そういうことだ」
 クリシュナータはそれがわかってあえてそう言ったのであった。
「それがいいか悪いかまではわからんがな」
「はい」
 ラーンチは頷いた。そして言葉を続けた。
「そういうことも見ていかなければならないと思いますが」
「そうだな。しかし」
「しかし・・・・・・何でしょうか」
「膨大な数だ。連合の人口を考えると当然だが」
「はい」
「六〇億にも達する。それだけの数を相手にエウロパは何処までやれるかな」
「おそらく負けるでしょう」
 ラーンチは冷徹な声でそう答えた。
「敗れるか」
「戦力差は歴然としております。エウロパは今総動員令を敷き戦力を拡充しておりますが」
「それでも限度があるな」
「そうです。連合とエウロパの人口を考えましても。やはり限度があります」
「エウロパにとってはやはりそれが最も問題になるな。これは前から言われてきたことだが」
「戦争は兵士だけでやるものではありませんから。国と国の戦争なのです」
「国力差は如何ともしがたい。これは我々にも言えるな」
「はい」
 マウリアの人口は公表で二千億である。これは一つの国家としては最も多い。連合は多くの国家の連合であり、エウロパもまたそうである。連合において中国の人口は一千五百億、アメリカは八百億、ロシアは六百億、日本が三百億となっている。インドネシアやメキシコで四百億である。人口がすぐに国力となるわけではないが彼等でも人口はその程度である。中国の人口はかっては世界人口の約五分の一程であった。だが二十世紀後半から二十一世紀の人口抑制政策等でそれが変わり今では一千五百億となっている。アメリカやロシアは逆に多産を奨励し、人口が増加したのだ。とりわけアメリカは多くの移民を受け入れたことも大きかった。日本も二十一世紀は少子化に悩んだが今ではそれは解消された。これには子供の多い家庭に何かと経済的な便宜を図る政策と開拓により多産が奨励されたからである。連合において多産が奨励されるのは開拓政策の為多くの人手が必要なせいでもあった。エウロパがその領土の狭さ故に人口抑制政策をとらざるを得なかったのとは対象的であった。
 マウリアは二十一世紀に世界人口のトップとなった。それからも世界人口においては第一であり続け、それは今でも変わりはしない。今では実際の人口は二千億どころかそれに三百億、人によっては五百億は多いのではないかという説もある。正確な人口はわからないのである。
「一つの国家として我等が最も国力も人口も多いとしても」
「連合自体には到底適いません」
「そうだ。だからこそ我々は彼等と同盟を結んできた。今までな」
「そしてこれからも」
「それはどうかな」 
 だがクリシュナータはそれには首を縦に振らなかった。
「それはどういうことですか」
「同盟とは双方の合意において為されるものだ」
「はい」
「我々が望んでいても彼等が望んでいなくてはどうなる」
「それは・・・・・・」
 ラーンチはその言葉に声を失った。答えることができなかった。
「これは逆も言える。我々が同盟を望んでいないならば。彼等が同盟を望んでいても。それでも同じことになる」
「はい・・・・・・」
「最もそれは今のところ有り得ないがな。両方共」
 クリシュナータはそう言って微笑んでみせた。
「彼等もまず我々と対立する道は選ぶまい。エウロパですら併合するのは無理だ」
「はい」
 連合の三十分の一といっても一千億もいるのである。一千億もの全く文化も風習も異なり、しかも長い間敵対関係にあった者達を組み入れるとそれによる社会的混乱は深刻なものとなるのが確実であった。それを考慮するとなると併合は無理であった。

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